お蔵入りしていた『のんき大将 脱線の巻』や、
劇場未公開『パラード』の上映も。
2014年4月12日(土)より渋谷『シアター・イメージフォーラム』にて公開中の『ジャック・タチ映画祭』。たとえジャック・タチという名前を知らなくても、TVCMやサントラを通じて軽快な『ぼくの伯父さん』(’58)のテーマ曲を耳にしたことのある人はきっと多いはず。ミュージックホール出身で、喜劇役者としても活躍したタチは、よれよれのトレンチコートに靴下がのぞく短いズボンをはき、パイプをくわえて前のめりにヒョコヒョコ歩く「ユロ氏」という愛すべき「伯父さん」を生み出しました。
今回の映画祭では、1982年に75歳で亡くなるまでの間にタチが製作した6本の長編作品と、監督・脚本などを手掛けた短編6本、そして、娘のソフィー・タチシェフによる、父ジャックへの愛がたっぷり詰まった短編作品が、デジタルリマスターされた「決定版」として甦ります。
これまでにもジャック・タチ監督作品の特集上映は数年周期で行なわれてきましたが、初の長編作品から65年を迎えた今回の映画祭の最大の特徴は、遺作となったテレビ作品『パラード』(’74)をはじめ、短編の『乱暴者を求む』(’34)、『陽気な日曜日』(’35)、『フォルツァ・バスティア’78 祝祭の島』(’78)と、『家族の味見』(ソフィー・タチシェフ監督作品 ’76)が日本で初めて劇場公開されるということ。

日本では劇場初公開『パラード』 出演:ジャック・ タチ、カール・コスメイヤー&雌ラバ、ウィリアムズ一家ほか。1974年 / カラー / 90分 / 日本語字幕:関美冬 フランス映画大賞受賞、モスクワ映画祭金賞受賞、ロンドン映画祭年間優秀作品選出

コマ落ちしたフィルム4分を復活させて上映の『トラフィック』出演:ジャック・タチ、 マリア・キンバリー、マルセル・フラヴァルほか。1971年 / カラー / 97分 ニューヨーク映画批評家協会年間ベストテン選出、イタリア国民賞受賞、ロンドン映画祭年間最優秀 作品選出、フィンランド・クンニアキルヤ賞受賞
私は2003年当時、渋谷の『東急文化会館』(現在のヒカリエ)にあった映画館『渋谷パンテオン』が取り壊される直前に、一夜限りの特別企画として開催した『プレイタイム』(’67)の70ミリ上映会の実施に携わっていた経緯もあり、今回の『ジャック・タチ映画祭』でも、裏方として、字幕チェックの作業などを担当させていただいたのですが、字幕製作という観点からも、今回の映画祭の特徴を垣間見ることができました。具体的には、仮ミックスという素材で字幕の言い回しやタイミングに問題がないかチェックを行ない、翻訳者さんとすり合わせをしていく作業になります。今回新たに翻訳した未公開作品はもちろん、過去に公開された作品についても、『のんき大将』などで17分長くなったシーンに新字幕を入れたり、デジタルリマスターによってクリアに聞き取れるようになったセリフや、背景に写りこむ看板などの訳を追加したりをチェック。そうしているうちにタチ作品の魅力を新たに発見できる新素材として生まれ変わっていることに気づきます。

『プレイタイム』は、ひとつの画面上で同時にいろんな事象が起きていて、どこに視点を合わせるかによって、何通りもの楽しみ方ができます。
当然、字幕製作の作業の過程で何度も繰り返し同じ場面を見ることもあるのですが、タチ作品は、見れば見るほどその世界の奥深さを思い知らされるという、なんとも不思議な映画なのです。中でも『プレイタイム』にいたっては、一つの画面上で同時にいろんな事象が起きていて、どこに視点を合わせるかによって、何通りもの楽しみ方ができます。いたるところに登場する、ユロ氏の影武者を数えてみるのもよし、タチ映画独特の後付けされた現実にはない音に意識を集中させるもよし。とはいえ、肩肘張って眉根をひそめてみるような難しい映画でもないんです。リラックスしながらクスクス笑って見るのが、タチの映画には合っています。タチ流のユーモアとエスプリ溢れる視点で、「人生なんて遊びの時間(プレイタイム)」と思えるようになったら、どこか退屈に感じていた自分の日常でさえも、ほんのちょっと色付いて見えることでしょう。
長編と短編セットで見たい『のんき大将 脱線の巻【完全版】』&『郵便配達の学校』、
『プレイタイム』&『ぼくの伯父さんの授業』

『のんき大将 脱線の巻【完全版】』出演:ジャック・タチ、ギィ・ドゥコンブル、ポール・フランクール、サンタ・レッリほか。監督:ジャック・タチ 1949年 / 白黒 / 87分 / 日本語字幕:寺尾次郎 ヴェネチア映画祭最優秀脚本賞受賞、フランス映画大 賞受賞。未公開シーン17分を含む完全版で上映されます。

短編『郵便配達の学校』出演:ジャック・タチほか 監督:ジャック・タチ 1946年 / 白黒 / 16分 / 日本語字幕:寺尾次郎/ 『のんき大将 脱線の巻【完全版】』 、『フォルツァ・バスティア78/祝祭の島』との併映。

『プレイタイム』出演:ジャック・ タチ、バルバラ・デネック、ジョルジュ・モンタンほか。監督:ジャック・タチ 1967年 / カラー / 124分 / ビスタサイズ / 日本語字幕:寺尾次郎、パリ映画アカデミー大賞受賞、モスクワ映画祭銀賞受賞、ウィーン映画祭大賞受賞

『ぼくの伯父さんの授業』出演:ジャック・タチ、マルク・モンジューほか。監督:ニコラス・ リボウスキー 1967年 / カラー / 29分 / 日本語字幕:柴田香代子 『左側に気をつけろ』、『ぼくの伯父さんの休暇』との併映になります。
さらに、タチ作品の楽しみ方をもう少しお話しますと、それは、長編に併映される短編と組み合わせて見ることなんです。同じセットが別作品で使われていたり、一見同じように見えても実は背景が書き割りだったりと、一粒で2度美味しい、といった「気付き」に出会えます。
その一番顕著な例は『のんき大将 脱線の巻【完全版】』と、『郵便配達の学校』(’46)です。陽気な郵便配達人のフランソワの奮闘ぶりが、いずれの作品でも繰り広げられるのですが、どこが同じでどこが違うのか、探しながら見ると「ドキドキ」します。また、『プレイタイム』と『ぼくの伯父さんの授業』(’67)も、両方見ることをぜひともオススメしたい組み合わせです。『ぼくの伯父さんの授業』を見ると、タチビル(街)と呼ばれる巨大セットの裏側まで楽しめること請け合いです。
なんといってもタチ作品の魅力は、世界で起こるあらゆることを、子どものような無邪気さで味わうことができること。まさに「ワクワク」という言葉がぴったりの、人生賛歌なのです。
『ジャック・タチ映画祭』上映スケジュール
4/12〜4/18 ①11:00〜 ④13:30〜 ③16:00〜 ②18:30〜
4/19〜4/25 ②11:00〜 ①13:30〜 ⑥16:00〜 ③18:30〜
4/26〜5/2 ⑥11:00〜 ②13:30〜 ①16:00〜 ⑤18:30〜
5/3〜5/9 ④11:00〜 ⑤13:30〜 ②16:00〜 ①18:30〜
プログラム
①『プレイタイム』124分
② 『家族の味見』、『ぼくの伯父さん』計130分
③『陽気な日曜日』、『トラフィック』計119分
④『乱暴者を求む』、『パラード』計115分
⑤『フォルツァ・バスティア78/祝祭の島』、『郵便配達の学校』、『のんき大将 脱線の巻【完全版】』計131分
⑥『左側に気をつけろ』、『ぼくの伯父さんの授業』、『ぼくの伯父さんの休暇』計132分
『ジャック・タチ映画祭』
開催中〜2014年5月9日(金)4週間限定 シアター・イメージフォーラムにて公開
© Les Films de Mon Oncle - Specta Films C.E.P.E.C.