国家によって隠された児童移民の真実を描く『オレンジと太陽』
1986年イギリス・ノッティンガム、ソーシャルワーカーとして働くマーガレットの元に、オーストラリアからやってきた「自分が誰なのか知りたい」という女性が訪ねてくる。彼女は、「4歳のとき、ノッティンガムの児童養護施設から船でオーストラリアへ送られた」という。ほかにも数百人の子供がいたとう彼女の言葉をにわかに信じられなかったマーガレットだが、隠されていた「真実」を探るうち国家ぐるみの壮大な隠蔽があることに気づく……。19世紀から1970年まで児童移民は続いていたのです。ここからマーガレットは真実を求め、「自分が誰なのか知りたい」人たちのルーツ探しを助け始めるのです。
この映画は事実に基づいた物語『からのゆりかご』に忠実につくられているにも関わらず、サスペンスフルかつヒューマンドラマのような生き生きとした映像。監督は社会派監督として知られるケン・ローチの息子ジム・ローチ。英国とオーストラリアがずっと隠し続けていた「児童移民」の真実と元・子どもたちのいまを、映し出します。奇しくもこの映画を撮影していた2009年、英国政府とオーストラリア政府は児童移民たちへの正式な謝罪を発表しました。
オーストラリアへ送られた元・児童移民を代表するのは、ひきさかれた姉弟の弟ジャックと、マーガレットになかなか打ち解けないレン。いまは40代になったふたりにはそれぞれに「自分が誰なのか」を知らずに生きることを自分なりに納得させてきた。中でもマーガレットとレンの特別な関係の描き方から、伝わってくる複雑な感情表現は観るものにさまざまな考え方を深く訴えかけます。
真実をリアルに描いているにも関わらず映像は美しく、登場人物はみな生気にあふれている新しいスタイルの社会派映画。ひとりの女性の活動が国を動かした瞬間を劇場でぜひ一緒に感じてください。
公開を記念して、原作『からのゆりかご』を3名にプレゼントします。
『オレンジと太陽』
監督:ジム・ローチ 脚本:ロナ・マンロ
出演:エミリー・ワトソン、デイヴィッド・ウェナム、ヒューゴ・ウィーヴィング
原作:マーガレット・ハンフリーズ著「からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち」
2010年/イギリス・オーストラリア/106分/カラー/Dolby digital/1:2.35/字幕:齋藤敦子/配給:ムヴィオラ
4/14(土)〜岩波ホールほか全国順次ロードショー
『からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち―』
著者:マーガレット・ハンフリーズ
訳者:都留信夫/都留敬子
発行:日本図書刊行会 発売:近代文藝社 価格:2,625円(税込み)
締め切り:2012年05月13日 (日)