
前号のヴァン・ビオロジック(オーガニックワイン)について補足
さて、前号のコラムでは、主にヴァン・ビオロジックについてご紹介しましたが、欧州の有機農法に関する規制についてもう少し補足を。新たな欧州規則の施行により、2012年のミレジムから栽培だけでなく醸造も、詳細な規定に適合していなければ、ヴァン・ビオロジックとは認められず、「EURO-LEAF」、「AB」ロゴを表記できないというルールとなっているのは、前号で説明させていただきました。では、2012年より前に生産されたワインで、栽培も醸造も新欧州規則にすでに適合していることが証明できる場合はどうなるのか、というと、遡及的に現行法のヴァン・ビオロジックであることが認められ、「EURO-LEAF」、「AB」ロゴを表記することが可能となっています。
一方で、2012年より前に生産されてワインで、栽培のみ規定に適合しているワインについては、ロゴの使用を完全に禁止されるというわけではなく、「有機栽培のぶどうから生産されたワイン」という限定的な文言を併記すれば、「AB」ロゴのみ表記し続けることが可能です。(2012年以降に生産されるワインにはこの措置は認められません。)また、2つのロゴについては、現行法のもとでは「AB」ロゴは補足にすぎず、必ず表記しなければならないのは、「EURO-LEAF」ロゴとなります。フランス人にとっては「AB」ロゴの方が馴染みが深いため、生産者がマーケティング上の理由などで希望する場合は、まだ認知度の低い「EURO-LEAF」と併記することが可能となっています。
ヴァン・ビオディナミック(Vin Biodynamique)の特殊な農法
プレパラシオンには500番から507番までの8種類があり、どんなものかというと、例えば、500番は「牛の角に詰めた牛糞」を冬の一定期間、土の中に埋めたもので、これに雨水を混ぜて、エネルギーを取りこむために撹拌させて畑に散布すると、土壌にエネルギーが伝わり、葡萄の根の強化に効果があるとされています。その他にも、丈夫な葡萄を育む理想的な堆肥作りのためのプレパラシオンとして、「鹿の膀胱に詰めたノコギリソウ=アキレーの花」(502番)、「家畜の頭蓋骨に詰めたオークの樹皮」(505番)などがあり、硫黄分や石灰分の供給など、それぞれ役割が異なります。プレパラシオンの構成物は、全て有機農法で栽培、飼育されたものでなければならないという決まりがあります。
また、ビオディナミ農法のもう一つの大きな特徴として、農作物の生育は、惑星の位置関係や月の満ち欠けなどに密接に関係しているという考えがあります。そのため、種まき、プレパラシオンの散布、収穫などの全ての農作業は、天体の運行の情報をもとに作られたビオ・カレンダーに沿って行われます。つまり、どの作業をどの日に行うかは、ビオ・カレンダーに基づいて決定されます。このように、プレパラシオン、天体の影響などと聞くと、謎めいていて神秘的な印象を受けますが、人工の化学物質やバイオテクノロジーなどのなかった昔の時代では、自然にあるものを肥料として使い、太陽や月、星を見ながら農作業を行っていたのでしょうから、昔の農法への回帰と言えるでしょう。
醸造にも様々な方針があるヴァン・ビオディナミック
栽培だけでなく、醸造に関しても、「葡萄果汁をワインに変える酵母は、培養酵母ではなく、葡萄が栽培される土地に自生する天然酵母を使用する」、「ほとんど清澄、濾過しない、」、「添加物を極力使用しない」などの様々な方針があります。添加物として特に重要視されるのが、酸化防止剤。好ましくない菌の増殖によるワインの劣化を防ぐために必要なものですが、ビオディナミではこれを必要最小限に抑える、さらには、または全く使用しないという試みが実践されています。ヴァン・ナチュールとも呼ばれるヴァン・ビオディナミックは、「酸化防止剤を全く使用していないワインだ」、という情報をよく目にしますが、そこまで徹底したワインはどちらかというと少数で、多くのワイン、特に輸出向けには、劣化を防ぐための最低限の量を使用しています。これらのビオディナミの方針をどこまで追及するかは、生産者の哲学によって異なります。ビオディナミを実践する生産者は、基本原則には準じながらも、自分が理想とするワインの生産に適した方法をそれぞれ探究しています。
ヴァン・ビオディナミックの認証に関しては、DEMETERやBIODYVIN、NATURE & PROGRESといった民間団体による国際的な認証がありますが、ヴァン・ビオロジックのような公的な認証ではありません。規定は団体=流派によって少し異なり、生産者は、自らが賛同する団体に加入し、その規定に基づいてワインを生産した場合、団体認定のロゴをワインに表記することができます。もちろん、これらの団体に加入していないビオディナミ生産者もいます。
ワインの新しい楽しみ方を提供してくれるビオワイン
こうした特徴が好きか嫌いか、好みが分かれるところですが、ビオワインというジャンルの定着により、ワインのバラエティーがさらに豊かになり、様々な個性的なワインを味わえる楽しみが増えたのは素晴らしいこと。色々と飲み比べて、自分の感性、味覚に合うワインに出会える幅が広がることは、これぞワイン文化の醍醐味という感じで、ワイン好きには嬉しい限りです。
パリでビオワインを楽しめるワインバー
Racines (ラシーヌ)
8 passage des panorama 75002 Paris /tel:+33 1 40 13 06 41
2区にある、19世紀のレトロなショッピング・アーケード内のワイン・ビストロ。ビオワインの品ぞろえも良いが、こだわりの食材の特徴を生かしたシンプルな料理も美味。有機野菜の料理が驚くほど美味しい。
La Crèmerie (ラ・クレムリー)
9 Rue Quatre Vents 75006 Paris/tel:+33 1 43 54 99 30
19世紀当時の乳製品専門店の装飾がそのまま残る店構えに魅せられて、2006年にマテュー夫妻が始めた、フランス産のヴァン・ナチュールの専門店。ワインの販売がメインだが、厳選した生産者から仕入れたチーズ、生ハム、フォワグラなどのタパスと一緒に、ワインをその場で楽しめる。食事前のアペリティフに最適。
Le verre volé (ル・ヴェール・ヴォレ)
ビストロ;67 Rue de Lancy 75010 Paris/tel:+ 33 1 48 03 17 34
ショップ;38 Rue Oberkampg 75010 Paris
東京、目黒に姉妹店がある老舗のビオワインを揃えたビストロ&ショップ。こだわりのビオワインを、フランスの伝統素材をアレンジした気さくなビストロ料理とともに味わえます。
Les pipos (レ・ピポ)
2 Rue de l’Ecole Polytechnique 75005 Paris/tel:+ 33 1 43 54 11 40
1847年にキャバレーとして誕生した、カルチェラタンの老舗のワインバー。いつも常連客で大賑わい。ワインの品ぞろえが豊富。料理は伝統的なビストロ料理で冬はカンカルの生牡蠣が食べられる。
L’avant comptoir (ラヴァン・コントワール)
3 Carrefour d’Odéon 75006 Paris/tel:+ 33 1 44 27 07 97
バスク料理の美味しいタパスを楽しめる立ち飲みのバー。ワインをグラスでいろいろ楽しめます。