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病院や小学校まで、砲撃にさらされるガザ市民 一気に泥沼化したガザの戦闘、 戦火にかすむ中東和平の道のり

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高橋和夫 一気に泥沼化したガザの戦闘、 戦火にかすむ中東和平の道のり

泥沼化するパレスチナ自治区ガザの戦闘。6月12日、ユダヤ人の3人の少年がヨルダン川西岸で拉致されて殺された。報復感情が高まる中で、翌月にパレスチナ人の少年が惨殺されユダヤ教宗教指導者らが逮捕される。状況は一気に緊迫した。半世紀を越えても中東問題に解決の糸口は見いだせず、和平交渉が行き詰まって封鎖が続いていたガザ地区で再び紛争が勃発した。

ガザからイスラエルに向けてロケット弾が発射され、イスラエルは7月8日に空爆を開始。それからわずか9日後にはイスラエルのネタニヤフ首相は地上軍の侵攻を決定する。ケリー米国務長官の必死の説得もむなしく停戦は長続きせず失敗。ガザの死者は1800人を超え、なおもイスラエルの激しい攻撃にさらされている。対するイスラエル側の死者は兵士64人を含む67人(8月4日現在)。

イスラエルを批判する国際世論の声は高まっているが、ネタニヤフ首相は強硬な姿勢を崩さない。8月に入り地上軍の大部分は撤退を開始したが、依然として空爆が続く。泥沼化する戦闘に解決の糸口はあるのか。中東問題に詳しい放送大学の高橋和夫さんに聞いた。

■高橋和夫 プロフィール

(たかはし・かずお) 放送大学教授。米コロンビア大学大学院修了(国際関係論・哲学修士)。桜美林大経済学部非常勤講師、学習院大法学部非常勤講師等を経て、現職。日本における中東研究・中東政治の第一人者として鋭い分析と解説を行い、テレビやラジオなどでも活躍中。著書に『アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図』、『一瞬でわかる日本と世界の領土問題』、『イランとアメリカ 歴史から読む「愛と憎しみ」の構図』など多数。

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3人の少年の拉致事件を
徹底的に利用したネタニヤフ政権

—今回、紛争が一気に激化した背景には、どのような状況があったのでしょう。

高橋:これまで、アメリカのケリー国務長官が和平交渉を続けていましたが、何の成果も上げられずにいました。そんな中、今年の6月に、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府のアッバース議長が、ガザ地区を治めるハマスと組んで連立政権を発足させました。

この合意は、出口のなくなったヨルダン川西岸のアッバース議長と、ガザ地区の完全な封鎖で経済も悪化し、人気も今ひとつというハマスの双方が妥協した結果です。ハマスからは閣僚を入れずに専門家集団だけで構成して、ハマス色の薄い連立政権をつくるということで合意に至りました。

—ヨルダン川西岸を治めるファタハと、ガザを治めるハマスという、2007年以来続いていたパレスチナ自治区の分裂が解消に向かったわけですね。

高橋:そうなると、国際社会ではこの連立政権と付き合おうという雰囲気が出て来ます。それに対してイスラエルがやや焦っていたという状況ですね。ハマスはテログループであり、テログループが入っている政権は承認できないというのがイスラエルの立場ですから。こうした動きにイスラエルは政治的な危機感を抱いていた。そこに、ヨルダン川西岸のヘブロンで、ユダヤ人の少年3人が誘拐されるという事件が起こります。

***

—ハマスによる犯行であるとイスラエルは断定しました。

高橋:それについては、かなりの議論があります。専門家筋では、ハマスの関係者がやったのかもしれないが、ハマスが命じたわけではないだろう、と言われています。現場のハマスの人間が勝手に走った、あるいは、それですらない(ハマスの関係者が関与もしていない)と言われているのです。

ハマスであれば、囚われている自分たちの仲間と交換するための人質であるはず。3人の人質をとったとたんに殺してしまったというのは、いかにも素人っぽい。しかもその状況が、3人の少年のうちの一人が警察に電話をかけたために、このままでは捕まってしまうから急いで殺して逃げよう、というものでした。用意周到なハマスのやったことだとは到底思えません。

一方で、イスラエルのネタニヤフ首相は、この機会を利用してヨルダン川西岸のハマス勢力を壊滅させようと考え、いろいろなところに捜査に入ってハマスの活動家たちを一斉に逮捕します。その数は600人以上にのぼりました。しばらくしてから遺体が見つかりますが、遺体が出て来るまでの間は、「少年を救え」とイスラエルの世論が一気に盛り上がったわけです。

実は、少年たちがすでに死んでいたことを、イスラエル政府は最初から知っていたはずなのです。少年が警察に電話をした時、警察のミスによってこのときにはきちんと対応できなかったのですが、その電話が生きていて、話した直後に銃声が聞こえていた。この記録が録音で残っていたのです。しかし、ネタニヤフは少年の家族にもその事実を教えず、世論を煽り、ハマスの組織を潰すべく時間稼ぎをしていたのです。

その後、パレスチナ人の少年1人が殺害されます。しかも、油を飲まされて生きながら火をつけられて焼き殺されたのではとの検視結果が報告されました。双方の対立が激しくなります。そしてガザからイスラエルに向けてミサイルが飛ばされたわけですが、それもハマスが撃ったのかどうかは分からないのです。ガザにはハマスのほかにイスラミック・ジハードという組織もあり、このジハードが撃ったのではないかと言われています。

というのも、ハマスとイスラエルの間には停戦協定が結ばれていたからです。お互いに撃たないよう努める。もしもお互いに強硬な姿勢を示す必要がある時には、ハマスはイスラエル人がいないところに撃つ、イスラエルはパレスチナ人がいないところを爆撃する。日本のヤクザの出入りみたいなものです。この協定があったため、ハマスの治安部隊は他のグループが撃つことのないように抑えていたのですが、イスラエルの少年が殺されイスラエルが報復に来るはずだと、ハマスの治安要員がみな地下に潜ってしまった。そこで、これまではハマスに抑えられて撃たせてもらえなかったジハードが(最初のロケット弾を)撃ってしまったのではないか、というのが一番説得力のある説だと思います。いずれにしても、向こうが撃ってきたからには、イスラエルも攻撃せざるを得ない。となるとハマスも黙っているわけにもいかないから、ロケット弾を撃ち返す。そこで、今の泥沼に入ってしまったといえます。

***

—ケリー米国務長官の和平交渉は、なぜ行き詰まっていたのでしょう。

高橋:イスラエルが譲るつもりがないのですから、ケリーが一人で頑張ったところで事態が動くはずがない。イスラエルを説得する材料を何も持っていないのに、ケリーは何を根拠に頑張っているのだろう、というのが周囲の大方の見方でしたね。オバマとしても「やりたいのなら、ケリーが勝手にやれよ」という気持ちでしょう。オバマ自身は一度も交渉に出て来ていませんから。ケリーは、正論で世の中が動くと思っている、その意味ではいい人なのだろうと思いますが……分かっていないと思います。

—少年の拉致という事件がきっかけになったとはいえ、近年のイスラエルは、依然として強硬派の声が強い状況だったのでしょうか?

高橋:おそらく、イスラエル国民の過半数は静かに平和に暮らしたいと思っているはずです。しかし、過激な人が頑張ると、政治というのは動いてしまうものです。占領を続けても何のコストもないわけですし、強硬派の声は根強いですよね。そして、ロシアから来た移民の多くが強硬派です。

ソ連が崩壊する前後、何百万人単位でロシア系ユダヤ人がイスラエルに入植しました。ロシアのユダヤ人の多くは渡米を望んでいたのですが、アメリカは、彼らが渡米しづらいように移民法を変えてしまった。入植地をさらに広げていくために人口を増やしたいイスラエルが、アメリカにプレッシャーをかけた結果の移民法改正です。ロシアから来たユダヤ人たちは、それまでの経緯をほとんど知らないままイスラエルに入植し、人種差別的な感覚が強い傾向にある。極右政党「イスラエル我が家」の党首で外務大臣のリーバーマンはその典型ですね。

国民の多くが入植を進めたいと思っているわけではないのですが、それを声高に主張する人たちが内閣にいて、今でもパレスチナの土地をどんどん奪ってユダヤ人が移り住んでいる。それを止めない限り交渉できないとパレスチナは言っているわけです。しかし、そう主張する間にも土地はどんどん奪われている。

よくパレスチナ人が言うのは、「ピザを二人で分ける話し合いをしようとしているのに、片方が食べ始めている」という状態。食べるのをやめないと、話し合いができないですよね。しかも、もうピザもあまり残っていない。

 
封鎖によってギリギリの生活を強いられてきた
ガザ市民が暮らす「天井のない監獄」の現実

—今回のイスラエルの攻撃の目的はトンネル破壊にあるといわれていますが。

高橋:ガザ地区のトンネルは、イスラエル方面とエジプト方面の2種類あります。ガザは北側と東側がイスラエルと、そして南側をエジプトと接していますね。エジプトがムバラク政権の時は、このトンネルから人や物資が出入りするのを見て見ぬふりをしていました。アラブの春以降、ムスリム同胞団のモルシが大統領に就任、当時はトンネルから頻繁に人も物も流通してガザの状況は落ち着いていました。しかし、昨年クーデターによってエジプトの大統領となったシシはイスラエル寄りで、このトンネルを潰してしまったのです。

今、イスラエルが潰すといっているのは、ガザからイスラエルに入ってくるトンネルですね。イスラエルは、テロリストがイスラエル人を殺しに来る、だからそれを潰すのだと主張している。ゲリラが出て来る映像も公開しています。しかし、これらのトンネルは昔からあったもので、今になって発見したわけでもありませんから、これが攻撃の理由になるかというと、言い訳に近いように感じます。

***

—今、ハマスはパレスチナ人に、どの程度支持されているのでしょう。

高橋:この戦闘が始まる前は、支持がかなり落ち込んでいたと思います。6月に西岸のアッバースがハマスと連立政権を組んだのも、次に選挙をやればハマスが負けるかもしれないという読みがあったから。そうなれば、ハマスを合法的に権力から追い出せると考えていたはずです。ところが、これだけパレスチナ人が殺されてもハマスしか抵抗しないとなると、民衆はハマスにしがみついていきます。

—ヨルダン川西岸のアッバース議長も、一応、強くイスラエルを批判しているように見えますが?

高橋:パレスチナ人にとっては、何もしていないに等しい。あるいは、イスラエルと共謀しているとしか見えない。これまでのアッバースは、イスラエルとは武装闘争はしないと声明を出し、パレスチナの警察を使ってパレスチナ人のゲリラ活動を抑えてきました。それが、今やメンツ丸つぶれですね。パレスチナ人がこれだけ殺されている中で、何もしないのですから。

—それでは、次の選挙ではアッバースのもくろみは外れて、ハマスが勝利するという可能性も?

高橋:泥沼の戦争状況が続いていますから、今や選挙どころではありません。

高橋和夫 一気に泥沼化したガザの戦闘、 戦火にかすむ中東和平の道のり

—空爆前のガザが置かれていた状況は?

高橋:東京23区の6割くらいの面積のところに、180万人が住んでいるわけですが、その大半は、今のイスラエルから難民として逃れてきた人とその子孫です。だからガザは難民密度が非常に高い。一方のヨルダン川西岸地区は、もともとそこに住んでいた人たちが多いのです。ガザの人々の方がもう失うものは残っていないとの感情が強いといえます。

2006年にハマスが選挙で圧勝して以来、イスラエルがガザ地区を封鎖してしまいましたから、物も入らないし輸出もできない。人々は飢え死にしない程度のギリギリの生活を強いられています。電気も十分でなく、水の処理もできないため水道水も飲用には使えない状態です。地下水をくみ上げているけれども、どんどん海水が入って来てしまったりと、生活環境は劣悪になってきています。失業率も4割にのぼります。貧困ライン以下の生活者が6割に達します。つまり、6割の人たちが国連の物資でかろうじて食べられている状況です。今のガザに、希望は全くありません。天井のない巨大な監獄、といわれていますが、まさにその状態です。

—ガザ地区が封鎖されているのは、過激派であるハマスが実効支配しているせいだ、というようなイメージがありますが。

高橋:メディアがガザのことを「ハマスが実効支配する」という枕詞で報じますね。これでは、何か暴力団が支配しているかのような、本当は支配してはいけないというイメージになってしまう。しかし、ハマスは選挙に勝っているんです。「日本を実効支配する自民党は」なんて言いませんよね。
ハマスが選挙に勝った時、ヨルダン川西岸のファタハが権力を渡すまいとして、ハマスを武力で抑えようとしたのですが、ハマスの方が強くて失敗に終わります。その意味で「実効支配」という言い方は嘘ではありませんが、選挙に勝ったのですからハマスの方に正統性があります。パレスチナ市民が選んだ政権であるという前提が、日本などの報道では欠落しているように感じます。

 
ネタニヤフを包囲する国際世論と
イスラエル・ボイコット運動

—国際世論は、イスラエルとハマス双方へ停戦を呼びかけつつ、イスラエルの非人道性に抗議する声が大きいですが。

高橋:「国際世論の圧力には屈しない」とネタニヤフが、わざわざ発言しています。ということは、今、彼自身は国際世論の圧力を強く感じているということです。この度、国連安保理が、即時停戦を求める議長声明を全会一致で出しました。アメリカが拒否権を使わずに同調したのは大きいと思います。

—イスラエルの肩を持たなかった。

高橋:そうです。世論の喚起の背景には、ツイッターなどソーシャルメディアの影響は大きいですね。ニューヨークタイムズなどのアメリカの既存メディアは、イスラエルを支持する人の影響力が強いので、情報はコントロールされてしまう。しかし今や、ツイッターなどでガザの子どもたちが次々と殺されている現実がどんどん出て来ますから、メディアも報道するしかない。大手メディアがコントロールできる状況ではない。だから、ニューヨークやシカゴなど、ユダヤ人の影響力が強いと思われていた場所でも、ガザ攻撃に抗議して、かなり大きなデモが行われていますよね。

ケリー国務長官が「Foxニュース」のインタビューを受けた際、マイクが切れていると思って、「これのどこがピンポイント爆撃だ(市民がたくさん死んでいるというのに)」という発言をしました。日本のメディアが報じたか分かりませんが、そうした情報が一気に流れましたね。アメリカの偉い人たちも、立場上言えないだけで、みんなそう思っているんですよ。

—日本政府の立ち位置は?

高橋:アメリカと同じく、ハマスはテロリストだから付き合わない、とこれまで全く無視してきました。しかし、ガザを治めているのはハマスですから、ハマスと付き合わないことには、話は先に進めません。しかし、外務省は頑なにアメリカと足並みを揃えていますね。

***

—でも、日本はこれまで比較的中立的な立場を保ってきたので、中東には反日感情がないといわれますが。

高橋:振り返りますと、1973年までの日本の立場は、「国連決議に基づく平和を求める」でした。しかし、これは何の立場も表明していないに等しかったのです。1967年の第三次中東戦争が終わった時、国連安保理で決議242号が採択されます。67年の戦争の時、ガザやヨルダン川西岸地区をイスラエルが占領したわけですが、この決議242号では、「イスラエルの占領地からの撤退を求める」という文言があるのです。日本政府はそれを支持しているというのですが、この242号が実は非常に玉虫色の決議だった。

この決議のテキストはフランス語版と英語版の2種類作られました。どちらも正式な外交文書なのですが、英語版は、占領地の前に定冠詞の「the」が付かず、フランス語版は、占領地の前に定冠詞の「les」が付いていました。文法的に、定冠詞がついていない占領地は、必ずしも占領地全部を意味せず、占領地の一部から撤退すればよいと解釈できる。一方のフランス語版は定冠詞がついているから、明らかに全占領地からの撤退を意味するというものでした。
なぜこのような2通りのテキストが作られたか。イスラエルの外交官は英語版を見せて、「勝った勝った」と主張し、アラブの外交官はフランス語版を見せて、こちらも「全占領地からの撤退を求める文言を獲得した」と主張するための、双方の妥協の産物だったのです。だから、日本政府が「安保理決議を支持する」と言っても、どちらの解釈を支持するのかを明確にしなくては、意味がありません。

73年の第四次中東戦争の際、日本はアラブから石油ボイコットの対象にされ、どちらの安保理決議を支持しているのかと詰め寄られ、イスラエルの全占領地からの撤退を求めるという声明を出して、アラブ寄りを鮮明にします。そのことを求めつつ、その後、何もしていないのですが。

高橋和夫 一気に泥沼化したガザの戦闘、 戦火にかすむ中東和平の道のり

—日本が中東和平のためにできることは?

高橋:日本人はすぐそういう言い方をしますが、日本が何か動いたところで、事態が動くほど甘くはありません。とはいえ、アメリカとは違う動きをすることは意味があると思います。市民によって選ばれている以上、ハマスと付き合わざるを得ないと誰もが分かっているのですが、アメリカはユダヤ人のプレッシャーがあるために動けずにいる。そういう中で、日本がハマスと付き合い始めれば、アメリカの政権が動く時、「日本もやっているのだから」と動きやすくなるはずです。かつてのアメリカは、パレスチナ解放機構ですらテロリストだからと付き合おうとはしませんでした。日本やヨーロッパが先にアラファト議長と親交を深めていったわけですが、アメリカが政策を変える際に「ほら、日本やヨーロッパもやっているから」という説得材料になったのです。

中東の平和を求める気持ちは日本もアメリカも同じであるからこそ、違うことをやっているほうが意味はあると思います。現状として、アメリカはハマスとは付き合うべきではないと言うしかないのですから、まず日本が違う動き方をして、いずれアメリカが動きやすくしておく、という役割は果たせるのではないでしょうか。

しかし、今、政治レベルでもっと問題にすべきことがあります。今年5月に来日したネタニヤフ首相と安倍首相が会談を行いましたが、この会談の目玉の一つが日本とイスラエルの軍事協力だったということです。つまり、今後は、日本の技術でパレスチナ人が死ぬということを意味しています。日本はイスラム世界から石油を買って暮らしているというのに、安倍さんは何を考えているのでしょうか。これは、パレスチナ人が好きか嫌いかといったこととは次元が違います。日本の国益から考えても、理解できない。

また、今年は、南アフリカの人種隔離政策「アパルトヘイト」が終わって30周年なんですね。アパルトヘイトが終わった理由については、さまざまな議論がありますが、一つに南アフリカに対する経済ボイコットが大きな影響を与えたことは間違いありません。

今も同じく、ヨーロッパを中心に、イスラエル製品のボイコットが広まっています。イスラエルそのものをボイコットしようという動きと、占領地で活動している企業をボイコットしようという動きとがあります。あらゆるイスラエル製品のボイコットというと抵抗を感じる人もいるかもしれないけれど、占領地で作られている製品をボイコットするのであれば賛同が得やすい。日本でもソーダ・ストリームというイスラエルの炭酸水製造器メーカーが、渋谷での出店を中止しましたね。同社はボイコット運動と出店中止は無関係としているそうですが。いずれにしろ、イスラエルがやり過ぎだという感情は、世界的に広まっています。

 
報復の連鎖を断ち切れず泥沼化するガザの惨状が
我々に示す「新しい戦争」の形態

—そもそも、中東問題がこれほどまでにグチャグチャになってしまったボタンの掛け違いは?

高橋:パレスチナの土地をアラブ人とユダヤ人の両方に約束してしまったイギリスが一番悪いと言われますね。とはいえ、パレスチナに人が住んでいるのに、そこに国を作ろうと思ったユダヤ人たちは常軌を逸しています。ヨーロッパ人が決めさえすれば、アラブ諸国など、どうにでもできるという帝国主義的な人種主義的な臭気がただよっています。また何故、そんな異常な事態になったのかといえば、ヨーロッパから迫害され続けてきたからで、そうしたキリスト教社会の負の部分のツケを、パレスチナ人が払わされているということです。

—異なる価値観を持つ、イスラエル国家とパレスチナ自治政府とが、平和的に共存するために重要なことは?

高橋:そもそも、パレスチナ人には国がないのですから、イスラエルが占領地を返してパレスチナ人の国をつくらせてあげなければ、何も解決しません。ハマスにしろファタハにしろ、ユダヤ人の価値観が気に入らないからといって攻撃しているわけではありません。自分に土地を返して、と言っているだけです。価値観の問題でも宗教の問題でもなく、これは地上げ屋の問題ですよ。

—イスラエルの強硬派が強硬派であり続ける理由は?

高橋:一つは神学的に、あそこは神様がユダヤ人に約束した土地だと思い込んでいる人たちがいること。もう一つは、そういう人たちにお金を出そうというアメリカのお金持ちのシオニストたちがいるということ。イスラエル国民の大半があそこを約束の土地だと思い込んでいるかといったら、決してそうではないと思うのですが。

—自分たちの国を作るという思いの強さは、我々の理解を超えているような。

高橋:でも、日本も戦前、中国に満州国を作って、日本人を大量に送り込みましたよね。それと同じです。いうなれば、満州国建国のバックにアメリカがついているようなものですから、今のイスラエルは。それは手強い。

***

—泥沼の紛争に一段落をつけるための道筋は?

高橋:まずは、爆撃をやめて封鎖を解除する。それがセットですね。爆撃をやめるだけでは元に戻るだけですから、ハマスはそんな条件を飲めません。イスラエルは、封鎖を解除したらハマスがロケット弾を持ち込むのでは、などと言うのですが、国連軍が監視に入るなど、手はいくらでもあるはずです。

そして、我々は、今回のガザの戦闘から何を学ぶべきか。それは、新しい戦争の形態が垣間見えるということです。つまり、ハマスはこれだけロケットを撃ち込んでいる一方で、イスラエルは、真実かどうかは別として、迎撃ミサイルのアイアンドームで、その9割は撃ち落としていると主張しています。しかし、いくら爆撃してもミサイルは止められていない。あれだけひどく爆撃しても、毎日毎日ハマスからロケット弾が飛んできています。

つまり、将来、日本が何らかの形で戦争に巻き込まれた時、日本に敵対する国がミサイルを撃ち込んできたら、アメリカ空軍がいかに頑張ったとしても、その攻撃を止めることはできないということです。

恐らく、日本に敵対する国は、ハマスよりもっと正確に、長距離でスピードの速いミサイルを撃ってくるはずですから、在日米軍基地すら守ることはできません。米軍がグアムやオーストラリアなど後方に下がろうという雰囲気の背後には、中国のミサイル能力が飛躍的に向上しているということがあると思います。ミサイルを撃たせてしまったら最後、どうやっても止められないと分かっているからでしょう。そういう状況に追いつめてしまったら、泥沼化は避けられないということです。今のガザの惨状が、そのことを私たちに示しているのです。


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