革命への前進
日々深刻さをます温暖化に終止符を打つため人類がたどり着いた結論は、地球を人工的に冷やすことだった。だが、それは予想を裏切る結末をもたらす。大気圏上層に散布された人口冷却物質「CW-7」は気温を一定に留める当初の目的を超え、新たな氷河期を到来させてしまう。地球を凍てつく寒さがおおい、あらゆる文明が氷の結晶と化したとき、人々に残された唯一の生存方法は、精密な機械制御によって生存に必要な一切を備えた列車「スノーピアサー」に乗り組むことだった。人類をはじめとするあらゆる生命を氷河の時代から保護するこの“ノアの方舟”はしかし、強烈な社会格差を孕んでいる。ヒエラルキーは各車両の位置に対応し、最後尾の車両に生きる人々は前方車両の支配の下に奴隷のような暮らしを強いられている。
そんななか、青年カーティス(クリス・エヴァンス)は蜂起の時機をひそかにうかがっていた。指導者ともいうべき長老ギリアム(ジョン・ハート)に指示をあおぎながら、彼は革命の準備を進める。目下の目標は、いくつか先の車両にある監獄セクションにいるセキュリティの達人韓国人ナムグン・ミンス(ソン・ガンホ)のもとへ行くことだ。乗客のなかで彼は唯一スノーピアサーのセキュリティシステムを把握しているらしい。だが、どのようにして監獄セクションへ到達するのか?機関銃を構えた兵士の目を盗み、厳重に管理された鉄の扉をいくつもくぐり抜けることなどできるのか?縦一直線にのびる列車のなかにわき道などない。前方車両へと進むための唯一の手段、それは目の前の障碍(しょうがい)へ真っ向から突進していくこと。しかし、それは自殺行為ともいえる。革命の準備を日々進めつつもカーティスはそれを実行に移すことができないでいた。
だが、ある時兵士たちのやりとりを見ながらカーティスはひとつの推測をたてる。兵士たちがさげている機関銃に弾丸は装填されていないのではないか?これまでに度々試みられた革命はそのたびに失敗におわったが、その過程で兵士たちは銃弾を使い果たしたのではないか? いつものように人数確認の点呼をとりにきた兵士たち。整列させられた人々のなかから突如だれかが大声をあげる。目の前の兵士に駆け寄るカーティス。動揺した兵士が向けた銃口。カーティスは自らその引き金を引く…「カチッ」という音とともにあきらかになる機関銃が未装填だったとい事実。ついに、一斉蜂起の時がおとずれた。もはや後戻りはできない。未だ見ぬ先頭車両へ向かって彼らは前進していく。
果てしない円周の向こうに
「前進」という革命達成の条件、それは登場人物たちを極限的な状況におくことになる。一切の駆け引きがゆるされない状況で、登場人物たちは目の前の敵に真っ向から体当たりすることしかできない。当初、尽き果てたと思われていた銃弾もじつは残っていて、中間車両では機関銃による過酷な攻撃が彼らを待ち受けている。その過程で、カーティスは大切な仲間を失うこともあるだろう。だが、選択の余地はない。彼に残された道はひとつ、前に進むこと。世界の縮図のような各車両の光景を横目に、彼はただひたすら前へと歩みを進めていく。悲しみの涙さえ乾ききった頑なな眼差し…それは見る者の本性に訴えかける。
多くの犠牲を払いやっとの思いでカーティスは先頭車両へと続く扉の前にたどりつく。だがその扉を開けたとき、カーティスを深い絶望が襲う。それまでの道程の意味を根こそぎにする真実。はたして、彼の「革命」は本当の意味で革命だったのか?それは一年という時をかけて地球をやっと一周するスノーピアサー号の円周のように、たんなる「繰り返し」の摂理の一部だったのではないのか?彼はあらためて「革命」の意味を自分に問うことになるだろう。彼はそこでどのような決断を下すのか?
ポン・ジュノはその結末にあらゆる解釈の可能性を残している。しかし、ひとつたしかなことがある。それは、繰り返しや反復のなかで変化は起こらない、ということ。革命の目指す世界の解放はスノーピアサー号の円周を抜け出た先でおとずれる。
『スノーピアサー』
出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、ジョン・ハート、エド・ハリス
原作:「LE TRANSPERCENEIGE」ジャン=マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルグランド、ジャック・ロブ
脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン
2013年/韓国、アメリカ、フランス/125分
配給:ビターズ・エンド、KADOKAWA
2014年2月7日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー