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Book of the Year 2014 今年最高の本!

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今年も残すところあとわずか。雑誌『ダカーポ』の頃からの人気企画「今年最高の本!」を今年もお送りします。新聞・雑誌の書評担当者の投票で決める当企画、ベストセラーランキングとは一味違った「とっておきの一冊」があなたを待っています!

日本が抱える最大級の問題に、真正面から挑む!

A めっきり寒くなり、年の瀬も迫ってきました。今年もWEB版「今年最高の本!」をお送りしたいと思います。

B、C パチパチパチパチ!

B 今年でWEB版も4回目。どんな本が登場するのでしょう。新聞・雑誌で書評を担当されている方々に、13年12月から14年11月に刊行された本の中からそれぞれ5冊ずつ、好評価の本をアンケート形式で挙げていただきました。

A、B、C ご協力いただいた皆様、今年もありがとうございました!

C 今年のランキングは、ジャンルもテイストも異なる様々な本に票が割れたみたいですね。例年以上に熾烈なランキングになっているみたい。

A どの本も飛び抜けた票数を得たわけではなく、これから発表するランキングもわずかな差しかありませんでした。ジャンルという点で言うと、小説作品で票が割れている一方、昨年同様、いやそれ以上に、ノンフィクションの良書にも高い評価が集まっているみたいです。

C 登場するどの本にも、それぞれキラリと光る点があるということですね。紹介する方も力が入っちゃうね。

***

B それでは発表します。2014年「今年最高の本!」第1位は……『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか」です!

A、C おめでとうございます!

B その名もズバリなノンフィクション作で、表紙も至ってシンプルですが、読書好きのネットレビュアーの間でも絶賛する声が多数上がっています。現代を生きる日本人が抱えているこの素朴な疑問に、真正面から立ち向かい、戦後日本の秘密を深く、丹念に明らかにしていきます。

A 本書の冒頭では「だれもがおかしいと思いながら、大きな流れをどうしても止められない。解決へ向かう道にどう踏み出していいかわからない。そんな状況がいまもつづいています。本書はそうしたさまざまな謎を解くカギを、敗戦直後までさかのぼる日本の戦後史のなかに求めようとする試みです」と書かれています。歴史を振り返り、現在の解決困難な大問題の道筋を探り当てようという試みですね。そして、基地問題と原発問題、一見まったく異なる問題の根幹には「日本国憲法」そして「日米安全保障条約」という共通のカギが隠されていることを明らかにしていきます。

C COURRieR Japonの井上威朗さんもイチオシの一冊です。〈タイトルは「なぜ国が敗訴する裁判は必ず最高裁でひっくり返るのか?」とも置き換えられます。裁判所が憲法にかかわる判断を放棄する「統治行為論」に典型的に表れる国家的な欺瞞。なぜ私たちは憲法を骨抜きにしてしまったのか、日本の戦後史を追うことで解明する過程で、ショッキングな事実が次々と明らかになります。ただ護憲を叫ぶのも対米従属を疑わないのも、同様に罪の深い思考停止であることを痛感。必読です〉とのことです。

A この本は「戦後再発見」双書」シリーズを立ち上げた矢部宏治さんという方が、地道な取材活動を重ねてまとめた一冊です。同シリーズの第一作目『戦後史の正体』(孫崎享著)はノンフィクションの名作として名高く、「今年最高の本!2012」でも第6位にランクインしました。いわば師弟にあたるという孫崎さんと矢部さんですが、2人によるトークショーも開かれているようです。

C 矢部さんの『日本はなぜ~』を読んでみると、基地周辺や沖縄の地図、複雑な概念をまとめた図表なども多用されており、作り込まれているなぁという印象を受けますね。「ノンフィクションはちょっと苦手かも……」という人にとっても、きっと読みやすいはず。私も含めて……(笑)。

B ともあれ基地問題、原発問題は、現実問題として日本人誰もが見過ごすことのできないはずの大問題です。ともすれば感情的な対立にもなりやすいテーマではありますが、本書から得られる知識は、歴史を踏まえた冷静な議論のベースになるのではないでしょうか。

A おりしも大事な国政選挙を控えた今の時期、これまでの日本、これからの日本を考える上で絶好の一冊が登場したと言えるでしょう。

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円

発表!新聞・雑誌の書評担当者が選んだ2014年最高の本ランキング!
1位 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円
2位 『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円
2位 『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円
4位 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円
4位 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円
4位 『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円
7位 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円
7位 『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円
7位 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円
7位 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円
11位 『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社 /各1,296円
11位 『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円
11位 『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円
11位 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

 

「地方」に存在する、課題と、素晴らしさと

B ではここからは、2位以降の作品を紹介していきましょう。ただ、1位から同率11位まで本当に票差は僅差で、どの本も今年を代表するにふさわしい本だと言えるでしょう。

A 本当にそうですね。まずは第2位ですが、同率で2作品が登場です。まずノンフィクションつながりで、『地方消滅』を紹介しましょう。著者は元岩手県知事の増田寛也さん。改革派知事として地方自治の最前線に立ってきた増田さんが語る「地方消滅」には、また特別な重みがあると言えるでしょう。

C ショッキングなタイトルですよね。日本経済新聞編集局文化部の郷原信之さんは「自分のふるさとはどうなるのか……と、ドキドキしながらページをめくった人も多いはず。分析手法や今後の対策については異論もあるだろうが、21世紀日本の最も大きな課題を明確に指摘した意義は大きい」と本書を評価しています。

B 私も、自分の故郷が帯に書かれている地図に載っていないか、思わず探しちゃった(汗)。読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんも、〈人口減少問題の危険性は以前から叫ばれていたが、本書によってようやく、自治体やマスコミの危機感に火がついたように思える。それは、実名を挙げ、「消滅可能性都市」(2040年までに、若年女性の数が5割以下に減ってしまう市区町村)のリストを表示したからだ。微温的対策に終始してきた問題を、改めて社会に突きつけた衝撃度において、元になった論文と合わせ、本書は今年の1冊にふさわしいのではないか〉と、問題の大きさを気づかせてくれた啓蒙書としての意義を語っています。

A 若年女性の数が、人口問題の大きなポイントなのですね。女性が住むのに魅力を感じるような街であることが、求められているのかもしれませんね。

C 素敵なデートスポットがあって、ブランドモールがいっぱいあって、美味しいスイーツがあって……。

B それだけじゃないでしょ、まったく。さて、もう一つの第2位を紹介しましょう。北村薫さんの小説『八月の六日間』。主人公はアラフォー女子の文芸誌副編集長。せわしない都会を離れ、山歩きへと旅立った主人公は、四季を感じさせる自然の雄大さ、美しさに触れ、心洗われます。まさに今話題の「山ガール」の冒険物語ですね。しかしそこから、物語は急転して……。

A 私自身、境遇がとっても近いからすごく共感できたわ。でも山は、高尾山(東京都内にある、観光客の多い山)ぐらいしか登ったことがないんだけれども(汗)。サンデー毎日の佐藤恵さんも〈アラフォー・独身・仕事アリ(けっこう責任もあって忙しい)女性の心理をリアルに描いている。悩んだり落ち込んだりうらんだりしながら、少しずつ素直になって回復していく過程が清々しく、ちょっと切なくて胸に迫る〉と、乙女心をくすぐられたようです。

C 週刊文春の八馬さんも〈「円紫さんと私」シリーズに始まり、『ひとがた流し』など多くの作品で凛とした女性を描いてきた著者の新たな傑作! 40歳を目前に仕事や人生にすり減る心を抱え、ひとり山に登る主人公。自然の中で自分と向き合う姿が清々しい。不器用でも頑固でも、今ある自分が愛おしいのだと、読者の背を押してくれる。今後も折にふれ読み返すであろう一冊〉と絶賛。ちょっと現実に疲れてしまった女性には、絶好の清涼剤となっているようです!

B 能天気なあなたとは違って、悩める女性は多いの!

A まあまあ(笑)。ともかく、山と自然の素晴らしさが心から味わえる一冊なのは間違いないわ。地方の素晴らしさって、きっとこういうところにもあるはずです。

『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円

『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円』

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円』

読者を引きずり込む、珠玉の作品

B 続いては第4位の発表ですね。4位には同率で3作品が並びました。まずは1冊目、『石の虚塔』。皆さんは2000年ごろに世間を騒がせた「ゴッドハンド騒動」を覚えているでしょうか。

A 確か旧石器時代の遺跡や遺物がたくさん見つかったけど、それが実はある一人の考古学研究家によるねつ造だったと発覚した事件ね。教科書の表記も二転三転するなどして、大きな社会問題にもなりました。

B そうです、あれからもう15年近くがたちましたが、この事件を綿密に追いかけたのが本書です。月刊WiLL編集部の川島さんは〈石器・考古学という一見地味なテーマにも関わらず、抜群におもしろく、ぐいぐいと読み進んだ。考古学会がまたエグい、いろんな意味で。「考古学」と聞けば思わずロマンを感じるが、ロマンだけじゃ駄目なんだなぁとわかる。歴史を扱う人間への「歴史の皮肉」もあり〉と唸っています。

C 週刊文春の東郷さんも〈岩宿遺跡を発見した相澤忠洋。相澤を支え、旧石器時代の研究に取り組んだ芹沢長介。そして、旧石器捏造事件を起こした”ゴッドハンド”こと藤村新一。考古学会のドロドロとした人間関係を掘り起こしていく。松本清張の小説のような読後感を覚えるドキュメント。藤村新一へのインタビューも読み応えあり〉とのこと。まさに事実は小説よりも奇なりですね。

A 藤村さんご本人が出ているのが驚きですね。もうそれだけ時間がたったということでもあるのでしょうか。本編も会話が非常に多く、臨場感たっぷり。あの事件は何だったのかを、スリルを味わいながら振り返ることができます。

B 続いて第4位2冊目は、『イノセント・デイズ』。こちらは衝撃度満点のミステリー作品です。

C 「整形シンデレラ」とも呼ばれる、確定女性死刑囚。3人を殺した罪に問われていますが、その真相は何だったのか。序盤のストーリーから頭に入る先入観が、後半にはドンとひっくり返される。まさにミステリーの醍醐味ですね。

A サンデー毎日の佐藤さんによると、〈主人公について語られれば語られるほど、その人物が見えなくなってくる。他者の視線や思いによってとらえられる「私」とは誰なのか。「私」を主張することにどんな意味があるのか。今の情報化社会につきつけた課題は鋭くて深〉とのこと。うーん、意味深で面白そうですね。

B 著者の早見さんは『ひゃくはち』など、枠にとらわれずいろんなジャンルの小説に挑戦されています。今後も要注目ですね。第4位の3作品目は、『鳩の撃退法(上巻・下巻)』。ある家族の失踪をきっかけに、謎が謎を呼ぶ展開がどんどん進行していくミステリー。こちらはコミカルなやりとりも多く、純粋にエンターテインメントとしても楽しめる一作となっています。

C 婦人公論の角谷涼子さんも、興奮を抑えきれない様子です! 〈この作家の新刊を、本当に待ちわびていました。そして、1ページ目から期待を裏切らず軽やかに凌駕していく書きぶりに、胸が高まりすぎて平静に読めないほど。リーダブルなエンターテインメントでありながら、『小説の読み書き』(岩波新書)の著者ならではの技巧が凝らされてもいるので、読者は〈熟練の床屋の鋏捌きに身を任せるように〉安心して身を委ねて小説を楽しめるはず。映像化してももちろんおもしろいストーリーと魅力的な人物描写ですが、佐藤正午のこの文章は、小説でしか味わえません。まだ読んでいない人がうらやましい、YKS(読んで・後悔・させません)!〉

B 読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんも〈『5』(角川文庫)と同じく小説家の津田を主人公とした大長編は、「小説を書く」ということをテーマに据えたメタフィクションだ。たくらみに満ちた構成と、練り上げられた文章による抜群の読みやすさを併せ持った著者の最高傑作。脱力系のユーモアも含め、小説を読む楽しさを何度でも味わえる〉と高く評価。著者の佐藤正午さんの文章は、多くの人を惹きつけてやまないパワーがあるようです。

A 日本の小説界には今も、読者を引きずり込むような筆力の高い作家がたくさんいらっしゃいます。いろんな作家の作品を、「あれも、これも」と読んでみるのは究極の贅沢なのかもしれませんね。

『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円

『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円

『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円

『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円

『鳩の撃退法 上巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

 

人の「こころ」に触れ、癒す仕事。その実態とは?

B ではどんどん行ってみましょう。第7位には豪華に4作品がランクイン。まずご紹介するのが『「愛と暴力の戦後とその後」』。

A 著者の赤坂真理さんと言えば、何といっても「今年最高の本!2012」で第1位に輝いた『東京プリズン』ですね。戦争そして天皇制を少女の成長物語の中で描いたのが『東京プリズン』でしたが、本書は新書版の「日本論」です。

C 月刊宝島の高岡洋詞さんは〈『東京プリズン』のエッセイ版。「当たり前」を疑い、日常的な身体感覚から発して戦後史を丹念にたどり直し現在と結びつける筆致は小説家ならでは。鋭い洞察がいっぱいで、夢中で読みました〉と舌を巻いています。

B 婦人公論の角谷さんは〈いまを生きる私たちのメンタリティを理解するには、「敗戦」まで立ち返らなければならない。歴史や社会学の論理で語られてもぬぐいきれなかった違和感や「わからなさ」の正体に、赤坂さんは真っ正直に挑んでいる。「わからなさ」へのアプローチは、学者ではなく作家である赤坂真理ならでは。読者はその思考を追うことで、今まで持っていた「日本の戦後」のイメージが違うものに見えてくる〉と述べています。戦後日本という巨大なテーマに、学問の理屈ではなく、一人の生身の人間として向き合っているところが共感を集めているようですね。

A 続いて第7位2作品目は、「井田真木子著作撰集」。井田真木子さんはノンフィクション作家で、『プロレス少女伝説』で大宅壮一ノンフィクション賞、『小蓮の恋人』で講談社ノンフィクション賞を受賞されましたが、2001年に44歳の若さで亡くなられました。

B 朝日新聞読書面の鈴木京一さんによると、〈関川夏央の井田論も読ませる。版元は、井田の著作に影響を受けた女性が興した一人出版社〉とのこと。井田さんにゆかりのある人が、特別の想いを込めて発刊した一冊だと言えます。

C 生前の井田さんは女性プロレスラーの方と親交が厚く、本書では神取忍さんへのインタビューも収録されています。まさに伝説のレスラーならぬ、伝説のノンフィクション作家ですね。

B 第7位3作品目は堀川惠子さんの『教誨師』。教誨師とは、刑務所などの収容施設で収容者に道徳や倫理、あるいは宗教的な講話を行う人たちのことです。

A 本作で描かれているのは、少年時代に広島で被爆し、戦後教誨師となった渡邉普相さんという実在の人の物語です。受刑囚、中でも死刑囚への語りかけの中から見えてくる、生と死の問題。死刑制度にも一石を投じる内容となっています。

C 死刑囚本人ではなく、教誨師さんの視点から見た死刑を描いているのが画期的との意見が多いようです。また、堀川惠子さんは過去に『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』という作品で講談社ノンフィクション賞を受賞しており、違った角度から改めて死刑というテーマに迫っています。

B 教誨師に続いてはセラピストです。第7位最後の作品は、最相葉月さんの『セラピスト』。こちらも、心の治療にあたるセラピストの現実に迫ったノンフィクション作品です。

A セラピストの仕事には厳しい守秘義務があるため、外の世界からその実態をうかがい知ることは極めて困難です。ある時、カウンセリングに対する不審を抱いた最相さんは、5年もかけて謎に包まれたセラピストの仕事に迫り、その実態を詳らかにしています。

C 読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんは〈「カウンセリングとは何か」を5年間にわたり取材したノンフィクション。複雑な現代社会において、誰もが知る「心のケア」。しかし、その核心となるとふわふわ、ともすればうさんくさいもののように感じられもする。心理療法家の河合隼雄、精神科医の中井久夫らセラピストと患者のやりとりは、言葉に言い表せない心の世界を描き出してスリリング。病歴を明かし、自らをも取材対象とする作家の覚悟に圧倒される〉と、内容のリアルさを評価しています。

B 確かに、誰もが心の病を抱えてしまいかねない現代社会。しかしその回復は容易ではないようです。心理療法は、精神医学は、本当に有効なのか。興味を惹かれるテーマですね。

C ああ、「恋の病」を患う私を、誰かカウンセリングしてくれないかしら~。

A 私は、Cちゃんは至って健康だと思うわ(苦笑)。しかし、人の「こころ」に触れる職業を取り上げた作品が2つ並んだことは、現代という時代を象徴しているかのようでとても印象的ですね。

『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円

『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円

『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円

『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円

『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円

『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円

『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円

『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円

 

「こじらせ女子」の処方箋に、男子もホロリ

B 第7位が4作品続きましたので、次は第11位です。なんとここでも、4作品がランクインしました。

A 順にご紹介していきましょう。まず1作品目は、吉田修一さんの『怒り』。殺人現場に残された「怒」の血文字。そこから始まる、犯人追跡劇。ラストの1ページまで、ページをめくる手が止まりません。

C 日経WOMANの行武知子さんは〈ここに挙げておいて言うのもなんですが、「どうなんでしょう???」と思わせるところが面白かったという一冊。「怒り」の本質は何だったのか?というモヤモヤが残るあまり、周りの人にも読ませてしまう行動に出てしまいました。「怒り」を巡って複数の人間関係が登場し、「怒り」に対して様々な行動をとる。そのアプローチはさすがですが〉とのこと。うーん、思わせぶりなところが逆に怪しくて面白そうです。

B 映画化された『悪人』や『さよなら渓谷』でも知られる吉田さん。その手腕をとくと味わいましょう!続いてのご紹介は、『女の子よ銃を取れ』!

A まあ、『セーラー服と機関銃』を彷彿とさせるタイトルね!

C Aさん、ちょっと古いかも(笑)。この本のテーマはズバリ「おんなごころ」!「こじらせ女子」という言葉を世に広めた雨宮まみさんの作品よ。

B 綾瀬はるかさんのドラマ出演で、ブレイク必至の「こじらせ女子」。でもその定義って、実はすっごく難しい。他人の視線と自意識の間で、絶えず揺れ動く世の「こじらせ女子」の心を優しく包んでくれるのが、この一作です。

C COURRiER Japonの井上さんは〈「こじらせ女子」とは、社会から期待される性役割を楽しめず、欲望と自意識のはざまに悩む女子たち。多くの物語では決して主役になれない彼女たちに武器を授ける、リアリスティックな処方箋。こじらせ男子=喪男の豆腐メンタルにも突き刺さります〉だって(笑)。悩める男子にも、効果てきめんのようだね。

B 月刊宝島の高岡さんも〈基本的に好きな著者なのですが、女性にとって永遠のテーマである容姿の問題に果敢にアタックし、自らの苦い経験を告白しながら自分を愛する(むしろ「許す」?)方法を模索し伝えていく誠実さ、「同志」への優しさに、男ですが感動しました〉と語っています。

A 案外癒されているのは、男子の方なのかもしれないわね(笑)。11位3作品目の紹介は岡映里さんの『境界の町で』です。境界とは何か……東京電力福島第一原子力発電所周辺で行われている検問所のことを指しています。「3・11」からの3年間、週刊誌記者だった岡さんが取材を重ね続け、福島に通いつめ、そうしてできあがった、原発被災地のリアルを描いた作品です。

B 産経新聞の書評担当さんは〈筆者が直接見たこと、聞いたことしか書かれていない。取材対象にとことん深く関わっていく一人称のノンフィクションは、自らを傷つけ、時には相手も傷つけながら、誰かと一緒に「生きていく」ことの切なさと温かさを描き出す。衝撃的デビュー作〉と高く評価しています。直接見て、直接書く。ノンフィクションの王道を踏まえつつ、かつ、常に視線は一人称。だからこそ、多くの人の心を打つのではないでしょうか。

A 今なお続く被災の現実を、まさに「ありのまま」に描いている一作ですね。ネット上では被災地の人からも、「まさに実情はその通り」だという声が多数挙がっているようです。

C 第11位最後の作品は私から紹介するね。大野更紗さんの『シャバはつらいよ』。何を隠そう大野さん、「困ってるひと」で「今年最高の本!2011」第1位に輝いた作家さんです。

B 過去の第1位受賞者2人目のランクインね。自己免疫疾患系の難病を抱えた大野さんの闘病生活を描く、「困ってるひと」の続編にあたる作品です。

C ダ・ヴィンチ編集長の関口靖彦さんは〈今回は退院後の「シャバ」で難病を抱えつつ暮らすことの困難さが描かれる。苦しい状況にあってもユーモアを失わず、なんとか生きていこうというエネルギーは前作以上。さらに、苦しむマイノリティが少しでも生きやすくなるよう社会に対して呼びかける意思が前面に出てきた〉と語っています。

A 月刊ソトコトの小西威史さんも〈前作『困ってるひと』から3年、病院を出て「シャバ」で生きていく日々。今回もエンタメ感たっぷり、日本の「福祉」の現状を教えてくれる〉と、苦しい中にもユーモアを忘れない大野さんの前向きさを支持しています。

C どんな苦しい状況下にあっても明るさを忘れちゃいけない。大野さんの本を読むたびにそのことを強く感じるね。

B 同時に「福祉国家」と言われている日本でも、マイノリティを受け入れる受け皿はまだ不十分であることを如実に浮き彫りにしているわ。他人の問題ではなく自分にも関係した問題、関係するかもしれない問題だと捉えて、一緒に考えていく姿勢が大切だと思う。

『怒り 上巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 上巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 下巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 下巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円

『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円

『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円

『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円

『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

 
本の主役も、本の読者も、女性中心の時代!?

 さて、ここまでお送りしてきました「今年最高の本!2014」、いかがだったでしょうか。今年は例年以上に、ノンフィクションの力作が多くの支持を集めていたように感じます。

B 本当に今年は、読み応えがあるノンフィクションが多かったわ。一方でフィクションであっても、どこか現実の問題を思い起こさせる作品も多かったようね。

C ランキングでは紹介できなかったけど、「もう一作選ぶとしたらコレ」という声もあった一冊を最後に紹介するね。篠田節子さんの「『長女たち』」。テーマは「介護される母、介護する娘」。日本経済新聞編集局文化部の郷原さんは〈篠田節子さんの新たな代表作の誕生。肉親、とくに母親と娘の確執は、現代日本の家族が抱える新たなアポリアだ。それにしても、日々の暮らしに男の存在がなんと薄いことか。最近のイキのいい小説からも、魅力的な男はどんどん姿を消している〉と。これも、現代日本の問題、それも女性にとって切実な問題をモチーフにした作品だね。

B 確かに小説の中に、魅力的な男性キャラクターはあまり見かけないかも……。今は女性の時代、って言ったら聞こえはいいけど、魅力的な男が減ってしまうことは女性にとっても寂しいことだわ。

A 「女性」をテーマにした作品が多数あったのも、今年の特徴でしたね。それだけ女性の生が注目されているのは確かだし、女性こそが本の読者の中心層になっていることの表れなのかもしれません。

C うんうん。でも男性にも、もっと頑張ってほしいな!

 そうですね。既成の価値観が崩れ、先の見えない今の時代。男性たちが苦境の中で何を学び、どういう力を発揮できるのかが、今一度問われているのかもしれません。

さあ来年は、どんな本が登場してくれるのでしょうか。1年後の年末、またお会いしましょう!

A、B、C 来年もよいお年を!

* * *

新聞の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

朝日新聞※順不同

  • 『AKB48とブラック企業』/板倉章平/イースト・プレス/929円
  • 『謝るなら、いつでもおいで』/川名壮志/集英社/1,620円
  • 『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円
  • 『あしたから出版社』/島田潤一郎/晶文社/1,620円
  • 『国家緊急権』/橋爪大三郎/NHK出版/1,296円

神戸新聞※順不同

  • 『天の梯』/高田郁/角川春樹事務所/670円
  • 『神秘』/白石一文/毎日新聞社/2,052円
  • 『雷の子』/島京子/編集工房ノア/2,376円
  • 『憲法の空語を充たすために』/内田樹/かもがわ出版/972円
  • 『千鶴さんの脚』/高階 杞一著・四元 康祐 写真/澪標/1,620円

産経新聞※順不同

  • 『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円
  • 『津波、写真、それから——LOST&FOUND PROJECT』/高橋宗正/赤々舎/2,808円
  • 『スクリプターはストリッパーではありません』/白鳥あかね/国書刊行会/3,024円
  • 『ミッキーは谷中で六時三十分』/片岡義男/講談社/1,836円
  • 『ヒトラー演説——熱狂の真実』/高田博行/中央公論新社/950円

静岡新聞

  1. 『僕は数式で宇宙の美しさを伝えたい』/クリスティン・バーネット著・永峯涼訳/角川書店/1,836円
  2. 『ビリービンとロシア絵本の黄金時代』/田中友子/東京美術/2,592円
  3. 『荒野の古本屋』/森岡 督行/晶文社/1,620円
  4. 『軍服を着た救済者たち』/ヴォルフラム・ヴェッテ著・関口宏道訳/白水社/2,592円
  5. 『津軽 いのちの唄』/坂口昌明/ぷねうま舎/3,456円

東京新聞

  1. 『「死」を前に書く、ということ——「生」の日ばかり』/秋山駿/講談社/2,160円
  2. 『岩田宏詩集成』/岩田宏/書肆山田/4,860円
  3. 『それでも猫は出かけていく』/ハルノ 宵子/幻冬舎 /1,620円
  4. 『キャットニップ』/大島弓子/小学館/1,296円
  5. 『「本が売れない」というけれど』/永江朗/ポプラ社/842円

日本経済新聞

  1. 『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円
  2. 篠田節子著『長女たち』/新潮社/1,728円
  3. 木畑洋一著『二〇世紀の歴史』/岩波新書/929円
  4. 朝井まかて著『阿蘭陀西鶴』/講談社/1,728円
  5. 角田光代著『笹の舟で海をわたる』/毎日新聞社/1,728円

夕刊フジ

  1. 『猟師の肉は腐らない』/小泉武夫/新潮社/1,512円
  2. 『父と息子の大闘病日記』/神足裕司・裕太郎/扶桑社/1,296円
  3. 『元外務省主任分析官・佐田勇の告白ー小説・北方領土交渉』/佐藤優/徳間書店/1,728円
  4. 『最後のトリック』/深水黎一郎/河出書房新社/734円
  5. 『不幸な認知症 幸せな認知症』/上田諭/マガジンハウス/1,404円

読売新聞※順不同

  • 『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円
  • 『トロイアの真実』 / 大村幸弘/ 山川出版社/2,700円
  • 『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円
  • 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円
  • 『編集少年 寺山修司』/久慈きみ代/論創社/4,104円
※新聞、週刊誌、月刊誌、それぞれについて五十音順で掲載
 
総合週刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

サンデー毎日※順不同

  • 『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円
  • 『炎を越えて——新宿西口バス放火事件後三十四年の軌跡』/杉原美津子/文芸春秋/1,612円
  • 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円
  • 『やなせたかし おとうとものがたり』/やなせたかし/フレーベル館/1,620円
  • 『追われ者半次郎』/小杉健治/宝島社/756円

週刊朝日※順不同

  • 『日中韓を振り回す「ナショナリズム」の正体』/半藤一利・保阪正康/東洋経済新報社/1,080円
  • 『歴史を繰り返すな』/板野潤治・山口二郎/岩波書店/1,620円
  • 『水声』/川上弘美/文芸春秋/1,512円

週刊アスキー※順不同

  • 『沈みゆく帝国——スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』/ケイン岩谷ゆかり/日経BP社/2,160円
  • 『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい』/本田哲也・田端信太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン/1,620円
  • 『教養としてのプログラミング講座』/清水亮/中央公論新社/842円
  • 『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』/デイヴィット・ケリー、トム・ケリー著・千葉敏生訳/日経BP社/2,052円
  • 『懐かしのホビーパソコンガイドブック』/前田尋之/オークラ出版/1,296円

週刊現代※順不同

  • 『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社/各1,296円
  • 『さみしくなったら名前を呼んで』/山内マリコ/幻冬舎/1,512円
  • 『暴露 スノーデンが私に託したファイル』/グレン・グリーンウォルド著・田口俊樹、濱野大道、武藤陽生訳/新潮社/1,836円
  • 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円
  • 『疒(やまいだれ)の歌』西村賢太/新潮社/1,620円

週刊プレイボーイ

  1. 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円
  2. 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円
  3. 『街場の戦場論』/内田樹/ミシマ社/1,728円
  4. 『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円
  5. 『「サル化」する人間社会』/山極寿一/集英社インターナショナル/1,188円

週刊文春

  1. 『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円
  2. 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円
  3. 『ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち ボートに託した夢』/ダニエル・ジェイムス・ブラウン著・森内薫訳/早川書房/3,240円
  4. 『離陸』/ 絲山秋子/文芸春秋/1,890円
  5. 『少年アヤちゃん焦心日記』/少年アヤ/河出書房新社/1,490円

週刊ポスト※順不同

  • 『酒場詩人の流儀』/吉田類/中央公論新社/842円
  • 『曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ』/曽根中生/文遊社/4,212円
  • 『アンダーカバー秘密調査』/真保裕一/小学館/1,944円
  • 『星々たち』/桜木紫乃/実業之日本社/1,512円
  • 『平凡』/角田光代/新潮社/1,512円
 
総合月刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

WiLL※順不同

  • 『異形の維新史』/野口武彦/草思社/1,944円
  • 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑りつかれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円
  • 『フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠』/マイケル・モス著・本間徳子訳/日経BP社/2,160円
  • 『死ぬ理由、生きる理由・英霊の渇く島に問う』/青山繁晴/ワニブックス/1,728円
  • 『いま生きる「資本論」』/佐藤優/新潮社/1,404円

クーリエ・ジャポン

  1. 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円
  2. 『ツィッター創業物語』/ニック・ビルトン著・伏見威蕃訳/日本経済新聞社/1,944円
  3. 『若者はなぜヤクザになったのか』/廣末登/ハーベスト社/3,024円
  4. 『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円
  5. 『病み上がりの夜空に』/矢幡洋/講談社/1,620円

月刊宝島

  1. 『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』/加藤直樹/ころから/1,944円
  2. 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円
  3. 『女の子よ銃を取れ』雨宮まみ/平凡社//1,512円
  4. 『教養としてのプロレス』/プチ鹿島/双葉社/950円
  5. 『弱いつながり——検索ワードを探す旅』/東 浩紀/幻冬舍/1,404円

ソトコト

  1. 『わたし、解体はじめました——狩猟女子の暮らしづくり』/畠山千春/木楽舎/1,620円
  2. 『外来魚のレシピ——捕って、さばいて、食ってみた』/平坂寛/地人書館/2,160円
  3. ミシマ社『「消費」をやめる——銭湯経済のすすめ』/平川克美/ミシマ社/1,728円
  4. 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円
  5. 『サルなりに思い出す事など——神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々』/ロバート・M・サボルスキー著・大沢章子訳/みすず書房/3,672円

ダ・ヴィンチ

  1. 『紙つなげ!——彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』/佐々涼子/早川書房/1,620円
  2. 『かないくん』/谷川俊太郎著・松本大洋 絵/東京糸井重里事務所/1,728円
  3. 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円
  4. 『怪談』/小池真理子/集英社/1,512円
  5. 『江戸しぐさの正体——教育をむしばむ偽りの伝統』(講談社)/原田実/星海社/886円

中央公論※順不同

  • 『海うそ』/ 梨木 香歩/岩波書店/1,620円
  • 『櫛挽道守』/木内昇/集英社/1,728円
  • 『ハンナ・アーレント』/矢野久美子/中央公論新社/885円
  • 『鹿の王 (上)生き残った者・(下)還って行く者』/上橋菜穂子/角川書店/1,728円
  • 『哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和』/山本一生/講談社/2,592円

日経WOMAN

  1. 『絶叫』/葉真中顕/光文社/1,944円
  2. 『てらさふ』/朝倉かすみ/文芸春秋/1,998円
  3. 『春の庭』/柴崎友香/文芸春秋/1,404円
  4. 『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社/各1,296円
  5. 『出版禁止』/長江俊和/新潮社/1,944円

婦人公論

  1. 『夜は終わらない』/星野智幸/講談社/1,998円
  2. 『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/各1,998円
  3. 『ドミトリーともきんす』/高野文子/中央公論新社/1,296円
  4. 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円
  5. 『ぺナンブラ氏の24時間書店』ロビン・スローン著・島村浩子訳/東京創元社/2,052円

PRESIDENT※順不同

  • 『井田真木子著作撰集』/井田真木子/里山社/3,240円
  • 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円
  • 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円
  • 『静かなる革命へのブループリント——この国の未来をつくる7つの対話』/宇野常寛 編著/河出書房新社/1,620円
  • 『東京タクシードライバー』/山田清機/朝日新聞出版/1,512円

スペインデザインの情報が電子書籍で発信されています!

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スペインといえば、ハイメ・アジョンやパトリシア・ウルキオラ、ナチョ・カルボネル、ストーン・デザインズなど、多くの優れたデザイナーを輩出し、彼らは国際的に活躍しています。また、デザイン性の高い家具、照明器具などのインテリア製品も、世界中の高級ホテルや住宅などで使用されています。

そんなスペインの今のデザインが毎月掲載される電子書籍がこの“DESIGN in/from Spain”です。スペイン貿易投資庁ICEXがこれまで「Spanish」という紙の雑誌を発行していたのですが、今後はこの電子書籍で発信していくそうです。当面はスペイン語のみの対応です。クオリティの高い写真とデザインは専門家のみなさんのみならず、一般のデザイン好きにも十分楽しめるもの。アップルストア、グーグルプレイ、両方に対応しています。
無料ですので、ぜひ一度ご覧ください。

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1/14,16 Martha Wainwright Billboard Live Tour 2015音楽一家に育ったSSWマーサ・ウェインライトの音世界をライブで。

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音楽をやるべくして生まれ、フォーキーでポップな独特の世界観を繰り広げるシンガー・ソングライター、マーサ・ウェインライトが2015年1月に来日を果たす。音楽界にはアマンダ・ブレッカーやナタリー・コール、森山直太郎など良血なアーティストが存在するが、このマーサ・ウェインライトもまさにサラブレッドと呼ぶにふさわしい音楽環境で生まれ育ってきた。生まれ持った才能と独自の感性を昇華させ唯一無二の存在感を放つ彼女の魅力に迫っていく。
父、母、兄、家族全員が一流ミュージシャン。必然的に辿ったシンガー・ソングライターへの道。

まずは彼女の生まれ育った環境について解説せねばなるまい。彼女の父親はラウドン・ウェインライト3世。70年代にデビューしたフォークシンガーで、これまでに23枚のスタジオアルバムを発表し、2010年にはアルバム、『High Wide & Handsome: The Charlie Poole Project』はグラミー賞ベスト・フォーク・トラディショナル・アルバムを受賞している。母親はカナダを代表するフォークシンガー・デュオ、ケイト&アンナ・マクギャリグルのケイト・マクギャリグル。さらに兄はエルトン・ジョンに「地球上でもっとも偉大なソング・ライター」と称され、シザー・シスターズやキーンも敬愛するアーティストに名を上げるシンガー・ソングライター、ルーファス・ウェインライト。

そんな音楽一家の中に生まれた才女がマーサ・ウェインライトである。マーサが生まれてすぐに両親は離婚し、母ケイトとともにカナダに移住したが、その間も母、兄、伯母とともに「マクギャリグル姉妹と一家」として巡業を行うなど、幼少期から音楽とともに育ち、1998年には母ケイトと伯母アンナのアルバム『The McGarrigle Hour』に参加しデビュー。大学卒業後にニューヨークに移住し本格的にソングライティングの道に進み、2005年にアルバム『マーサ・ウェインライト』でアルバムデビューを飾る。フォークシンガーだった両親の影響と、クラシックを専攻しオペラを学んだ兄の影響を受け、様々な要素を内包した独特な世界観を披露。また同年『Bloody Motherfu*king As*hole』という尖りまくったEPをリリースし、ノラ・ジョーンズをして「2005年に聴いた中でベストのひとつ」と言わしめた。

  

  

 
名ミュージシャン達との共演、広がるマーサ・ワールド。

彼女の魅力はやはりその歌声にある。「Bloody Motherfu*king As*hole」では、芯のあるしゃがれた歌声に、小悪魔的な鼻にかけた高い歌声を挟み込み、聴く者を一気に彼女の音世界に引き込んだ。その一方で、2006年にUKの国民的バンド、スノウ・パトロールがマーサのために作曲、マーサ自身がヴォーカリストとして参加した「Set the Fire to the Third Bar」では、メインボーカルのゲイリーに寄り添うよう滑らかなハイトーン・ボイスを披露。全英トップ20のヒットを記録したこの曲は彼女の持つ計り知れないポテンシャルを引き出し、マーサの知名度も一気に世界に広がっていった。

その流れに乗るように2008年にリリースした2ndアルバム『アイ・ノウ・ユア・マリード・バット・アイヴ・ゴット・ フィーリングス・トゥ』には、ザ・フーのピート・タウンゼント、スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲン、兄ルーファスなど錚々たるアーティストが参加。ピンク・フロイドのカヴァー「See Emily Play」でポップで可憐な歌声と新たな世界観を披露。アルバムは本国カナダで6位にランクインするヒットとなった。その後もエディット・ピアフのトリビュート盤や、チボ・マットの本田ゆかがプロデュースを手掛け、ショーン・レノンの個人スタジオでレコーディングした『Come Home to Mama』をリリースするなど、名だたるミュージシャンを巻き込みながら自身の才能を開花させ続けている。

表情豊かなマーサの歌声の中で共通していることが一つある。それは「エモーショナル」であるということ。曲や詞に合わせた感情を注ぎ込み、表現し、聴く者を曲の世界へ誘う。これこそが彼女のシンガーソングライターとしての最大の魅力である。それはウェインライト家の遺伝子の生み出した才能と、トップ・アーティスト達との共演や彼女自身が培ってきた感性の賜物といえる。

2015年1月の日本公演は、彼女と長らく制作に携わってきた夫のブラッド・アルベッタとのデュオ編成となる。シンプルな編成だが、彼女の表情豊かな歌声をじっくりと味わうには最高の舞台となる。マーサ・ワールドに惹きこまれていてはいかがだろう。

【マーサ・ウェインライト Billboard Live Tour2015】
2015/1/14(水) ビルボードライブ大阪
(大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2)
1st Stage開場17:30 / 開演18:30 2nd Stage開場20:30 / 開演21:30
サービスエリア6,900円 / カジュアルエリア5,400円
予約:06-6342-7722

2015/1/16(金) ビルボードライブ東京
(東京都港区赤坂9丁目7番4号東京ミッドタウン ガーデンテラス4F)
1st Stage開場17:30 / 開演19:00 2nd Stage開場20:45 / 開演21:30
サービスエリア6,800円 / カジュアルエリア4,800円
予約:03-5414-5861

マーサ・ウェインライトHP

クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その3お部屋でもワイン三昧、ワイン専門ホテルって?

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オーストリアは、有機農地率20&%とヨーロッパ一の自然な農法で知られており、肉も野菜もとびきり美味。

オーストリアは、有機農地率20&%とヨーロッパ一の自然な農法で知られており、肉も野菜もとびきり美味。

 
ワイン専門ホテルへ。

さすが、ワインの街ウィーン。なんとワイン専門ホテルを見つけました。市庁舎(Rathaus)のほど近くにある、その名もラートハウス・ヴァイン・アンド・デザインは、39室それぞれが、オーストリアを代表するワイン生産者とのパートナーシップで運営されているホテルです。

ワインラベルを象った客室の扉を開けると、そこここに生産者たちの写真が飾られ、ミニバーすなわちワインセラーには彼らの自慢のワインが(有料ですが)ずらり。

生産者たちのラインナップは、とてつもなくゴージャスです。ウィーンからはフリッツ・ヴィーニンガー、ツァーヘル、その他のニーダーエスタライヒ州からはブリュンドルマイヤー、F.X.ピヒラー、ヒルツベルガー、ブルゲンラント州からはクラッハー、トリーバウマー、ハイディ・シュレック、シルヴィア・プリーラーなど日本でも有名な大御所ばかり。

ワインバーは24時間オープンで、月代わりの「ヴィントナー・オブ・ザ・マンス」の生産者のワインは、グラスでサービス。生産者が訪れてイベントが開かれることもしばしばです。

「もともとバックパッカー向けの宿だったんだけど、場所がよいこともあり、2004年、何か面白いことをしたいと今のオーナーが買い取った。彼らはザルツブルクでレストランを経営しているので、ワイン生産者たちとは信頼関係があることから、ワインに特化したホテルを思いついた。ワインはウィーンの財産だからね」と、マネージャーのコンラッド・シュレーペル。

いまでは、ウィーンのワイン産地を回る人たちに大人気。実は39の部屋のほか、屋根裏部屋があり、そこはオーナーおよびコンラッドがこよなく愛するドイツ・モーゼルの、エヴァ・フリッケ、ヴォン・ヴィニンク、アレクサンドル・ダウネスの3人の生産者たちに捧げられています。

そうそう、ここはレストランはない代わりに、朝食は大充実。すべてオーガニック、ローカルな食材ばかりで、ヨーグルト、フルーツ、ハム、ソーセージ、スモークト・サーモン、鰊の酢漬け、さまざまなペーストに、たっぷりお野菜。ウィーン名物のケーキもいろいろ。平日は11時まで、週末は12時までオープンで、宿泊客以外も大歓迎だそうです。

Hotel Rathaus Wein & Design
Lange gasse 13, 1080 Wien €160〜(2名利用) 朝食€18

ワインバーでは、セミナーなど生産者を交えたイベントが随時開催されている。 

ワインバーでは生産者を交えたイベントが随時開催されている。 

入り口にはパートナーである39人の生産者のポートレイトが。  

入り口にはパートナーである39人の生産者のポートレイトが。  

部屋に、パートナー生産者のワインがずらり。

部屋には、パートナー生産者のワインがずらり。

マネージャーのコンラッドはドイツ出身だが、ウィーンワインのサポーター。

マネージャーのコンラッドはドイツ出身だが、ウィーンワインのサポーター。

モダンだけどホスピタリティあふれる「ザ・ゲストハウス ウィーン」。

オペラ座ほど近くに2013年暮れにオープンした〈ザ・ゲストハウス ウィーン〉は、オーストリア人がよく言うところの「ゲミュートリヒ(くつろいで!)」をテーマにしたホテルです。

〈ラートハウス〉同様、学生向けの安ホテルだったのですが、ブティックホテルの先駆けである〈ホテル・トリエストTriest〉や、アーチストやジャーナリストが集うことで知られるカフェ〈ドレクスラーDrechsler〉のオーナーであるマンフレット・シュタールマイヤーが購入、建築はサー・テレンス・コンランに依頼しモダンなスタイルに仕上げました。

このホテル、箱はたしかにモダンなのですが、実にホスピタリティにあふれています。

「客室を自分の家のように使ってほしい、たとえば部屋にお友達をよんでゆったり食事ができるように、ホテルのレストランのお料理はすべてルームサービスで楽しめます」と広報担当のデニース・ブリントホファー。なんと、ワインセラーにあるワインも自由に飲めるのです(無料)。オーナーのマンフレッドが、赤ワインの名産地ブルゲンラント州出身で、帰省のたびに面白い生産者のワインを発掘してくるそう。
「ワインは飲み残したらぜひ持ち帰って、私たちのことを思い出しながら楽しんでね」とデニース。

ワインのお供には、ウィーン一おいしいと評判のベーカリー、グラガーGraggerのレシピを使って館内で焼きたてを提供するパンや、総料理長シュテファン・グラッスルが、おいしい乳製品で知られるフォアアールベアク州の信頼する生産者から仕入れる農家製チーズをぜひ。コーヒーも、ウィーンのサードウェーブともいうべき、ナバ・カフィーNaber Kaffeeのスペシャル・ローストがお部屋で淹れられます。

レストランは、ウィーンのカフェ、パリのブラッセリー、ニューヨークのダイナーのいいとこ取りを目指しているそう。

「シュテファンの料理は、私のおばあちゃんが作るような、コテコテの伝統料理ですが、素材はオーガニックでローカル。そして気軽に食べられる軽食も幅広く用意しています。とくに栄養バランスのよい朝食は24時間召し上がっていただけます。ヨーロッパの他の都市は、最高級ホテルはレストランも有名ですが、ウィーンは例外的に、ホテルのレストランの評価が低いんです(笑)。私たちがおいしいレストラン@ホテルの先駆けになれれば」。コチラすでにグルメな人たちの話題の的になっています。

The Guest House Wien
Führichgasse 10, 1010,Wien 1泊(2名利用)€230〜。朝食€8〜。 交Karlsplatzから徒歩3分。

アルベルティーナ美術館やオペラハウスのほど近く。窓辺のコーナーには、英語とドイツ語の本が用意されている。

アルベルティーナ美術館やオペラハウスのほど近く。窓辺のコーナーには、英語とドイツ語の本が用意されている。

ワインバーだけの利用客も多いそう。

ワインバーだけの利用客も多いそう。

広報担当のデニースは、ウィーン1区出身の生粋のウィーンっ子。

広報担当のデニースは、ウィーン1区出身の生粋のウィーンっ子。

協力:WienTourismus  

道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 16ミライ、動き出す 一番乗りはまたしてもトヨタ。

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トーキョーモビリティ16。ご存知、神宮外苑銀杏並木の黄色い絨毯。

トーキョーモビリティ16。ご存知、神宮外苑銀杏並木の黄色い絨毯。

サステイナビリティの核心。

ライバル社の首脳が宴席で隣り合わせたボクにそっと呟いた。「あの値段で出されたんじゃ、ほかは手が出せなくなる。ハイブリッドの時もそうだった……」。それでも対抗心剥き出しで必死に食い下がる者はいる。今度もホンダだ。

トヨタから世界初の市販型燃料電池車(FCV=フューエル・セル・ヴィークル)を発表する旨の案内状が我々プレスの許に届いたと思ったら、まるでその出端を挫くかのように「水素社会に向けたHondaの取り組み説明会」の通知がメールで送られてきた。一刻を争うかのように。期日はトヨタが11月18日、ホンダはその前日の17日。

結構なことである。技術革新とはそうして互いに切磋琢磨してこそ成し遂げられるものに違いない。ヨーロッパ勢も負けてはいない。数日を経ずして折から開催中だったロサンゼルス・オートショーの会場ではフォルクスワーゲンとアウディのFCV試作車が披露された。

MIRAIと未来。発表会場は日本科学未来館だった。

MIRAIと未来。発表会場は日本科学未来館だった。

クラウン並みの値段で買える!

けれどもこの10年というもの、世界中の主要メーカーが実用化に向けて鎬を削ってきたなかでの一番乗りはやはりとてつもなく大きな意義を持つに違いない。マーケットで、規格づくりで、確実にイニシアチブを執ることができるからだ。その名も“MIRAI”と呼ばれることになったトヨタのFCVは実際にこの12月から販売が開始され、日本の路上を走り始めるわけだから。

FCVはナフサや天然ガスからはもちろんのこと、バイオマスや汚泥からも、さらには水そのものからも抽出可能という融通無碍なH2こと水素を燃料とし、空気中の酸素と化学反応させて自ら発電、その電気を使ってモーターで走る。しかも、その結果排出されるのは水だけという究極の親環境車であり、資源の枯渇とも無縁だからサステイナビリティ=持続可能性の本命と見なされている。

遠く1960年代にNASAで開発されて以来、宇宙空間ではすでにお馴染みのFC=燃料電池だが、ことクルマへの応用となると一般耐久消費財なるが故の万全な技術的保証と当初1台1億円とも言われたコスト高からなかなか陽の目を見なかった。それがもはや絵空事ではなく、目の前にあるという事実は圧倒的である。また、驚くべきはその価格。消費税込みで723万6000円也という数字は輸入車のそれを引き合いに出すまでもなくすでに充分に現実的なものだが、さらにこれまでもEV(電気自動車)など環境フレンドリーなクルマに対して支給されてきた国や自治体からの助成金を差し引くとなんと実質500万円台で手に入るのである。

世紀の瞬間に蝟集したスチールとムービーの放列。日米同時発表だった。

世紀の瞬間に蝟集したスチールとムービーの放列。日米同時発表だった。

 
今からだと半年待ち。

それならすぐにでもと思うかもしれないが、必ずしもそうは行かないのがいささか残念なところ。実は一般のユーザーがごく普通に手に入れられるようになるのはまだ少し先のハナシになりそうなのだ。というのも、当面は2015年末までに日本向けが400台と生産能力そのものが限られている上に、正式販売を前にしてすでに官公庁や企業からその半数に当たる約200台が予約済みだからである。スーパーカー並みの少量生産に甘んじているワケは、「まずは足許をしっかりと固め、1台1台丁寧に作って行くため」とされる。

また、水素は無限だといっても現実には特定の事業者が特定の原料から生成しているのみで、それをFCVに充填するための水素ステーションも“一般社団法人・次世代自動車振興センター”の補助によるそれはこれから整備されるものを含めても差し当たり全国で40ヵ所に限られ、一応全国の“トヨタ店”と“トヨペット店”でクルマ自体はオーダーが可能とはいうものの、いきおいそれらが設置される東名阪および福岡地区(埼玉、千葉、神奈川、山梨、滋賀、兵庫、山口の各県を含む)が中心となりそうなのは言うまでもない。

モーターだからどうにでもなるはずだが、MIRAIはFF(FWD)、すなわちプリウスなどと同じ前輪駆動。既存モーターの流用が前提だったから。前席下がFCスタック、後席下の黄色は高圧水素タンク。トランク直前は駆動用バッテリー。

モーターだからどうにでもなるはずだが、MIRAIはFF(FWD)、すなわちプリウスなどと同じ前輪駆動。既存モーターの流用が前提だったから。前席下がFCスタック、後席下の黄色は高圧水素タンク。トランク直前は駆動用バッテリー。

 

このことからも判るとおりFCVはEV以上にインフラの構築が“must”であり、日本同様、部分的ではあるが徐々にそれが整いつつあるアメリカとヨーロッパでは2015年夏から秋にかけて発売される見込みだ。一大マーケットのカリフォルニア州などでは州内で一定数以上のクルマを販売するメーカーに対してEVやPHV(プラグイン・ハイブリッド・ヴィークル)、そしてこのFCVを内容とするZEV(ズィーヴ=ゼロ・エミッション・ヴィークル)の積極的な導入が求められている事情もあり、数ある海外市場の中でも特に優先せざるを得ない。結局、欧米には300台が振り向けられ、当面の年産能力はトータルで700台とされるが、引き合いの強さからして早期の増強は必至だろう。

こちらも報道陣どっさりのホンダ青山本社。MIRAIは「高級車としての位置づけから」4人乗りだが、ホンダのFCV CONCEPTは「小型化したFCスタックを含めたパワートレインを、市販車として世界で初めてセダンタイプのボンネット内に集約して搭載している」ため、5人乗り。

こちらも報道陣どっさりのホンダ青山本社。MIRAIは「高級車としての位置づけから」4人乗りだが、ホンダのFCV CONCEPTは「小型化したFCスタックを含めたパワートレインを、市販車として世界で初めてセダンタイプのボンネット内に集約して搭載している」ため、5人乗り。

 
名前はまだない、が……。

たとえスクープフォトが出回ろうとネーミングとプライスタグだけは秘中の秘で、最後の最後まで分厚いヴェールに覆い隠されたまま――ニューモデルのローンチに当たってこの業界で何十年も守られてきた掟だ。したがって、前日の“説明会”で「2015年度中に日本での発売を目指す」と発表されたホンダの新型燃料電池車は今のところ単に“Honda FCV CONCEPT”と仮称される、いわば試作車にすぎない。

ただし、ホンダの名誉のために付け加えるならば、トヨタ同様ごく早い時期からFCVの開発に着手し、2002年にはリース販売ながら世界で初めて“FCX”を世に送り出すなど確実に地歩を固めてきた。急遽記者会見を開くに至ったのもその自負あればこそだろう。また、やや遅れての発売は不運にもこのところ度重なったリコール問題に配慮し、念には念を入れての製品化を期しているからにほかならない。同時に、大昔の浮世離れした「ショーカー」などと違って近頃の「コンセプト(カー)」なるものはメーカー問わず後日ほぼそのままの姿で市場に送り出されるのが常だから、この場合もその可能性は高い。
それにしてもこのホンダFCVコンセプトとトヨタのMIRAI、何から何までそっくりなのが不思議と言えば不思議だ。まずもって空力重視の流れるようなスロープトバックのフォルムが瓜二つだし、心臓部たる燃料電池スタックの「出力密度:3.1kW/ℓ」も全くの同値なら、100kW(136PS)+=ホンダないし113kW(154PS)=トヨタの、モーター出力も似通っている。FCVがEVに対して断然優位に立つ充填(EVなら充電)時間もともに約3分と短く、ひとたびそれをフルに満たした後はそれぞれ700km以上(ホンダ)または約650km(トヨタ)に及ぶガソリン車並みに長い航続距離(JC08モード)を誇る点も同じだからだ。

技術って、なんでこんなに、見事なくらいに収斂するんだろう? ライバルだから互いに手の内なんか明かすはずもなく、長い時間、深く静かに潜行しながらいざ蓋を開けてみると驚くほどよく似ている、なんていうことが往々にしてある。自動車の世界でもかつて一斉に花開いた4WS(四輪操舵システム)がそうだったし、ほかにも例は少なくない。そのことに気づいた時、ちょっと大袈裟で気恥ずかしいけれども、人間讃歌とでも言おうか、人間、研鑽を極めると誰でも真理に迫ることができるんだなあと妙に感慨深くなった自分がいた。もちろん、心の中でそっと呟いただけだけど。

わざわざ「水素社会に向けたHondaの取り組み説明会」と銘打ったのにはもうひとつの理由がある。写真右のFCV CONCEPT(クルマ)はもちろんのこと、その脇に見える外部給電器(FCVを非常用電源に使うための出力器。しかも、最大9kWというからかなりのものだ)、さらに左のSHS(スマート・ハイドロジェン・ステーション)との三位一体で“CO2ゼロ社会”を目指すからだ。キーワードはそれぞれ「つかう」「つながる」「つくる」。全部ホンダ自身による自社開発だ。

わざわざ「水素社会に向けたHondaの取り組み説明会」と銘打ったのにはもうひとつの理由がある。写真右のFCV CONCEPT(クルマ)はもちろんのこと、その脇に見える外部給電器(FCVを非常用電源に使うための出力器。しかも、最大9kWというからかなりのものだ)、さらに左のSHS(スマート・ハイドロジェン・ステーション)との三位一体で“CO2ゼロ社会”を目指すからだ。キーワードはそれぞれ「つかう」「つながる」「つくる」。全部ホンダ自身による自社開発だ。

Another Quiet Corner Vol. 38 Simon Dalmais『Before And After』Before And After、シモン・ダルメのこれからについて。

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シモン・ダルメ待望の2作目。

一人のアーティストがきっかけになり、さまざまな作品を知ったり、いろいろな繋がりを見つけたりすることがあります。シモン・ダルメは、そういううれしい可能性を広げてくれる音楽家です。以前、この連載でご紹介したように、彼が2012年に発表した『The Songs Remain』は、僕にとってその年のベスト・アルバムとなり、今でもよく聴いています。ジャズやフォーク、クラシック、映画音楽といったさまざまなエッセンスを織りまぜた、繊細で緻密なアレンジメントは程よく洗練され、優しく穏やかな歌声も魅力的です。そして孤独を感じさせる内省的な佇まいは、まるで70年代のシンガー・ソングライターの姿を彷彿させます。まさしく21世紀が生んだ名作といっても過言ではありません。クワイエット・コーナーのディスクガイド本の中では、「Conversations with Myself」というテーマのもとで、彼の作品を掲載し、さらに同名のコンピレーションでも選んでいます。今回、そんな彼の待望となる新作が届きました。

以上のように前作が素晴らしい内容なだけに、新作の発表がアナウンスされたとき、その期待は一気に膨らみました。間違いなく新たな傑作が生まれる予感。そこに不安は一切ありません。なぜなら、『The Songs Remain』で、彼の才能は揺るぎないものと証明されているからです。ただ、とてもバックグラウンドが広いアーティストなので、たぶん次作では前作と同じような音作りはしてこないだろうと予想していました。それに、前作でアレンジを務めたオリヴィエ・マンションは参加しないという情報も得ていたので、一体どんな音になるのか、そんな想像を膨らませながら、発売を待ちわびていたのです。

そうして届けられた『Before And After』は、そんな期待を決して裏切ることない素晴らしい作品です。国内盤は前作同様、アプレミディ・レコーズからです。シモンの特徴でもある普遍的なメロディは健在で、どの曲を聴いても心をわしづかみにする魔法のような魅力が息づいています。思わず「これぞシモン節!」と言いたくなるような、耳馴染みのいいフレーズが全編にわたって散りばめられています。そして、個人的にも気になっていた音作りの部分で、クレジットをチェックすると、アレンジャーにはクレモン・デュコルの名前が……。クレモンは、シモンのお姉さんであるカミーユの作品を手掛けている人物で、そういえば以前、シモンが彼のことを教えてくれたことを思いだしました。最近、発売されたニーナ・シモンのトリビュート・アルバムに、カミーユのカヴァーが一曲収録されていますが、そこにも彼の名前を見つけることができました。しかしどうやら、まだ手掛けている作品は極めて少なく、ほとんど無名といってもいいかもしれません。しかし、そんなキャリアをもろともしない、この多彩なアレンジメントを聴けば、きっと彼の豊かな才能を見出すことができるはずです。

  

  

今作は、コンセプチュアルな内容だった前作に対して、個性的で粒ぞろいな楽曲が並んでいます。そして、曲によっては、よりクラシカルなアレンジメントが施されたり、70年代の英国ポップスのような趣があったりして、カラフルな印象も感じさせます。中でも、ポール・マッカートニーのソロ作品を彷彿させるドラマティックな「Tiny」や、スタックリッジのような牧歌的な雰囲気もある「I Don’t Know Why」といった曲が特に印象的で、もはやシモンの音楽を「ひとりビーチ・ボーイズ…」という引用だけで表現できないことに気付かされます。それに、80年代風ブルーアイド・ソウルな「Along with My Son」もあれば、前作同様に、ノスタルジックなティン・パン・アレー風な「Somewhere I Found You」もきちんと用意されていて、聴きどころも多数、クオリティは想像していた以上です。この『Before And After』は2作目としては十分な仕上がりで、『The Songs Remain』と続けて聴けば、より深くシモンの魅力に迫ることができるでしょう。それに、何だか誰かと音楽の話をしたくなるような、音楽好きの心をくすぐる作品でもあります。

さて、昨年、シモン・ダルメは「東京ジャズ2013」の出演のためにひっそり来日していました。実際に彼に会うと、思い描いていた通りジェントルで穏やかな性格で、しかも映画俳優のようにハンサムで、まさに音楽そのものでした。もちろん素晴らしいピアノの弾き語りを披露してくれたステージも忘れられません。今回は、『Before And After』の発売を記念して、僕が興奮を隠し切れないまま行ったインタビューをここに掲載します。(インタビューは2013年9月)

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Simon Dalmais interview 

*interviewed in 2013 September

Q.先日行われた東京ジャズ(2013年9月)のステージの感想を教えてください。

A.実は5年前に、セバスティアン・テリエのツアーのメンバー(ピアニスト)として来日しているけど、今回はソロでの来日だから気持ちが全然ちがいますね。しかもたった一人で来たこともあって、今回は日本のことをより深く知ることができました。あと、日本のオーディエンスはとても静かに僕の音楽を聴いてくれていました。パリのオーディエンスはアーティストに対して距離を置いたり、時にはきびしいジャッジをすることがあるけど、日本のオーディエンスはとても親密に受け入れてくれた気がします。これは私の演奏にとても合っていました。

Q.日本のファンの多くは、純粋なフランス音楽ファンというよりは、60年代のポップスや70年代のシンガー・ソングライターなど、幅広く音楽を聴いています。あなたの音楽もそういった影響を受けていますか?

A.まず、『The Songs Remain』というタイトルを付ける時に、“60年代や70年代の名曲は永遠に残る”という意味を込めました。それは私自身が、そういう音楽から強く影響を受けているからです。もう一つの意味は、レッド・ツェッペリンがとても好きで、彼らの1976年のアルバムに『The Song Remains The Same』という作品があるからです。あと、60年代とか70年代には希望や前向きなメッセージが込められた音楽が多くて、そういう雰囲気も好きなんです。

Q.あなたが書く曲はどれもメロディが美しいと思います。それは60年代や70年代の音楽には引けを取らないくらいです。曲を書く際に、どこからインスピレーションが湧いてくるのですか?

A.曲をつくるときは、まず一人になって、都会の喧騒からはなるべく離れるようにします。そして自分の中に深く入っていって集中する作業が必要です。そうして自然などからも影響を受けて、曲を書き始めます。

  

  

Q.いつから曲を作り始めましたか?

A.12歳から曲を書き始めました、その時は音楽と詩を別々に書いていましたが、ポップ・ソングを意識して歌詞を書き始めたのは16歳くらいからです。だから私にとって、元々曲と歌詞は別々の存在だったのです。『The Songs Remain』にインストゥルメンタルの曲が収録されているのは、そういう理由もあります。

Q. 『The Songs Remain』の国内盤のライナーノーツで、音楽評論家の渡辺亨さんが、あなたの音楽のイメージを“ブルーの音楽”と書いています。そしてジョニ・ミッチェルの『Blue』やトッド・ラングレンの『Runt – The Ballad Of』を例に挙げています。あなたにとって“ブルー”はどういった意味をもった色ですか?

A.“ブルー”を特に意識していたわけではないけど、その指摘は正しいと思いました。それに今挙げてくれたアーティストやアルバムの系譜に位置づけてくれたことも納得できます。ライナーに書かれていた、トッド・ラングレンとニック・ドレイクは昔からの愛聴盤です。あと、ブルーは自分にとって調和とか静寂を意味する色で、音楽的にいっても優しく平和な意味をもっているから、私の音楽性にも通じると思います。

Q.ビーチ・ボーイズのメンバーの中では、ブライアン・ウィルソンよりもデニス・ウィルソンの方が好きだと聞きましたが、なぜですか?

A.実は、それはフランスのあるジャーナリストが書いたことなんだけど(笑)、そんなに間違った指摘ではないです。ブライアンはビーチ・ボーイズの中では、主要なメンバーだから重要な曲をたくさん書いていますが、デニスが書いた曲はどれも個性的なんです。そして彼は悲しく孤独な存在でもあったし、僕もとても共感できるアーティストです。

 

 

Q.オリヴィエ・マンション(クレア&ザ・リーズンズ)は、どのような経緯でアレンジャーとして参加することになったのですか?

A.アルバムを制作する際にレーベルからアレンジャーの提案があって、オリヴィエがメンバーのクレア&ザ・リーズンズはアメリカとフランスの音楽がミクスチャーされたグループだから、自分の音楽性とも近いし、彼と一緒ならスムーズにアルバムを録音できると思いました。

Q.オリヴィエのアレンジメントはいかがでしたか? とてもあなたの音楽と相性が良いと思いました。

A.オリヴィエは原曲を崩すことなく、とても素晴らしいアレンジをしてくれました。メロディを引き立たせるといってもいいかもれません。それにこのアルバムにはドラムを入れる予定がなかったから、オリヴィエにストリングス・アレンジを頼んだのは正解でした。

Q.次の作品で一緒にコラボレーションしたいアレンジャーはいますか?

A.実はすでにセカンド・アルバムに取り掛かっていて、クレモン・デュコルというアレンジャーと一緒にレコーディングをする予定です。彼はとても知識があって才能があるから、どんなアレンジをしてくれるのか楽しみです。そういえば彼はカナダのキリエ・クリストマンソンのアルバムにも参加していますよ。

 

 

Q.現在のフレンチ・ミュージック・シーンについても教えてください。

A.私はフランスのメジャーなミュージック・シーンとは距離を置くようにしています。住んでいる場所もパリではないですし。メジャーなレコード会社はたしかにあらゆる面でしっかりしていますが、自分はいつでもインディペンデントな存在でありたいです。その方が自由に音楽を作ることができるし、アーティスティックでいられると思うからです。

Q.あなたについて調べていたら、僕の大好きなドム・ラ・ネナさんと一緒にステージに立っているということを知って驚きましたが、彼女とはどのような繋がりがあるのですか?

A.ドムはパリにいる唯一の友人です。チェロを弾きながら歌うとても変わったアーティストで、私も度々ピアニストとして一緒にステージに立ちました。彼女はチェロ以外にもギターやピアノを弾いたり、才能のあるマルチ・プレーヤーでもあります。

Q.あなたもマルチ・プレーヤーですけど、個人的にはいつかピアノの弾き語りのアルバムを聴いてみたいです。いかがですか?

A.そうですね、やるべきでしょうね。でもとりあえず次回作はそういう音楽ではなくて、今自分がやりたい音楽を追求している形になるでしょう。ピアノと歌だけでアルバムを作るのは、とても難しいけど、いつか実現したい目標の一つです。

 

 

Q.『The Songs Remain』は映像的なエッセンスを感じます。影響を受けた映画とかありますか?

A.わたしは曲を作る際に、まず自然と浮かんできたイメージを、なるべくそのままピアノで表現しようと心掛けています。だからきっと、私の音楽を聴いて映像的なエッセンスを感じることができるのでしょう。好きな映画監督はフランソワ・トリュフォーで、彼の映画は特にセリフが好きですね。あとはウェス・アンダーソンで、彼の映画は音楽の使い方が素晴らしいですね。最近なら『ムーンライズ・キングダム』が印象的でした。

Q.次回作はどんな内容で、いつぐらいに発売になるのですか?

A.実はもう半分以上、完成しているんです。今はエディットしながら新しい曲を書いたりしています。そしてコントラストを意識した内容になると思います。リズムがはっきりした曲と静かな曲が両方入っています。だけど私の書くメロディ自体は変わりません。コード進行やアレンジは作りこんでいるけど、それがナチュラルに聴こえるようにしています。もうすぐ皆さんのもとに届くでしょう。

Q.最後に日本のリスナーへメッセージをお願いします。

A.こうして日本でアルバムが発売されて、ライヴもできたのは物語だと思います。だからこれが未来にも繋がっていくと信じています。ぜひまた皆さんとお会いしたいです。

 

 

『Before And After(ビフォア・アンド・アフター)』
Simon Dalmais(シモン・ダルメ)

2014年12月7日発売 2,300円(税別) RCIP-0213 レーベル:アプレミディ・レコーズ

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【Track List】

01. Tiny
02. The Longest Night
03. I Don’t Know Why
04. Soleil Libre
05. Lord
06. Kamakura
07. Along With My Son
08. Before And After
09. Listen
10. The Promise
11. Somewhere I Found You
12. After

「ぼくたちが穏やかな音楽を選ぶ理由~トーク&試聴会」
山本勇樹×吉本宏×寺田俊彦
『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』刊行記念
日時:2015年1月11日(日)
会場:下北沢B&B 東京都世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F

土屋孝元のお洒落奇譚。おいしいものはどこにある? お腹がすいた時の軽食について。

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『味助』の思い出のチャシューワンタン麺。昔ながらの醤油ラーメンで美味しかったなあ。© Takayoshi Tsuchiya

『味助』の思い出のチャシューワンタン麺。昔ながらの醤油ラーメンで美味しかったなあ。© Takayoshi Tsuchiya

お昼過ぎや小腹がすいた時
無性に食べたいもの。

年末らしくない年末、師走または、極月とか呼ばれ、お茶ではとくに朧月とも呼ばれるようです。

銀座界隈にいて、仕事でお昼も過ぎ無性に小腹がすいたときに食べたいもの。失くなったお店や今も変わらずにあるお店など……おいしいもののお話です。

「たけのこそば」のお店。この店は銀座、場外馬券売り場の近くにあり、黄色の看板がわかるようなわからないような、本当に間口も狭く中もカウンターだけなので初めての人は入りにくいと思います。銀座の某有名シェフがオススメするお店の一つです。たまには歌舞伎役者を見かけることもあります。「たけのこそば」、これはそばではなくラーメンです。このたけのこうま煮が美味しいのです、細切りのたけのこが甘辛く煮てあり、ラーメンスープに混ざると味がまた変わり美味しく、チャーシューとマッチして……。または、チャーシューワンタンメン、これは言わずもがな先ほどのたけのこそばにワンタンが入ったラーメンです。

チャーシューワンタンで思い出すあの味。

チャーシューワンタンで思い出すのは、今はもうなくなった『味助』です、見た目は、これは塩辛そうなと思う色なのですが、食べると病みつきになり月に一回くらい食べたくなる味でした。スープは見た目ほど辛くはなく 極太のちぢれ麺によく合いました。僕はよく出前で「味助弁当」に「ラーメンスープ」と発注していました。少し辛めのチャーシューにたくあん、キャベツ カツが入ったガッツリ系な弁当で食べ応えのあるものでした。今でも思い出す味の一つです。

『味助』の弁当。ご飯にしみたオレンジの濃いたくあんの味、チャシューの美味しさ、カツのボリューム、食べ応えのある弁当でした。© Takayoshi Tsuchiya

『味助』の弁当。ご飯にしみたオレンジの濃いたくあんの味、チャシューの美味しさ、カツのボリューム、食べ応えのある弁当でした。© Takayoshi Tsuchiya

 
この組み合わせが一番
「肉まん」と「セロリそば」

ここは赤坂にも銀座にもお店がありますが、僕はここ7丁目のお店のこの組み合わせが大好きです。「肉まん」と「セロリそば」、僕はこの組み合わせが一番だと思うのですが一概には言えませんね、味の好みは千差万別いろいろありますから。

ここの肉まんの美味しさはまず第一に皮が美味しい、何もつけずに食べても旨みがあり、辛子醤油など少しつけると甘みが増すのです、この肉まんとセロリそばさっぱりしたスープがよくあって、セロリの歯ごたえもまたよいアクセントです、ワインで言うところのマリアージュでしょうか。こちらはおまんじゅうセットがランチにできて肉まんと小サイズの麺が日替わりで出ているようです。僕のオススメはセロリそばですが……。

コロッケそばと呼ばれる蕎麦。コロッケというのですが大きながんもか鳥しんじょのような具が熱々の汁そばに乗っています。© Takayoshi Tsuchiya

コロッケそばと呼ばれる蕎麦。コロッケというのですが大きながんもか鳥しんじょのような具が熱々の汁そばに乗っています。© Takayoshi Tsuchiya

そしてコロッケそば。この蕎麦屋さんは昔から大好きで、入ってすぐの土間にはテーブル席があり、お店の通り側には畳の間があって、そこでも落ち着けます。2、3階にも広間の和室があり宴会にも対応してくれます。

ちなみに平日の夜8時前になると、着物のお姉さん方が同伴の待ち合わせをしています。このそば屋さんのコロッケそば、コロッケといってもあの揚げたコロッケではなく大きな鶏団子というかがんもどきというか、が入った汁蕎麦です。寒い日には身体が温まります。お出汁にそば湯をもらい薄めて飲むと一段と身体が温まります。

 
手作り感とお店の雰囲気が楽しみ
サンドイッチ。

サンドイッチならば、言うまでもなく、銀座4丁目から新橋へ向かい旧電通ビルの斜向かい。いつもモーツァルトやベートーベン、ショパンなどのクラシックがかかり、昔から変わらないウェイトレスが白シャツに黒いタイトスカートの喫茶店。ここのハムサンド、トーストした厚切りのパンに厚切りのハム、バターとマスタードの微妙な味加減、これがまた良いのです、昔ながらの落ち着ける空間でパンも白いパンかライブレットが選べました。ここの栞を読むのも楽しみの一つです。

***

サンドイッチでもう一軒、今も変わらずにはあるパン屋さん。

ここは銀座というより築地ですね、銀座某有名パン屋さんと同じ名前。今はマスターを見かけないので代替わりしたのかもしれません。カウンターにてミルクコーヒーとお店自慢のサンドイッチ、このサンドイッチにはいろいろな種類があり手作りのメニューを見るだけでも楽しくなったものです、僕が好きだったのはトーストしたイギリスパン? にお店独自の卵ペースト 焼いたハムにパイナップルを乗せたハワイアン風のサンドイッチ、手づくりのコールスローも懐かしい味でした。今はちょっと昔とは違うスタイルです。

***

懐かしいお店もどんどん変わり久しぶりに行くとなくなってしまったり、あれここにあったのにとか、なんだか前とは違うなあなんてことも多くなりました。思い出の中に記憶された味が一番なのかもしれません。

道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 17ミライはともかく、 この1年のイヤーカー選び。

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トーキョーモビリティ17。トンネルを抜けると、そこはファッションだった。乃木坂トンネルの青山側出口。

トーキョーモビリティ17。トンネルを抜けると、そこはファッションだった。乃木坂トンネルの青山側出口。

 
トヨタの“MIRAI”発売。

前回より引き続いての“MIRAI”。世界初の市販型燃料電池車(FCV)、トヨタの“MIRAI”が12月15日に正式販売されたと知ってディーラーに注文が殺到。当面の国内年間販売目標約400台に対してその数、1000を優に超えた結果、このままではユーザーの手許に届くまでに1〜2年を要しそうな勢いなのだという。

そのせいか、それから数日後にはペイドパブの形を採ってトヨタの奇妙な広告が日経新聞に載った。曰く、トヨタは「次世代エコカー」としてHV(ハイブリッド・ヴィークル)やFCVをはじめ各種取り揃えているが、いま選ぶならプリウスPHV(プラグイン・ハイブリッド・ヴィークル)が注目株なのだと。PHVなら電気でもガソリンでも走ることができ、時代感覚に鋭いアナタも充分に満足できるはずだし、なんならすぐにでも納車できますよという、結構あからさまな誘導キャンペーンなのである。メーカーがそうせざるを得ないほど、「未来の乗り物」と思われていたFCVが予想外の早さで実用化されたインパクトは大きかったというべきだろう。

 sustinamobility17-02

 
C-O-T-YとF-O-T-Yと……

我がNPO法人RJCこと日本自動車研究者・ジャーナリスト会議の選定になるカーオブザイヤー(略してC-O-T-Y)は規定により毎年11月1日から翌年10月31日までに発表・発売された新型車がノミネートの対象だから、MIRAIは惜しくも次回送りとなる。

今回(2015年次)は会員57名が参加して11月11日に栃木県のツインリンクもてぎの特設コースで実車の最終確認テストとそれに続く投票を行なった結果、それぞれの分野で最多得点を集めた以下の2車と1技術とが受賞した。

RJCカーオブザイヤー:スズキ・ハスラー
RJCカーオブザイヤー・インポート:メルセデス・ベンツCクラス
RJCテクノロジーオブザイヤー:日産“ダイレクト・アダプティブ・ステアリング”(略してDAS/スカイライン350GT HYBRIDに搭載)

因みに、DASはいわゆるステアリング・バイワイアのこと。「バイワイア」は操作部と作動部が機械的に繋がっておらず、文字どおりシャフトに代わるワイアを通して電気的に伝えられるもので、ステアリングへの応用は世界初。当面はより素早く正確な操舵と路面からの不快な振動解消が目的だが、将来的にはステアリング自体が不要となる「自動運転」まで見越して開発された。RJCカーオブザイヤーの詳細に関してはRJCホームページを参照されたい。

小能く大を制したハスラー。カラーバリエーションも豊富。スズキの竜洋テストコース(静岡県磐田市)にて。

小能く大を制したハスラー。カラーバリエーションも豊富。スズキの竜洋テストコース(静岡県磐田市)にて。

選考過程からも判るとおりC-O-T-YはRJCとしての総意であり、ボクもその一員である以上、従うのは当然だ。ただしC-O-T-Yなるもの、えてして「いい子」が選ばれがちであり、また個には個としての意見がある。ドライビングプレジャーをなにより重視したいボクとしては若干違うスタンスを採ることもままあった。そこでこの場を借りて去年から勝手に展開させてもらっているのがF-O-T-Yことファンオブザイヤー。乗ってどれが愉しかったかという、きわめて私的で情緒的なアウォードである。図に乗るようだが、今年はさらにV-O-T-Yことヴァリューオブザイヤー、すなわち「お買い得車はどれか」にも手を拡げてみようと思う。

カーオブザイヤー・インポートのメルセデス“C”。新型MINIと1ポイント差の大接戦を演じた末に獲得した。Sクラス並みに最新のあらゆる安全デバイスを投入した“部分自動運転”と軽量設計がウリ。六本木の本社にて。

カーオブザイヤー・インポートのメルセデス“C”。新型MINIと1ポイント差の大接戦を演じた末に獲得した。Sクラス並みに最新のあらゆる安全デバイスを投入した“部分自動運転”と軽量設計がウリ。六本木の本社にて。

スカイラインは旧プリンス→日産と続く伝統のネーミングだが、新型はメルセデスやBMWとも対抗し得るプレミアムブランドを標榜する。グリルに敢えてインフィニティのバッヂを追加したのもそのため。試乗会場の明治記念館にて。

スカイラインは旧プリンス→日産と続く伝統のネーミングだが、新型はメルセデスやBMWとも対抗し得るプレミアムブランドを標榜する。グリルに敢えてインフィニティのバッヂを追加したのもそのため。試乗会場の明治記念館にて。

 
ズバリ“日本の軽自動車”
「RJC特別賞」に。

その前に、今年のRJCカーオブザイヤーでは一大トピックがあったことを記しておこう。実はボクもそのひとりを務める選考委員会では毎年、賞の在り方を検討しているのだが、今年は一部の委員から「軽自動車賞」を設けたいという声が上がっていた。けれども、もし軽自動車のどれかが大賞のC-O-T-Yそのものを獲得したら重複の恐れがあるし(実際そうなるところだった)、そもそも限られた軽の枠の中で微妙な差別化を計りながら熾烈なバトルを繰り広げているこのジャンルの特異性を考えると、たった1台だけを選び出すのは至難の技と思ったボクは別のアプローチを提案した。

この際、特定の軽に授与するのではなく、戦後半世紀余りの間、当初は未熟な代物だった軽をメーカー同士互いに切磋琢磨して技術を磨き上げただけでなく、今や販売面でも自動車全体の約4割を占めるまでになり、日本のモータリゼーションを確実に支えているという、その事実こそを称えたらどうかと。幸い、他の委員や会全体からも賛意を得た結果、このイレギュラーな「RJC特別賞」を授与することが正式に決まった。

対象はズバリ“日本の軽自動車”。そこにはスズキもダイハツもない、軽のメーカーならホンダや三菱も等しく対象になるわけだし、さらにはOEMで売っているトヨタも日産もマツダもスバルも、み〜んな同じ。いわば「頑張れ、ニッポン!」の心意気である。したがって、授与する相手は業界団体である“一般社団法人 日本自動車工業会 軽自動車特別委員会”となった。それにしてもなぜ「今」なのかと問われたら、それはハイブリッド並みの良好な燃費に象徴される技術的な高まりと普及の拡大、そして今年は税制が改訂され、「勝負の年」になりそうな気配とからベストのタイミングと判断したからだ。

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RJCの表彰式は毎年12月にアイビーホール青学会館で行なわれる。壇上には第1次選考を勝ち上がった3賞それぞれの“6ベスト”も顔を揃える。カーオブザイヤーのそれは次点のマツダ・デミオ以下、日産スカイライン、スバル・レヴォーグ、ダイハツ・コペン、ホンダN-WGN、三菱eKスペース/日産デイズ・ルークスと続いた。インポートは同様にMINI、BMW i3、アウディA3/S3セダン、ジャガーFタイプ・クーペ、フォルクスワーゲン・ポロの順。テクノロジーは同様にSKYACTIV-D 1.5エンジン(マツダ・デミオ)、スバル運転支援システム アイサイトver.3(レヴォーグ等)、S-エネチャージ(スズキ・ワゴンR)、レーダーセーフティパッケージ(メルセデス・ベンツCクラス)、LifeDriveコンセプト(BMW i3/i8)の順だった。
 

この報に誰よりも喜んだのが現在業界を代表してその任にある、鈴木 修上記委員会委員長。そう、希代のカリスマ経営者として知られるあのスズキ会長兼社長その人だ。同社のハスラーがC-O-T-Yに輝いたのは全くの偶然だが、実はそのこと以上に喜んだという。

ホンマかいな? と訝るのも無理はないが、どうやら本当らしい。なぜなら準備の都合もあって自工会に通知したのはC-O-T-Y決定の直前だったのだが、それを聞くや否や御年84歳にして今なお国内外を飛び回る超多忙な会長が即刻、なにがなんでも表彰式には出ると決めたのだそうだ。これには会場で居合わせたライバル各社も驚いた様子。通常こうした場面に付き合ってくれるのは広報やマーケティングの担当者、エンジニアなどで、トップ自ら登場するのはきわめて異例だからである。

直截なことで有名な「修節」がまたふるっていた。「人間、いくつになっても褒められるのは嬉しいもの。昭和48年に時の“産業計画会議”が『軽自動車不要論』を政府に提言してから今年で41年。軽なんかやめてしまえとさんざん虐げられ、疎んじられてきた。それが今やどうですか、作っているのはウチやダイハツさんなど4社だけだけど、売っているのは日本の乗用車メーカー8社全部ですよ。そのことも皆さんに身近に感じられるようになった理由だと思います。いつかだれか褒めてくれないかと思っていたら、今回RJCさんからようやくこうしてお褒めをいただいた」と受賞の辞を披露、やんやの喝采を浴びた。

 
独断と偏見のパーソナルチョイス

さて、本音の部分、“マイ・フォティ”である。この1年間で乗った数あるクルマの中からボク好みの1台をと問われたら、日本車ならホンダのヴェゼル、輸入車ならBMWのM3と迷わず答えるだろう。理由は至って簡単、痛快だからである。

まずヴェゼルだが、試乗したのはホンダ本社のある青山を基点に都内で小一時間だけ。しかも、一見ドライビングプレジャーとは縁遠いように見える“コンパクトクロスオーバー”なのになぜ? と思われるかもしれない。だが、それでも日本車には稀な天性のスポーティングキャラクターを確信させるには充分だった。グレードは前輪駆動の“ハイブリッドZ”(257万1429円)だったが、なにより良かったのは操作感がカッチリと頼もしく、動きもデッドスムーズで正確なステアリングだ。ホンダ車でこれほどの出来は(まもなく次期型がデビューするはずだが)生産中止になって久しいあのNSX、それもとびきり硬派の“タイプR”以来と言ったら言い過ぎかもしれない。それくらい気に入った。

ヴェゼル? はて、聞いたことがあるような……と思ったら、やっぱりその昔、丸目のヘッドライト周辺を飾ったカバーリングのことだった(ただし、綴りはbezel)。それとvehicleを掛け合わせた、いずれにしても造語である。

ヴェゼル? はて、聞いたことがあるような……と思ったら、やっぱりその昔、丸目のヘッドライト周辺を飾ったカバーリングのことだった(ただし、綴りはbezel)。それとvehicleを掛け合わせた、いずれにしても造語である。

エンジンも今や本物のそれを併用する時代だからシャレにもならないが、かつて我々を「電気モーターのように滑らかな」と唸らせた、あの初代シビックを彷彿とさせるストレスフリーな回転マナーが甦ったのである。やや小振りで掌にシックリと馴染むステアリングホイールや心持ち硬めの乗り心地、そして適度にタイトなセミ・バケットシートも気持ちがいい。

ホンダのクルマづくりは「LPL(=開発責任者)次第で如何様にでもなる」のだそうで、腰高なプロポーションの不利を補って余りあるキビキビ感は確かにエンジニア個人の意志と意図とを想わせるに充分だ。惜しむらくは最近のホンダ車共通のゴチャゴチャ感。サイドウインドーのグラフィックスなど基本フォルムはキレイなのに、ガンダム風の面構えやあらずもがなのフィン、モール、プロテクター類のせいですっかり凡庸になっている。

 

所変わってこちらは千葉県袖ヶ浦のフォレストレースウェイ。この日の主役はモデルチェンジしたばかりのX6だが、ついでに恒例の“BMW大運動会”を兼ねているとあってパドックには最新のBMWとMINI各車がズラリ40台。その中で偶々選んだのがM3(セダン)だが、これには心底刮目させられた。スポーティなことを身上とするBMWの中でも特に腕に縒りを掛けて仕立てられるのが“M社”の各モデル。M3は旧型のV8から伝統の直列6気筒(新設計ツインターボ仕様)に換装され、エンジン特性の違いとユニット単体の重量差による「鼻」の軽さが操縦性を一変させた。後車軸にホイールスピンを抑える“アクティブMディファレンシャル”を備えることもあって、コーナーを攻めれば攻めるほど面白いように曲がってくれるのである。

都心からほんの1時間ちょっとで行くことのできるサーキット、フォレストレースウェイ。M3の試乗車は“ヤス・マリナ・ブルー”が鮮やかだった。フロント255/35R19+9J/リア275/35R19+10Jの“Mライト・アロイ・ホイール ダブルスポーク・スタイリング437M”は27万8000円高。

都心からほんの1時間ちょっとで行くことのできるサーキット、フォレストレースウェイ。M3の試乗車は“ヤス・マリナ・ブルー”が鮮やかだった。フロント255/35R19+9J/リア275/35R19+10Jの“Mライト・アロイ・ホイール ダブルスポーク・スタイリング437M”は27万8000円高。

怒濤のような勢いで431PSものパワーを炸裂させ、7600rpmの高みまで回り切って乗り手の身体をドーンとシートに押し付けるエンジン。ステアリングホイールを握ったままパドル操作で電光石火のチェンジを可能にする7速DCT(ツインクラッチギアボックス)。その他、アナログメーターをはじめとするややスパルタンな雰囲気のインテリアや結構ビシビシと手荒なもてなしで迎える乗り心地なども、このクルマを選ぶほどのドライバーなら却って頬を緩ませるに違いない。お蔭で1台3ラップまでとされたサーキットランだが、コースが空いていたのをいいことに結局3クールも愉しんでしまった。“マイ・フォティ”にとっての難敵はやはりお値段。M3は昔からポルシェ911とタメを張るほどの高価格車だったが、今や標準状態でも1104万円、“Mカーボンセラミックブレーキ”など数々のオプショナルパーツが組み込まれていたテスト車に至ってはなんと1334万4000円にも上った。

 
侮るなかれ、「たった2.3ℓ」のマスタング

……と言われても俄かに信じ難い向きも多いことだろう。実際、フォード・マスタングやシボレー・カマロなどアメリカ生まれの“ポニーカー”と言えば5ℓ級の大排気量V8エンジン付きと相場が決まっていた。4ℓを切る廉価版のV6仕様は単なるファッションか主としてレンタカー向けの需要(本国では結構これが多い)に応えるものだったのである。けれども、まあ機会があったら乗ってみて下さい。実際にステアリングを握ってみると悪い予想が外れ、ビックリするに違いないから。

10年振りにモデルチェンジされ、日本でもこの春から売り出される予定の6代目は取り敢えず“EcoBoost”2.3ℓ直4ターボエンジンと組み合わされるが、プレス用の事前試乗会で乗った新型は旧型のV6を確実に上回る314PSのパワーと434Nmのトルクを遺憾なく発揮、箱根ターンパイクの長い登り勾配でも終始グイグイと加速し続け、コーナーではパワースライドまで演じてみせるほどの力強さを披露したのである。かつてのように高回転域で頭打ちになるようなこともなく、直4でありながらどことなくV8のようなビートが混じるサウンドもなかなかだ。

アメリカだねえ、このカッコよさを見よ! 途中ダサい時期もないではなかったが、新型は‘64年登場の初代に近い雰囲気を持っている。デザインのキレがいいのだ。

アメリカだねえ、このカッコよさを見よ! 途中ダサい時期もないではなかったが、新型は‘64年登場の初代に近い雰囲気を持っている。デザインのキレがいいのだ。

ヨーロッパ流の“ダウンサイジング”(小排気量/直噴+過給)がとうとう大西洋の対岸にまで及んだわけだが、それもそのはず、これまで圧倒的にアメリカ市場だけを向いていた「モンロー主義」のマスタングが今度は最初から世界中のマーケットを視野に入れ、そのためには初の右ハンドル仕様も開発、2015年後半からは日本にも導入するのだという。新型第1弾となる350台限定販売の“Mustang 50 YEARS EDITION”は専用ロゴ入りのプラックやスポーツレザーシートなどを手土産に奢りつつ465万円のバーゲン価格を実現した。だいいち、なかなかカッコイイじゃないですか。V-O-T-Yに推したい1台だ。


『原宿シネマ 〜憧れを感じる映画たち vol.1〜』 坂東巳之助が語る 仮面ライダーと歌舞伎の意外な接点とは!?

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『第 24 回原宿シネマ 〜憧れを感じる映画たち vol.1〜』より歌舞伎俳優の坂東巳之助さん(左)と、東映特撮作品プロデューサー 白倉伸一郎さん。

『第 24 回原宿シネマ 〜憧れを感じる映画たち vol.1〜』より歌舞伎俳優の坂東巳之助さん(左)と、東映取締役 白倉伸一郎さん。

歌舞伎と仮面ライダー。一見不可思議な取り合わせですが、実は仮面ライダーの変身ポーズ、悪者の動きには歌舞伎と共通点が。『原宿シネマ 〜憧れを感じる映画たち vol.1〜』トークの模様を、企画に関わった松竹の岡部さんがレポート。
 
館長は歌舞伎に映画
ブログも話題の坂東巳之助さん。

12月14日、『原宿VACANT』で開催された『原宿シネマ 〜憧れを感じる映画たち vol.1〜』。歌舞伎俳優の坂東巳之助さんを館長に『仮面ライダー THE FIRST』を上映。その後東映取締役 白倉伸一郎さんをゲストにトークが繰り広げられました。

この企画のきっかけは、若い方にも歌舞伎に興味を持っていただける機会を作りたいと思い、2011年のスタート以降、20、30代の若者層を中心に話題となっている映画上映イベント『原宿シネマ』の主催者のシンカさんにご相談したことです。

『原宿シネマ』は“人生の一本に会いにいく”をテーマに毎回様々なフィールドで活躍中の方を館長に招き映画上映とトークショーを行うイベントです。館長セレクトの作品のよさはもちろん、館長の普段なかなか見られない部分についても知っていただけるので、好機だと思いました。

これまで松竹では「原宿シネマ×寅さん」という企画で『男はつらいよ』を上映していただいていた繋がりがありました。

 
一緒に人生を歩んできたと言っても過言ではない
巳之助さんと仮面ライダー。

 

館長には、若手俳優の登竜門である『新春浅草歌舞伎』への出演を控えた坂東巳之助さんを迎えました。映画『桜田門外ノ変』(’10)、『清須会議』(’13)でも大活躍の巳之助さんはそのブログ『日々是Show人』も面白くて話題になっています。好きなものへの愛情があり、その魅力を情熱的に語る姿を『原宿シネマ』のお客様に観ていただきたいと思いました。

その巳之助さんが選ばれた作品は、“人生の一本”というより、ご本人曰く「一緒に人生を歩んできたと言っても過言ではない」という仮面ライダーシリーズの映画『仮面ライダーTHE FIRST』でした。歌舞伎と仮面ライダーという組み合わせは、これまでになかったことで、非常に面白いと思いました。そして、東映ビデオ、東映のご協力を得、上映権許諾だけでなく、告知の面でもご協力頂き、会社を超えた協力体制が実現しました。

 
ライダーファン垂涎
プロデューサー  白倉伸一郎さんをゲストに。

当日は、歌舞伎、仮面ライダー、原宿シネマのそれぞれのファンのお客様が来場。巳之助館長は、上映前にご挨拶され、お客様と本編を鑑賞。引き続いてのトークショーでは、「いやぁ、面白かったですね。」と興奮気味にスタート。物心ついた頃には、ちょうどライダーシリーズがなかったという館長は、ビデオやDVDで昭和ライダーシリーズを観ていたそうです。巳之助館長は巨大化しない等身大のヒーローに魅力を感じる話など、仮面ライダー愛を爆発させました。 

そして、満を持して、巳之助館長が「神様のような人」と憧れる東映取締役の白倉さんをトーク相手としてご紹介。白倉さんは、平成仮面ライダーを多く手掛けたプロデューサーで、ライダーファンにも大変有名な方です。白倉さんも、ご自身が手掛けた本作を観るのは、2005年以来10年振りとのことでした。「久しぶりに観たけど、面白いなぁ。」と満足げに話され、「亡くなった長石(多可男)監督との思い出や、撮影所ゆかりの地の桜が咲くのを待ってから撮影したことなど、思い入れがあるから全シーン泣ける。」と語りました

 
かっこいいポーズをスローモーションで見せる
歌舞伎的要素を残す日本のヒーローたち。

その後、”歌舞伎”と”特撮や日本のヒーローもの”には歌舞伎的要素が残っていること”に話題は移りました。
「仮面ライダーは、変身するとマスクを被った姿になりますが、歌舞伎でも演目により面を用いることがあります。
仮面、面自体には表情がないので、体の動きなどで表情なければなりません。それが難しさであり、また共通点だと思います」と俳優ならではの見解を巳之助館長が述べると、「仮面ライダーは無表情で、何を考えているかわからない。(ライダーを演じる)スーツアクターは、平衡感覚がわからない中で演じている。」と白倉さんもスーツアクターのすごさを絶讃。そして、仮面ライダーは歌舞伎のひ孫のようなものと表現しました。日本の映画の黎明期には、歌舞伎の中継のようなものがあり、それが時代劇になり、やがてライダーに繋がっていったそうです。刀を持たず手持無沙汰になったヒーローが、見得の間で変身ポーズを取るようになったということのようです。(ライダーの変身ポーズは大相撲から来たと伝わっているそうです)

巳之助館長は、「格好いいポーズ・アクションをスローモーションで見せるというのは海外でもやっていますが、
歌舞伎の見得のように、また仮面ライダーのポーズのように、特に意味もなく格好いいポーズを格好いい間で、
しかも止まって見せるものはないと思います」と続けました。

 
会場には坂東巳之助さんの仮面ライダーマスクのコレクションも展示されました。

会場には坂東巳之助さんの仮面ライダーマスクのコレクションも展示されました。

 
一番“ライダーっぽい形”は
『車引』

歌舞伎の中で一番“ライダーっぽい形”ということで、巳之助館長が引き合いに出したのが、『車引』で桜丸が笠を取るシーンです。両手で9時45分の方向に笠を外す動作付きで「特に意味はなく、ゆっくり笠を外して登場を印象付ける為だけにかっこいいポーズをしている。ストーリーが動く前に入るので、登場人物に注目が集まり、ストーリー展開の指針にもなる」と解説。白倉さんは、歌舞伎の名乗りのライダーへの影響を指摘して、「海外では、なぜを敵を前に名乗るのか。敵を前に固まってるけど気後れしてるの?」と言われることがあると続け、ポーズをとったり(見得)、名乗ったりすることで意識も変身することが海外には伝わりづらいと話しました。

次に、巳之助館長が紹介したのが、『蘭平物狂(らんぺいものぐるい)』の奥庭での蘭平と花四天の大立ち廻りの場面。「理屈でない変身、見得(決めポーズ)、なぜ一斉に攻めて来ずに、一人ずつ、襲い掛かってくるのかというところは、ショッカー戦闘員との戦いの元になっているのではないか」と紹介。白倉さんも同意し、製作者としての視点から、「時代劇やライダーシリーズでも、倒された戦闘員の処理に困るので、怪人は爆発して自分でお掃除しているわけですが、歌舞伎では、そこも含めちゃんと見せ場になっていてすごいです。間の合わせ方など、俳優さんは非常にレベルが高いのですね。」と感心することしきりでした。

***

 

参加者から「巳之助館長が本当に嬉しそうで、こちらまで嬉しくなりました」という感想が出る程、楽しそうだった巳之助館長。仮面ライダー、そして白倉さんという“憧れ”の存在を身近に感じる『原宿シネマ』となりました。

(松竹経営企画部広報室 岡部いずみ)

『チェイス!』 インドの国民的俳優アーミル・カーン、俳優の技がつまった新作とともに初来日。

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インドの国民的俳優アーミル・カーン、俳優の技がつまった新作とともに初来日。

『チェイス!』

©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved. 2013年、インド映画『きっと、うまくいく』が日本で公開され大ヒット。競争社会のなか、持ち前の機転とユーモアでスマートに切り抜けていく主人公ランチョーにハートを鷲摑みされたファンは少なくないはず。
ランチョーを演じたアーミル・カーンさんは、インドでは国民的名優。インド映画の枠を広げるようなチャレンジングな作品にも積極的に出演するほか、製作や監督も務め、世界中で高い評価をうける一方、インドの社会問題をテーマにしたテレビ番組の企画・司会もこなすようなスーパースター。ビル・ゲイツから対談を熱望されたこともあり、2013年にはアメリカ『TIME』誌で、「世界で最も影響力がある100人」に選ばれました。

そんなアーミルさんが、このたび、新作『チェイス!』のヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督とともに、待望の初来日を果たしました。本作は、インドほかアメリカ、イギリス、中国など世界各国でのきなみインド映画興行収入1位を記録更新中。

物語の舞台はシカゴ。サーヒル(アーミル・カーン)は、町中が熱狂するサーカス団を率いる天才トリック・スター。ところが裏の顔は、父を死に追い込んだ銀行に復讐することに命をかける金庫破りだった。警察は、インドから敏腕刑事ジェイ(アビシェーク・バッチャン)と相棒アリ(ウダイ・チョープラー)を応援に呼び寄せ、サーヒルとの猛バトルが始まる……!

一筋縄では行かない、トリックに次ぐトリックのスピーディーな展開。スーパー・ハイテクバイクが、ロボットのように自在に形を変え、宙を舞ったり、海を走ったり。男子ならずとも小鼻広げて興奮するスペクタクル・アクション。さらに、うっとりする絢爛豪華なショー・ダンスにアクロバット。ロマンスあり、胸に迫る人間模様あり、映画3本分くらいの、魅力てんこもりの作品なのです。なにより、主に中盤以降の複雑な感情表現は、さすが! と唸りたくなるほど、アーミル・カーンさんの技が際立ちます。

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アーミル・カーン:1965年インド・ムンバイ生まれ。映画一家に生まれ、73年に子役として俳優デビュー。88年『Holi(ホーリー祭)』で映画初主演を果たす。2001年、イギリス植民地下のインドを舞台にした映画『ラガーン(Lagaan:Once Upon a Time India)』を製作・主演。大ヒットを記録し、アメリカアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされる。『Taare Zameen Par(地上の星)』(07年)で監督デビュー。『きっと、うまくいく』(09年)が、インド年間最大ヒットを記録。13年に日本でも公開され、大ヒット。同年、『チェイス!(DHOOM 3)』がインドほかアメリカほか各国で公開され、こちらも大評判に。
これまでに、インドの発展に貢献した人に贈られる、勲章パドマ・シュリー、インドの最高民間褒賞のパドマ・ブシャンを受賞。 アーミル・カーン(以下アーミル)『チェイス!』はアクション満載。スピード感が溢れて驚きもたくさんあってワクワクします。まず、自分のなかにある少年の心にグッときましたね。歌やダンス、ロマンスも盛り込まれているけれど、僕が一番惹かれたのは、物語の中心に流れる感情に訴えかける部分。今回の役は、復讐に燃え、強い怒りを抱く側面と、夢を見る純粋な側面と、両極を表現しなくちゃいけない複雑な役だったんですが、自分を高めるためにも挑戦したいと思いました。

——アーミルさんは『きっと、うまくいく』では、実年齢44歳で20歳前後の大学生をみごとに演じられました。映画のなかで、何かに挑戦するということをいつも課しているのですか?

アーミル 『きっと、うまくいく』も、最初は躊躇したんですよ(笑)。僕が大学生役なんてやったら、きっとお客さんに笑われちゃうと思ったし、脚本をとても気に入っていたので、僕が演じることで、せっかくの物語を台無しにしちゃったらいやだなあとも。でも、ラージクマール・ヒラニ監督は頑として譲らなくて。僕が自分でも気づいていない何かを僕のなかに見い出してくれていたようで、ぜひに、というので、ヒラニ監督のファンでもあったから監督の直感を信じてやることにしました。そんな作品がたくさんの人に気に入ってもらえたようで、すごく嬉しいです。
そうですね。出演を決めるポイントは、まずは自分が観客として脚本を読んでみて、その物語に惹かれるかどうか。次に、俳優として自分にとって、なにかしらチャレンジングなことがあるかどうか。そういう目でみながら、直感的に響いたものを選んでいますね。 カトリーナ・カイフ(左)とのアクロバット・シーンは息もぴったり。

カトリーナ・カイフ(左)とのアクロバット・シーンは息もぴったり。 ©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved.

命綱なしにほとんど自分たちでパフォーマンスしたという、アクロバットシーン

命綱なしにほとんど自分たちでパフォーマンスしたという、アクロバットシーン ©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved.

——今作のチャレンジは、アクション、サーカスのアクロバットパフォーマンス、タップダンスといろいろありますが、一番大変だったのは何ですか?

アーミル アクションは比較的簡単なんです(笑)。ダンスがあまり得意ではないので、ダンスシーンを撮るときはものすごく緊張してしまいます。今回も何度もリハーサルを重ねてやりました。それと、今回大変だったのは、カトリーナ・カイフとのサーカスのアクロバットシーンですね。命綱なしに約15メートルの高さにつられたまま、80〜90パーセントスタントなしに自分たちでやったので。でも、うまくいってほっとしました。

——バイク・アクションはどのくらいご自分でなさったのですか?

アーミル 空を飛ぶシーンは僕。いまはテクノロジーが発達しているので、ワイヤーでつられて安全に走りました(笑)。走るトラックの車輪の下に、バイクのまま滑り込んだり、というスゴ技は、アメリカ人のバイク・スタントのジョー・ドライデンがやってくれました。彼のからだに僕の顔をさしかえるという技術もいまはできるのでね……。 地上、空、海を縦横無尽に展開するバイク・アクション。手に汗にぎる!

地上、空、海を縦横無尽に展開するバイク・アクション。手に汗にぎる! ©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved.

——毎回映画ごとにハードルを上げて新しい役どころに挑戦し続けているアーミルさん。そうやって、観客を楽しませるために自身を追い込んでいる姿が、使命を背負っているという点で、個人の喜びを捨てたサーヒルと重なって見えます。

アーミル たしかにサーヒルはネガティブな感情に覆われて、喜びを全く感じていない。復讐する使命に、人生をかけていますよね。でも、僕は全然違うよ(笑)。お客さんを喜ばせる責任はもちろんあるけれど、作った作品を気に入ってもらえるかどうかは、誰にも予測できないもの。少しでもいい作品になるよう、完成させるところまでは努力できるけれど、その先の評価はコントロール不能。言ってみたら“おまけ”みたいなものなんです。だから、観て、好きになってもらえたらものすごく嬉しい。作品が公開されるまでは毎回ナーバスになって、もっとやれることがあったんじゃないかと悩むことも多いので、喜んでもらえるととても救われます。
でも、だからといって、観客のために僕が何かを背負っているということはないですね。それより、仕事を楽しむように、常に情熱を持ち続けられるように努力しています。どうしてもひとつの作品に1〜2年は費やすので、その制作過程を自分自身が楽しめるかどうか。その作品を心から好きになれるかどうか。むしろそれを重視しています。自分の幸せのために作品を選んでいますね。 サーヒル(右・アーミル・カーン)と刑事ジェイ(左・アビシェーク・バッチャン)との頭脳合戦もあざやか。どちらのトリックが上手か?

サーヒル(右・アーミル・カーン)と刑事ジェイ(左・アビシェーク・バッチャン)の頭脳合戦も鮮やか。どちらのトリックが上手か? ©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved.

——映画の制作過程で一番楽しいのは、どんなところですか?

アーミル 自分と全く違う人間になれることですね。僕はサーヒルのように、復讐心に燃えることも、猛烈な怒りに苛まされることもないし、破壊することもキライ。でもそんなふうに、違う人生を歩めるのは喜びですよね。そして、もうひとつ、自分が作品のストーリーの一部となって、観ている人に笑いや涙を提供できる。映画を通して、少しでも人の心に触れられるというのが楽しいんです。

——これまで出演された『きっと、うまくいく』や『Talaash –The Answer lies within』(2012)などもそうですが、冒頭からは想像もつかない展開になる、トリッキーな作品に多く出演されているように感じますが、好んでそういうものを選んでいるのですか?

アーミル トリッキー……そうかな?(笑)。エンターテインメント性の高いもの、ワクワクするものなど、作品によって選ぶポイントはいろいろですが、“自分の心になにかしら響くもの”を選んでいるだけなんだけど。
『Talaash〜』 は特殊な映画でしたね。愛する者を亡くした人の物語。友だち、兄弟、子供……大切な人を失ったとき、人はそれを現実として受け止めきれず、目を背けようとしてしまう。でも、生きていく以上、それが困難でも現実は受け入れていかなくちゃいけない。そういうことを描いているのが美しいなと思って出演を決めました。
監督もした『Taare Zameen Par(地上の星)』は知的障害を持った男の子と教師の関係を描いたもの。驚くような展開はないけれど、個人的に共感できたので選びました。トリッキーかどうかより共感できるかどうかで選んでいますね。

——なるほど。観客の予想を裏切るのがお好きなのかな? と思ったんです。

アーミル たしかに、人を驚かすのは好き(笑)。次にどんな役をやるか、皆が予測できないようなものをやろうとしているところはありますね。『Ghajini』(2008)で肉体を作ってワイルドな役をやったあとに、『きっと、うまくいく』で大学生役をやって、また『チェイス!』でアクションをやったり。 ジェイはサーヒルの正体をついに突き止めるが……。ジェイの相棒アリ(中央・ウダイ・チョープラー)のおちゃらけキャラも楽しい。

ジェイはサーヒルの正体をついに突き止めるが……。ジェイの相棒アリ(中央・ウダイ・チョープラー)のおちゃらけキャラも楽しい。 ©Yash Raj Films Pvt. Ltd. All Rights Reserved.

——『Ghajini』のあとに『チェイス!』ならまだしも、『Ghajini』で筋肉の塊のようなマッチョな肉体を作られたあと、年齢だけでなく、体型も半分したんじゃないか? と思うほど『きっと、うまくいく』で筋肉をそぎ落として、また『チェイス!』で体脂肪9パーセントまでしぼって筋肉を作られて。かなり極端な肉体改造を毎回されていて、体は大丈夫なのかと心配になるのですが……。

アーミル アハハ。体作りはいつもしていることだから全く問題ないです。筋肉は負荷をかけると変わっていくんですよ。難しいけれど、同時に楽しみでもある。見た目も変わるしね。ボディビルディングは、実は肉体よりメンタルに訴えかけるものなんですね。たとえば、100キロのウエイトを持ち上げるんだったら、それをまず意識して体に覚えさせる。すると、筋肉はそれに合わせて大きくなっていくんですよ。精神が強くないと、体は鍛えられない。

——肉体改造を含む役作りの過程を楽しんでおられるんですね。映画一家に育ち、子供のころから映像の世界で活躍されていますが、もしもそんな環境に生まれてこなかったら、何になっていましたか?

アーミル (大きな目を三倍くらい見開いて)ええー? もう長いこと映画の世界に浸ってしまったので、考えられないなあ……。うーん。体を動かすことが好きなので、スポーツ選手とか? テニスが好きなんですよ。それか、教師かな。学んだことをシェアするのが好きなので。

——アーミル先生! それはきっとすばらしい先生になられたでしょうね(スタッフ一同うなずく)。

アーミル そうかな? ありがとう。

——でも、映画の世界にいてくださって、よかったです。『チェイス!』のなかで「我は神の子……」という、おまじないのような台詞が出てきますが、アーミルさんご自身が「映画の神の子」という気がします。

——いやいや。そう思ってくれるのは嬉しいけれど、そんなことないよ……。

アーミルさんは、最後に笑ってそうつぶやきました。

ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督はアーミルさんのことを「ビッグスターなのに、スター気取りをしない、人格的にもすばらしい人。チームワークを大切にする人」と絶賛。
この取材中も日本語がわからないはずなのに、質問者が話す間も賢明になにかを読み取ろうと真摯に応対してくれました。フランクでオープンというよりは、穏やかで優しく、繊細な心の持ち主。相手が誰であろうと、一人の人として尊重しようとするフェアネスに溢れる人、という印象でした。
同時に、会見で通訳さんが訳す前に答えようとフライングしてペロっと舌を出しちゃったり、舞台挨拶の会場で赤ちゃんの泣き声が聞こえたのに対し、「僕らの答えが気に入ってないのかな?」とジョークを言ったり。チャーミングな一面も。
監督は、「俳優は子供のように常にワクワクして、映画作りに没頭できる気質が必要。アーミルは映画が好きで、演じることが大好きというのを表に出せる人」とも評していました。実年齢より20歳以上若い役など、ピュアな表現ができるのは、アーミルさんの内面に、そんな無邪気なところがいまなお失われずにあるからなのかもしれません。

インドではまもなく、『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニ監督と再タッグを組んだ新作『PK』が公開。
「こちらもよかったら、観てみてくださいね!」とアーミルさん。
映画とともにまたのご来日を心よりお待ちしています。

『チェイス!』
12月5日(金)より、TOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー
 
出演:アーミル・カーン、カトリーナ・カイフ、アビシェーク・バッチャン、ウダイ・チョープラー
監督・脚本:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ
原題:DHOOM 3
字幕:藤井美佳
提供:日活
配給:日活/東宝東和 2013年/インド/シネスコ/カラー/ドルビーSRD/151分(インターナショナル版)

写真:山崎智世
文 :黒瀬朋子
協力:原千香子

 

http://dacapo.magazineworld.jp/cinema/155349/

田んぼの真ん中の小学校に グラミー賞受賞クラリネット奏者がやってくる。エル・システマジャパン訪問記 by BSYO ハル。

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エル・システマジャパン訪問記 by BSYO ハル。

田んぼの真ん中の小学校に グラミー賞受賞クラリネット奏者がやってくる。

リチャード・ストルツマンさんの演奏がはじまりみるみる緊張していく子どもたち。だいじょうぶかなあ。© 2014 by Peter Brune

リチャード・ストルツマンさんの演奏がはじまりみるみる緊張していく子どもたち。だいじょうぶかなあ。© 2014 by Peter Brune

ベネズエラが生んだ画期的な音楽教育システム エル・システマの活動と音楽のある生活を提案する連載『世界を驚かせる音楽教室 エル・システマのキセキ』。もう読んでいますよね! こちらはそのスピンアウト版です。日本にもエル・システマがあるのをご存知でしょうか? 連載担当チームBSYOの編集担当 ハルによる福島県相馬市のエル・システマジャパン訪問記をどうぞ。

「エル・システマジャパンと福島県相馬市の教育委員会が協力して取り組む音楽鑑賞教室があるよ」と小耳にはさんだのは、9月の上旬のこと。その様子を見学しようと、相馬市立大野小学校を訪問してみることにしました。

9月の末とは思えないほどの強い日差し。日中は半袖でじゅうぶんと思えるほど福島の秋は暑かった。聞いたところによれば、大野小学校は田んぼの真ん中にあるらしい。東日本大震災の影響で、頼みの常磐線は相馬駅以北には走っていない。レンタカーのカーナビを頼りに市内を走る。太平洋沿岸の道路には突如として「立ち入り禁止」の標識が飛び出してくるし、よくよく見てみると、走行している車両の多くは復興資材を運ぶダンプカーではないか。海を背に、稲刈りの進む田んぼの中を走らせていけば、見えてきた! あれが大野小学校か。背後にそびえるのは阿武隈山脈、大自然の中の小学校だ。「おじゃましまーす」。

先生に案内されるまま校内を通り抜け、体育館へと繋がる渡り廊下を進みます。途中、だれもいない教室をのぞけば小さな机がゆったりと並んでいる。どうやら子どもたちはすでに、体育館に移動したみたい。板張りの廊下からはぬくもりを感じる。いまにも子どもたちの声が聞こえてきそうだ。

体育館に足を踏み入れると、笑顔の子どもたちが振り向いた。こんなにリラックスしてだいじょうぶ? これからはじまるのはアイドルのコンサートではなく、クラリネットとマリンバの演奏なんだよ。

教わったとおりだ! 田んぼの中に突如として現れた! 相馬市立大野小学校。

教わったとおりだ! 田んぼの中に突如として現れた! 相馬市立大野小学校。

クラリネット奏者 リチャード・ストルツマンさんと妻でマリンバ奏者のミカ・ストルツマンさん。

クラリネット奏者 リチャード・ストルツマンさんと妻でマリンバ奏者のミカ・ストルツマンさん。

プロフェッショナルな演奏の洗礼
「なに、これ!?」が笑顔に変わるとき。

体育館の中で知っている顔を見つけた! 前日のエル・システマジャパンの練習にもきていた男の子だ。エル・システマジャパンの代表理事の菊川穣さんの姿もある。いよいよ音楽鑑賞教室のはじまりだ。

リチャード・ストルツマンさんは過去に2度もグラミー賞を受賞したクラリネット奏者。今日は、マリンバ奏者のミカ・ストルツマンさんとの共演だ。いったいどんな楽しいコンサートになるのだろう?

きっと子どもたちの知っている曲を演奏するのだろうというぼくの推測は、開演間もなくあっけなく崩れ去った。ストルツマン夫妻が奏でたのは、ほとんどが彼らのオリジナル曲だったのだ。耳慣れないメロディーに子どもたちの反応は……。やっぱり少し落ち着かない!? そんな様子を感じ取ったのか、演奏の合間にリチャードさんがクラリネットの紹介をはじめた。顔を赤らめ、クラリネットを息長く吹く。子どもたちの目に好奇心の輝きが戻る。10秒、20秒、30秒……、かすかな音が静かな体育館に信じがたいほど長く残る。(すご~い!)息をのむ子どもたち。拍手が自然と起こり、表情にも明るさが戻った。よかった~。奏者と子どもたちの緊張も吹き飛んだみたい。笑顔、拍手、そして最後にはアンコールまで飛び出した! 最初の緊張が嘘みたい。

知らない人が知らない曲を演奏しても、緊張しないときっと楽しい。大野小学校の子どもたちは、そんなことを知らず知らずに学んだのかもしれない。

菊川穣さんとミカ・ストルツマンさん。

菊川穣さんとミカ・ストルツマンさん。

「そ、そんなに息を吐き続けてだいじょうぶ!?」。子どもたちは真剣な表情になっていきます。

「そ、そんなに息を吐き続けてだいじょうぶ!?」。子どもたちは真剣な表情になっていきます。

エル・システマジャパンはなぜ“教育”なのか
身近に音楽があるってどういうこと!?

音楽鑑賞教室が終わると、自然とミカさんの周りに子どもたちが集まってきたぞ。どうやらマリンバという、長~い木琴のような楽器が気になっていたみたいだ。ミカさんが愛おしむように子どもの手を取り、いっしょにたたいてみせる。

今回の鑑賞教室を、エル・システマジャパンとともに進めてきた教育委員会の志賀さんも満足そうな笑顔を浮かべている。「モノの支援から人の支援へ。震災から3年たって、支援のあり方が変わってきているんです」。志賀さんは相馬市の状況をそう言い表した。そして、大野小学校には、少ないながらも、他市からの避難者が仮設住宅に暮らしながら通っているのだと阿武隈山脈の方を指差した。

学校教育を通して支援をつなぐ立場にある志賀さんは、エル・システマジャパンを心強いパートナーだと表現する。なるほど。エル・システマジャパンを通じてやってくる音楽家を、小学校の教育の場にまでつなげていくためには、よほどの信頼関係がなければ難しいだろう。今回の鑑賞教室も、ストルツマン夫妻がエル・システマジャパンを訪問するのにあわせ、企画したのだという。

エル・システマジャパンに通わなくても、地域の子どもたちに音楽にふれる機会を提供していく。暮らしの中で音楽にふれる時間を増やし、音楽によってつながる関係を作っていく。ゴールも、満点も必要としない。エル・システマジャパンが学校教育と提携している意味がなんとなくわかった気がした。

相馬市教育委員会の志賀拓広さん。鑑賞教室もうまくいってひと安心です。

相馬市教育委員会の志賀拓広さん。鑑賞教室もうまくいってひと安心です。

演奏が終わってごあいさつ。ありがとうございました!

演奏が終わってごあいさつ。ありがとうございました!

鑑賞教室が終わったら、マリンバに興味をもった子どもたちがやってきた。

鑑賞教室が終わったら、マリンバに興味をもった子どもたちがやってきた。

(BSYO / ハル プロフィール:おもむくままに生きる。職業は書籍編集。最近のモットーはチームを作って活動すること。この秋、驚いたことはムーミンが考えていた以上に小さな生き物だと知ったこと。)

http://dacapo.magazineworld.jp/culture/155328/

Another Quiet Corner Vol. 37 アンドレ・メマーリ / フランソワ・モラン『アラポラン』リリース。メマーリ&モラン、木や水を感じるピアノ&ドラムのデュオアルバム誕生。

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メマーリ&モラン、木や水を感じるピアノ&ドラムのデュオアルバム誕生。

Another Quiet Corner Vol. 37 アンドレ・メマーリ / フランソワ・モラン『アラポラン』リリース。

  

  

アンドレ・メマーリとフランソワ・モラン。

木々のざわめきや水のきらめきを感じさせるナチュラルな響きと、鮮やかな映像美を喚起される音楽に強く惹かれます。アンドレ・メマーリとフランソワ・モランは、そんな豊かな魅力をもった音楽家です。いままでにbar buenos airesのコンピレイションに収録したり、クワイエット・コーナーのディスクガイド本の中で、「Viento, Luz, Agua」と「Trav’lin’ Light」というテーマで、それぞれの作品を掲載したりしてきました。今回、その二人が一枚の素晴らしいデュオ・アルバム『Arapora』をリリースしました。

アンドレ・メマーリは現代ブラジル音楽、それも充実極まりないサンパウロ・シーンの中心人物であり、ピアニスト、作曲家、エンジニアといった多彩な才能を持っています。ブラジル音楽だけには留まらず、ジャズやクラシックなどさまざまなエッセンスを自在に取り入れて、次々にクオリティの高い作品を録音して、幅広い音楽ファンから支持を得ています。メマーリはbar buenos airesレーベルのアーティスト単体アルバムの第一弾、エドゥアルド・タウフィッキ&ホベルト・タウフィッキの兄弟デュオによる『Bate, Rebate』のプロデューサーでもあり、日本にも何度か来日して、その類まれな才能を披露しています。

フランソワ・モランはリオ在住のフランス人ドラマーで、2013年に発表されたファーストアルバム『Naissance』は、そのメマーリと、ルイス・ヒベイロ、ネイマール・ヂアスといったサンパウロの才能あふれる音楽家から、セルジオ・サントスやイヴァン・リンスなど豪華なゲスト陣も参加した傑作で、南米音楽ファンの間で大きな話題になりました。2014年には、パット・メセニー・グループの一員として有名なギタリストのナンド・ローリアが参加したボーナス・トラックを加え、さらにメマーリ自身によって新たなにマスタリングが施された形で、新生『Naissance』として生まれ変わりbar buenos airesレーベルから発売されました。

アンドレ・メマーリ(左)とフランソワ・モラン

アンドレ・メマーリ(左)とフランソワ・モラン

インプロヴィゼーションのイメージで語れない優雅なアルバム。

メマーリとモランはこの『Naissance』を通して、お互いの価値観や感覚を共有し、ふたりのシンパシーを形にするべく、即興をベースにしたデュオ・アルバム『Arapora』を完成させました。ピアニストとドラマーというデュオ編成(めずらしいです)を基本に、メマーリ自身の演奏によるギター、ベース、シンセの音を重ね、ダイナミックかつ繊細なアンサンブルを構築しています。収録された全13曲中8曲はインプロヴィゼーション(即興演奏)で録音され、メマーリによる美しい2曲の書下ろしをはさみ、さらにアントニオ・カルロス・ジョビンとキース・ジャレットという、彼らの敬愛する音楽家のカヴァー曲も収録しています。

インプロヴィゼーションと聞いて、難しくとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、ふたりの即興演奏はまるで楽譜が存在したかのように、ときにメロディアスで流麗。それぞれの楽器の繊細な響きや(特にモランのブラシ・ワークに注目)、メマーリの卓越した鍵盤さばき、そして二人がお互いに探りながら生みだされるインタープレイの数々にぜひ耳を傾けてほしいと思います。ブラジル音楽ファンだけではなく、ECMや北欧ジャズのように、透明感があって、幻想的なサウンドが好きな方にも自信をもっておすすめできます。もう少し早く発売されていたら、クワイエット・コーナーのディスクガイド本には、「Intimate Dialogue」という「親密な音の対話」を感じさせるデュオ作品を紹介しているページに載せていたと思います。

さて、今回はそんな素晴らしい作品を届けてくれたアンドレ・メマーリに特別にインタビューを行いました。メマーリ自身の音楽観、日本に対する思い、そしてモランとの出会い、アルバムへの想いなど、興味深い話を聞くことができましたので、ぜひお楽しみください。(インタビューは2013年11月)

  

  

  

  

Andre Mehmari interview  *interviewed in 2013 November

Q. 僕はQuiet Cornerというフリーペーパーを作っていて、あなたの音楽を紹介してきました。今回のインタビューはそのウェブ版のAnother Quiet Cornerというページに掲載する予定です。これがそのフリーペーパーです。

A. (フリーペーパーを眺めながら) おー、カルロス・アギーレやゼー・ミゲル・ヴィズニッキも載っていますね。あとラファエル・マルティーニまで。これはとても素敵なフリーペーパーですね。

Q. ありがとうございます。では質問をはじめます。2011年のソロとしては初の来日ツアーを行って、何か大きな変化や影響はありましたか?

A. 大きな影響がありました。2011年の来日というのは、私のキャリアの中でも重要な出来事でした。音楽的にももちろんなのですが、感情的にも変化がありました。ちょうど、震災の直後だったので、多くの日本人が大変な思いだったはずです。けれど彼らは私の音楽をじっと聴いてくれました。これは私にとっても忘れられない来日公演です。日本に対する愛着心もその時に強くなりました。

Q. 今までの来日を通して、日本への興味はどのように深まりましたか?

A. とにかく日本には、音楽以外にも夢中になって熱狂してしまうものがたくさんありますし、毎回感動します。日本の文化はブラジルとまったく異なるのでとても刺激的なのです。あと、日本には最高品質のピアノがたくさんあります。これはピアニストである自分にとってとても重要なことです。今まで色んな国へ旅をしてきましたが、日本はとくにお気にりの国ですよ。

  

  

Q. 伊藤ゴローさんの『GLASHAUS』には、あなたやジャキス・モレレンバウムが参加したり、あと藤本一馬さんの『Dialogue』にはカルロス・アギーレが参加、『My Native Land』にはあなた自身が参加されましたね。近年、日本のミュージシャンと、ブラジルやアルゼンチンのミュージシャンの交流が良い形になっている状況を、どのような風に感じていますか?

A. その傾向はとても前向きなことだと考えています。私も密接な二人の関わり合いによる、デュオの演奏がとても好きです。実際に私もガブリエレ・ミラバッシやマリオ・ラジーニャともデュオ録音をしています。音楽というのは、深いレベルで言語的なコミュニケーションを可能にさせるものです。もしまとまった日数の滞在が可能になったら、ぜひ日本のミュージシャンたちと一枚の作品を制作してみたいですね。

Q. 日本のリスナーはいつもあなたの活動に注目しています。ちなみに僕はあなたがプロデュースを手掛けたエドゥアルド・タウフィッキとホベルト・タウフィッキ兄弟のアルバム『Bate Rebate』がとても気に入っています。

A. (bar buenos airesの国内盤のジャケットを眺めて)これはかわいいデザインですね。このアルバムが発売されたときに、彼らと一緒にライヴも行いました。二人は本当に素晴らしいプレーヤーです。

Q.今後、メマーリさんのソロ名義のアルバム制作の予定はありますか?

A. いくつかプロジェクトを抱えていますが、もうすぐエルネスト・ナザレ―のピアノ・ソロの作品を出す予定です。楽しみにしていてください。(編注:すでに発売されています)

Q.あなたが作る音楽にはイマジネーションをかき立てる魅力があると思います。たとえば晩年のアントニオ・カルロス・ジョビンのような、自然の風景を感じさせる魅力です。そのような豊かな音楽を生みだすイマジネーションがどこから湧いてくるのですか?

A. 私は頭や心で描いた音楽を、そのままリスナーに届けることを大切にしています。それはノイズやチリが混じっていない純度の高い音楽です。私も自然が豊かな場所で育ったので、私が作る音楽も自然と強い関係性を持っています。特に木々が大好きなので、実際に私のスタジオも森の中にあります。あと木に関してとても興味があるのでいま勉強しています。私の音楽を聴くと木々の香りを感じてもらえるかもしれません。ジョビンも海や浜辺が好きだったと思われがちですが、実はブラジルの湿地帯の森林が好きだったみたいですね。

Photo by Ryo Mitamura

Photo By Ryo Mitamura

Q.フランソワ・モランとのデュオ『Arapora』の制作する経緯を教えてください。

A. フランソワがソロ・アルバムの『Naissance』を制作するときに、私にレコーディングの話を持ち掛けてくれて、そこから彼との交流が始まりました。そのレコーディングの際に、彼と二人でインプロヴィゼーションの演奏をしました。その時は何も打ち合わせをしないで演奏したのですが、結果的に40分くらいの演奏になって、とても満足のいく内容でした。これが『Arapora』を制作するきっかけになりました。また今回インプロの他に、私のオリジナル曲も収録していますが、これは私が15歳くらいの時に作った曲です。ちなみにそのうちの「Corale」は、実はフランソワは一度も聴いていない状態で録音に挑みました。しかし結果的にいい録音になったので、後から私がベースを重ねて完成させました。

A.『Arapora』はどういう意味なのですか?

Q. 「アラポラン」は町の名前です。でも私が想像で作った町です。私が住んでいる町の名前が「マイリポラン」といいます。けれど「アラポラン」を作曲したときは違う町に住んでいたので、名前を似せようと思ったわけではなく、偶然なんです。

A. あなたは様々なミュージシャンとデュオの録音をしていますが、フランソワ・モランとは何か特別なものを感じましたか?

Q.私とフランソワは音楽への愛着の仕方が似ています。『Arapora』は、だからこそ完成した作品だと思います。あとドラマーとのデュオはめったにないので、レコーディングも楽しかったです。たまにお互いに楽器を取り換えて演奏したりしました。私がドラムを叩いて、フランソワがピアノを弾いたりして、もちろん録音はしなかったですけど、そうすることで理解を深め合うことができました。

  

  

A.キース・ジャレットの「Memories Of Tomorrow」カヴァーを選んだのはなぜですか?

Q. この曲は『ケルン・コンサート』という伝説のインプロヴィゼーション・アルバムに収められているので、今回インプロヴィゼーションをベースとした作品をつくるにあたり、この素晴らしい作品に敬意を払って「Memories Of Tomorrow」をカヴァーしました。

A.とても美しいカヴァーですね。ちなみにエグベルト・ジスモンチやミルトン・ナシメントなど、アルバムやステージでいろいろなカヴァー曲を演奏していますが、ご自身が演奏したい曲とはどのような曲ですか?

Q. まずはピアノのアレンジで演奏が可能かどうか、だからジスモンチの曲はもちろん可能です。あとミルトンのいくつかの曲に関してはピアノの宇宙の中で美しく響くものがあります。ただし、私は一度もカヴァーという言葉を使ったことがありません。あくまでも個人的な視点でその曲を見つめているので、いわばアレンジをしている感覚に近いかもしれません。そしてその曲の中核の部分は、失うことがないように心掛けています。

Q. では最後に『Arapora』の発売にあたり、リスナーへのメッセージをお願いします。

A. この『Arapora』はまず日本で先行して発売されます。これは私の日本のリスナーに対してのリスペクトです。そして可能であればフランソワとともに日本のステージでこの音楽を演奏したいです。

Photo by Ryo Mitamura

Photo by Ryo Mitamura

『Araporã(アラポラン)』
André Mehmari – François Morin(アンドレ・メマーリ / フランソワ・モラン)

2014年12月7日発売 2,300円(税別) RCIP-0216 レーベル:Inpartmaint

【Track List】

01. IMPROVISO Mehmorin 1 (André Mehmari / François Morin)
02. IMPROVISO Mehmorin 2 (André Mehmari / François Morin)
03. CORALE (André Mehmari)
04. IMPROVISO Mehmorin 3 (André Mehmari / François Morin)
05. IMPROVISO Mehmorin 4 (André Mehmari / François Morin)
06. IMPROVISO Mehmorin 5 (André Mehmari / François Morin)
07. ARAPORÃ (André Mehmari)
08. IMPROVISO Mehmorin 6 (André Mehmari / François Morin)
09. AMOR EM PAZ (Antonio Carlos Jobim)
10. IMPROVISO Mehmorin 7 (André Mehmari / François Morin)
11. LUAR SOBRE AS RUÍNAS DO VELHO CASTELO (Rentaro Taki)
12. IMPROVISO Mehmorin 8 (André Mehmari / François Morin)
13. MEMORIES OF TOMORROW (Keith Jarrett)

http://dacapo.magazineworld.jp/music/155472/

島田奈央子的ジャズ論 ジャズと私の現在・過去・未来。

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島田奈央子的ジャズ論 ジャズと私の現在・過去・未来。

音楽ライター、DJ、イベントプロデューサー島田奈央子さん。photos / 谷 康弘

音楽ライター、DJ、イベントプロデューサー島田奈央子さん。photos / 谷 康弘

音楽ライター、DJ、イベントプロデューサーなど様々なプロフィールを持つ島田奈央子さん。2010年に発表されたコンピレーションCD、書籍の共通タイトル「女子ジャズ」シリーズは各方面から絶賛を受けました。ジャズに詳しく多方面で精力的な活動を続ける島田さん、12月21日には南の国のクリスマスをテーマにイベントをオーガナイズします。イベントについて、なによりもまず、その人となりから伺わなくてはと意気込んでみてのインタビューby『サラヴァ東京』プロデューサー ソワレくんです。

ー最初に「小さい頃から音楽は身近なものでしたか?……

島田奈央子さん:はい、ただ私は歌謡曲が好きで。父がジャズやクラシック、ワールドミュージックなんかを聴いていたんですよね。クリスマスには必ず家族でナット・キング・コールの曲を聴くんです。まずはスプレーで盤を綺麗にしてから。レコードをすごく大事にしていてね。ちょっとでも触ったりすると怒られたりして。その時がジャズと云う言葉を知った最初だと思うのですけれど、まさかジャズのライターになるとは思いもしませんでした。ただ、文章を書くのは好きでした。ポエムみたいなものをほんっとうに沢山書いていましたね。

自分の中でこれはジャズ、ジャズじゃないって決めて音楽を聴いてはいないんです。音楽の中に自由度が見えたり、切り開いてゆくものを感じたりするとああ、ジャズだなあ、って。日本の唄にもジャズを感じるものは沢山あるし、それが私にとってのジャズの定義。で、私は英語があまり得意ではないのでメロディを聴いた時にピンと来るんです。単純にいいなあって。同じメロディも表現するミュージシャンで全くニュアンスが変わったりするところも面白いですね。旧い曲でもそうでない曲もメロディラインに乗せるコードやリズムでその人の音楽が見える。私のジャズに惹かれるところはそこかな、って。スタンダードなものの上で自由度が高い、ってのがジャズ。そんな風に思っています。

メロディラインに乗せるコードやリズムで
その人の音楽が見える。

ーまだその言葉がレコード盤に刻まれて100年位だと云うのにジャズの世界は奥深いですね。文化として急速に発達した一コマなのではないかと思えますし、その哲学論は人それぞれ。島田さんは相当なジャズ心酔者だとお見受けしますが、そもそも本格的にジャズを意識したきっかけ、「最初にガツンと来た瞬間は…?」

島田奈央子さん:友達が出ているライブに行ったんです。コール・ポーターのトリビュートライブで。その時に旋律の美しさに惹かれたんですよ。先程も云いましたが私にとって一番琴線に触れるのはメロディなんですよね。それからジャズに本気で傾倒していったのですが、その前にクラブ通いもしょっ中していました。渋谷のクラブ『Room』に夜な夜な出掛けて、DJさんの曲に敏感に反応しては“この曲は何ですか?!”ってブースに駆け寄って……。翌日にはそのレコードを探し回るみたいな日々を過ごしていたら寝不足で倒れて救急車で運ばれて(笑)。その後ライターとしてお仕事させて戴くことになるんですけど、正直云ってジャズが判らなかった、難しかった。勿論お仕事はきちんとさせて戴いたのですけれど、もしかして最初の入り口がビッグネーム過ぎたせいかも知れません。マイルス・デイビスとかそういうところから入っていったから。そこに追い付こうとしたり解釈したりすることで精一杯で。

ジャズが好き、って云うと100個くらい質問が飛んで来るんですよ。その度に判らなくて挫折して。私はジャズのパッションとか雰囲気が好きだったんですけど知識で責められてしまうんです。しばらくしてそういう気持ちから開放してくれた音に出会って。フランスのミッシェル・ペトルチアーニって云うピアニストなんですけど、その時に“ああ、これだ”って思ったんです。もの凄くポップで聴き易くて、なんでもっと早く出会わなかったんだろうって思いましたね、そこからです。何かが私の中で変わったのは。私は最初にジャズの巨人に出会ってしまったんですね。ミッシェルを聴いて私はこういうスタイルのジャズが好きなんだって確信出来ました。

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書籍『Something Jazzy 女子のための新しいジャズ・ガイド』駒草出版
『タワーレコード』などで平積みの特設コーナーが印象に残っている人も多いのでは? ピンクの表紙が印象的な島田さん初の単行本はジャズ触れたいビギナーに優しいガイドブック。今までになかったその着眼点からエヴァーグリーンのヒット作に。

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『Something Jazzy~毎日、女子ジャズ。』EMIミュージックジャパン
島田奈央子監修のジャズコンピレーション・アルバム。影響を受けたミッシェル・ペトルチアーニやアンリ・サルバドールと云ったフランス系、日本からは平井景など、時代も国籍も越えた様々な解釈のジャズが楽しめる。続編の『パリ旅で、女子ジャズ~Something Jazzy』も好評を博す。

ジャズのDJ、イベントのオーガナイズ
音響も照明も手がける。

ージャズライターとして早くから頭角を顕していたと感じていた島田さんだがご本人は見えないところでやはり紆余曲折なさっていたのですね。ところでライブ会場で奮闘なさっている島田さんのこと、プライベートライフをのことをちょっと、伺います。イベントではオーガナイズのほか様々なお仕事をしていらっしゃいますが……。

島田奈央子さん:イベントの裏方の仕事は、私だったらこうするのに、って思うことをやっているだけなんですよね。ライブを見ていて照明はこうしたいとか、もうちょっと早く色々なことが仕切れるのにな、とか。今は音響も照明もやる様になりました、少しですけど。

アーティストの音楽を少しでもよく見えるようにって思いながら始めたのが信州の風景を音楽に投影したイベント「信州ジャズ」です。信州・安曇野が本当に好きなのと伊佐津さゆりさんと云う地元のピアニストさんに2年前に知り合ったことがきっかけです。音が南アルプスの景色に交わってゆく雰囲気が本当に素敵だったんです。魅了されて安曇野に通う様になりました。

私は東京生まれでで田舎がないのでそういう意味でもほっとしますね。お野菜も美味しいし。でも冬が寒いのがちょっと、辛いかな。そうそう、安曇野などのお野菜で朝、スムージーを作るのが最近の日課なんですよ。パセリとかセロリとか小松菜、青野菜にヨーグルトとオリーブオイル、お水、無糖のヨーグルトを入れてミキサーで混ぜるだけです。そのお陰で健康ですよ。

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お休みとかはなかなかなくって。ライターとかオーガナイザーってメールがいつでも来たりとかイベントを抱えたりしているとオフのモードに切り替えられなくって。本当に安らげるのはこの頃は眠る30分前くらいだけですね。映画を見たりもしていたんですけど、そしたらそれに関わる連載が始まって仕事になっちゃったりして。どんどんやる事が増えていっちゃいますね。今月に初めて『サラヴァ東京』でイベントをオーガナイズさせていただきますが、テーマが面白いですよ。“南の島のクリスマス“。皆さんが知っている、あのクリスマスソングたちが、あったかい国のアレンジになっていたり、島をイメージした平井景さんのクリスマスオリジナルソングがあったり、スティールパンも入っています。イベントと別に、実は私のジャズのイメージってパリにもあるんです。いつも憧れを抱いている場所。私の思うジャズに一番近い街なんですよね。

夢はお薦の音楽をかけてライブをやって。
発信する場を持つこと。

ーそれでは最後に質問を。「10年後の島田さんはどうなっていらっしゃいますか…?」

島田奈央子さん:お店をやっていたいです。お薦めしたい音楽を掛けて。ライブをやって。発信する場所を提供したいですね。実は『サラヴァ東京』みたいなお店が理想なんです。アットホームでギャラリーも併設していて。でも、10年前からそんなこと云ってますからね(笑)。

でもやはり10年後もライターを続けているのかな、って気もしますけれど。いつも不安が付きまとってはいます。けど書き出すと盛り上がって来ちゃうんです。お仕事もいただけているし、やっぱりライターなのかな。でもアンテナショップはいつか持ってみたいです。

***

生真面目でシャイな印象は最後まで変わらなかった島田さんだが、だからこそ今まで第一線で活躍して来られた礎だと確信した。やはり理由無く好きなものを見つけられた人と云うのはいつまでも純粋で強いのだろう。「体育会系ですか?」と問いかけたら“そうかも知れませんね“とはにかみながら答えてくれた瞬間が印象的だった。女子は永遠に女子、と語る島田さんに期待するジャズシーンの面々が多いのも納得である。音楽との出会いとは決められた運命にも似ているのかな、はじめて出会った時の気持ちを大切に出来る……そんな風に感じた一時間であった。

『Something Jazzy ~冬の休日・アイランド・クリスマス~ Produced by Naoko Shimada』
2014年12月21日(日)開場 17:30 、開演 18:30
会場:SARAVAH東京 渋谷区松濤1-29-1クロスロードビルB1F
電話:03-6427-8886
前売り4,500円、当日 5,000円(1D&プチプレゼント付)

島田奈央子がオーガナイズするするジャズナイト。初心者でも楽しめるラウンジ・ライブパーティ。お一人でもデートにも、お友達とでも楽しめそうな内容となりそう。2014年のクリスマスの想い出はサラヴァ東京で作ってみては如何?そして島田さんからのプチプレゼントが来場者全員に配られます。

出演:伊藤大輔(vo)、青柳誠(pf)、 原田芳宏(Steelpan)、 熊谷望(b)、 平井景(ds&Sound Produce)、島田奈央子(MC)

http://dacapo.magazineworld.jp/music/155071/

スペインデザインの情報が電子書籍で発信されています!

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スペインデザインの情報が
電子書籍で発信されています!

スペインといえば、ハイメ・アジョンやパトリシア・ウルキオラ、ナチョ・カルボネル、ストーン・デザインズなど、多くの優れたデザイナーを輩出し、彼らは国際的に活躍しています。また、デザイン性の高い家具、照明器具などのインテリア製品も、世界中の高級ホテルや住宅などで使用されています。

そんなスペインの今のデザインが毎月掲載される電子書籍がこの“DESIGN in/from Spain”です。スペイン貿易投資庁ICEXがこれまで「Spanish」という紙の雑誌を発行していたのですが、今後はこの電子書籍で発信していくそうです。当面はスペイン語のみの対応です。クオリティの高い写真とデザインは専門家のみなさんのみならず、一般のデザイン好きにも十分楽しめるもの。アップルストア、グーグルプレイ、両方に対応しています。
無料ですので、ぜひ一度ご覧ください。

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クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その1

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クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その1

ウィーンの老舗ワイナリー、マイヤー・アム・プファールプラッツの畑から、ウィーン中心街を望む。

ウィーンの老舗ワイナリー、マイヤー・アム・プファールプラッツの畑から、ウィーン中心街を望む。

首都で作られるウィーンのワイン。

いまやロンドン、ニューヨーク、そして東京でもワインが造られているけれど、ウィーンはスケールが違います! 700haもの栽培面積、320あまりのワイナリーをもち、商業的ワイン産地が、首都にあるのは、たぶんオーストリアだけ! ワインの造り手たちが、一番の繁忙期を迎える9月の最終週、ウィーンを旅してきました。

ウィーンという名は、この地に1~3世紀頃にかけて遠征を行ったローマ軍が、おいしいワインに感動し、Vinndobonna(おいしいワイン)と呼んだことに由来するとの説もあり、ウィーンとワインは切っても切れない関係にあるんです。

中心街からトラム(路面電車)38番に乗って約20分のハイリゲンシュタットやグリンツィングのある19区は、お金持ちが住む高級住宅街ですが、ウィーン全体の約3分の1にあたる200haの葡萄畑が広がるりっぱなワイン産地。いってみれば成城学園前あたりで、世界でも認められるワインが造られているという感じなのです。

ウィーンのワインといえば、なんといっても2013年に原産地統制呼称DAC(Districtus Austriae Controllatus)に認められたフィールド・ブレンド(混植混醸)のワイン〈ヴィーナー(ウィーン)・ゲミシュタ・ザッツ〉ですが、昔からこの19区の名産でした。今やウィーンの顔として、国内でも海外でも人気ですが、じつはほんの15年ほど前までは、ゲミシュタ・ザッツは、安酒の代名詞だったのです。

そもそも品種によって異なる作柄を、複数の品種を使うことで補完する、リスクヘッジの目的から生まれたものだそうです。それが適地栽培の考え方から単一品種へとシフトしていくなか、ウィーンの19区の街道沿いに軒を連ねるホイリゲ(ワイン居酒屋)は、週末には家族連れが集まり、特に品質向上の努力をせずとも、大量消費されていったため、ゲミシュタ・ザッツといえばガブ飲み系の酒というイメージが固定してしまったのです。

そんななか、ゲミシュタ・ザッツ・リバイバルの立役者となったのは、19区とともに銘醸地として知られ、ドナウ河をはさんで、東側にある21区のシュタマーズドルフを本拠地とするフリッツ・ヴィーニンガーでした。

9月最終土曜日、みんなが楽しみにするワインハイキングは、ワイン片手に葡萄畑をまわるトレイル・ウォーク。

9月最終土曜日、みんなが楽しみにするワインハイキングは、ワイン片手に葡萄畑をまわるトレイル・ウォーク。

フィールド・ブレンド(混植混醸)が復活。

フリッツを訪ねたのはまさに収穫のさなかで、次々と葡萄がワイナリーに運ばれてくる、一年で最も忙しい時期(スミマセン!)。てきぱきとスタッフに指示を与えながらも、常に笑顔でワインへの熱い思いを語ってくれました。

ウィーンでいち早くビオディナミを取り入れたことでも知られる。  

ウィーンでいち早くビオディナミを取り入れたことでも知られる。  

ヴィーニンガー家は、100年以上続く葡萄栽培農家ですが、クオリティワインを目指したのは、フリッツのお父さんで、1985年のワインスキャンダル(オーストリアの甘口ワインから、ジエチレンアルコールという不凍液が発見され、一夜にして世界中の市場からオーストリアのワインが消えたという事件。その後これに立脚してヨーロッパ一厳しいといわれるワイン法を制定。)の後のことだそう。なんとフリッツはこのオーストリア史上に残る年に国立クロスターノイブルク栽培醸造学校を卒業して家業に加わりました。

シュタマーズドルフのレス土壌は、ブルゴーニュ系品種に向くことから、フリッツの造るフルボディのシャルドネやピノ・ノワールが高く評価されていました。

転機となったのは1999年ごろ。本拠地とは異なる土壌を求め、19区の石灰岩土壌のヌスベアクに土地を入手。そこはゲミシュタ・ザッツの故郷として知られてはいたけれど、フリッツが目指すのはクオリティワインゆえ、全部植え替えるつもりで、ほんの気まぐれでゲミシュタ・ザッツを造ったところ「そのおいしさに驚いた」そうです。「品種によって熟期が違う葡萄を一緒に仕込むことで複雑味が出る。ゲミシュタ・ザッツは、ウィーンのテロワールの表現だ」と語ってくれました。

ヌスベアクのなかでもベストサイトといわれるローゼンガートゥル畑のほか合計4種のゲミシュタ・ザッツを造り、これを新しいウィーンのスタイルとして世界に認知させることに成功。2006年、考え方を同じくする5人の仲間と共に「Wien Wein(ヴィーン・ヴァイン)」を結成し、ウィーンのワイン文化を盛り上げています。

ゲミシュタ・ザッツは、最低3種類以上の葡萄を使用(10%〜50%)することが義務づけられています。造り手によってその比率はさまざまなので、ぜひいろいろなタイプのゲミシュタ・ザッツを体験してくださいね。

Fritz Wieninger
住:Stammersdorfer Straße 31, 1210 Wien

協力:WienTourismus 

http://dacapo.magazineworld.jp/gourmet/155490/


世界を驚かせる音楽教室 エル・システマのキセキ- 3 - エル・システマジャパン訪問記 ボクらのオーケストラ×ジャズ即興 初共演!!

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エル・システマジャパン訪問記 ボクらのオーケストラ×ジャズ即興 初共演!!

世界を驚かせる音楽教室 エル・システマのキセキ- 3 -

福島市総合福祉センター「はまなす館」。10時からの練習を前に、子どもたちが続々と到着してきた。© 2014 by Peter Brune

福島市総合福祉センター「はまなす館」。10時からの練習を前に、子どもたちが続々と到着してきた。© 2014 by Peter Brune

エル・システマとは今、世界を最も沸かせる指揮者グスターボ・ドゥダメルを生んだ驚異の音楽教育システム from ベネズエラ。シリーズ『世界を驚かせる音楽教室 エル・システマのキセキ』では世界のエル・システマをご紹介しています。第3回では日本のエル・システマで演奏する子どもたちに会いに、福島県相馬市に行ってきました。

Through many dangers, toils and snares.
I have already come;
‘Tis grace has brought me safe thus far,
And grace will lead me home.
When we’ve been there ten thousand years,
Bright shining as the sun,
We’ve no less days to sing God’s praise
Then when we first begun.

恵みが私を家に導くだろう。そこに着いて1万年経った時、太陽のように輝きながら日の限り神への讃美を歌う。初めて歌った時と同じように。
『アメイジング・グレイス』より

東京発6時32分発はやぶさ1号。わずか1時間40分で仙台に着く。そこから車道で南へ向かえば1時間20分で福島県相馬市に入る。「エル・システマジャパン」が活動を始めた最初の地が、この相馬だ。朝10時、楽器を手に、普段着の子どもたちが明るいガラスのエントランスへすべり込んでいく。相馬市総合福祉センターはまなす館が「相馬こどもオーケストラ&コーラス」の練習場所。2011年3月、震災の折には避難所だったところだ。

あれから3年半が経った。毎週日曜はホールに小中学生や園児が集まる。「ひつじチーム」は初心者クラス。ヴァイオリンの4本の弦を、音名や文字ではなく色で識別したポスターを貼り出していた。幼児にも家族にも、楽器のしくみがわかる。中級の「バッハチーム」と壁のないワンフロアで練習する。音が混ざっても気にしない。いつかあちらのチームでかっこいい曲を弾きたいなあという意欲が育まれていくからだ。背もたれによりかかる子どもや、楽器の構えが下がる子どもも、がみがみいわず長い目で見守る。休憩時間に小学1年生と中学生が語らい、4年生が加わる。付き添いの母の背で、赤ちゃんが目をあけた。穏やかな空気がゆったり流れていく。

「バッハチーム」の練習がはじまった。初心者が個人レッスンではなくみんなと合奏しながら練習するのもエル・システマの特徴のひとつ。

「バッハチーム」の練習がはじまった。初心者が個人レッスンではなくみんなと合奏しながら練習するのもエル・システマの特徴のひとつ。

楽譜は世界の共通語。15分後、ボクらがアメリカの演奏家とセッション!?

エル・システマでは「奏でよ、そして闘え」と社会の困難に立ち向かうことを謳うが、その日の相馬の子どもたちの練習は、落ち着いた佇まいだった。難曲や華麗な技術への過酷な挑戦はない。大学生や社会人フェロー(指導補助者)の手拍子にあわせて音階練習を繰り返す。休憩時間はにぎやかでも、練習や演奏の時間がくればすっと静まり、耳を澄ます。そして自然体だ。

夕方4時から始まった交流会。このとき子どもたちがきらりと輝いた。その日、アメリカからクラリネットとマリンバのデュオ、ストルツマン夫妻が相馬を訪問していた。エル・システマジャパン代表理事の菊川穣さんは、夕方4時に練習後の子どもと交流会をして、夜7時に演奏会をして、そのあとは焼き鳥とワインで相馬市民と音楽家夫妻の懇親会をしましょうというのだ。震災以後、相馬には毎月のように音楽家が来訪する。国内外から来た来訪客を囲み、みんなで歓迎するムードがある。

交流会を控えて待っていると、フェローから子どもたちに手書きの譜面が配られた。『アメイジング・グレイス』。20小節ほどの自筆譜だった。リチャード・ストルツマン氏が今日のために編曲してくれたのだ。音の数は少なく、一見やさしそうにみえる。しかしそっと覗くと、チェロのパートは途中からジャズの薫り漂う洒脱なコード進行に変わっていった。クラシック音楽の古典をレパートリーとする相馬の子どもたちにこいつはくせもの、ナゾの現代音楽だ。そう、この楽譜はストルツマン夫妻から贈られた、ジャズ即興への挑戦状なのだ。それはいいんだけど、あと15分でこれやるの!? 

難しいところはフェローが個別に教えてくれる。今日のフェローは東京から夜行バスでやってきてくれた。夕方には新幹線で帰京するんだって。

難しいところはフェローが個別に教えてくれる。今日のフェローは東京から夜行バスでやってきてくれた。夕方には新幹線で帰京するんだって。

 ストルツマン夫妻が来てくれた。歓迎の演奏ならまかせとけ。練習のときとはひと味違う真剣な雰囲気だぞ。

ストルツマン夫妻が来てくれた。歓迎の演奏ならまかせとけ。練習のときとはひと味違う真剣な雰囲気だぞ。

型にはまらない子どもたち。
大陸的なEmotional feelings。

交流会の最後にミカ・ストルツマンさんが『アメイジング・グレイス』の入りの合図をすると、子どもたちは心得たものだ。立ちこめる霧のような長くゆったりした響きを醸しだす。リチャードさんのクラリネットがすいと旋律を入れ、自由な即興に変わった。霧のなかを漕ぎ進むような弓さばきで、子どもたちは演奏を終えた。ミカさんが叫んだ。「Amazing(すてき)! もう1回したい? したいよね!」。演奏家から子どもたちにアンコールがかかった。絶え間ない変容の連続がジャズであるなら、子どもたちは即興音楽の初航海に成功し、帰港したのだ。

ミカさんはこう話す。「真面目で演奏技術の高い子どもはこれまでも数多くみてきました。けれど相馬の子どもはのびのびとして、型にはまらない。大陸的。米国や欧州の香りもします。10年後が楽しみです」。

リチャードさんは「子どもたちの演奏に豊かな感情(Emotional feelings)があった」という。たとえば精神医療の世界では、感情は、個人や集団の持つmode(気分)という土壌にemotion(情動/情緒)が喜怒哀楽となって現れるとされる。気分の安定が損なわれていると、情動の制御が効かず、泣き続けたり喜び続けたりする。気分が安定していると、意識に支えられた感情が自由に現れる。一期一会の本番で情緒豊かな演奏ができるのは、相馬子どもオーケストラに安定した土壌があるからだろうか。子どもたちは演奏を通じて、世界の人と文化を身近に感じている。5年後、10年後、この土壌から旅立とうという意志が芽生えたときには、日本や世界のどこへでも漕ぎ出せるだろう。

ミカ・ストルツマンさん。米国在住のマリンバ奏者。熊本県出身。カーネギーホール等で数々の公演がある。ジャズの鬼才チック・コリアと共演し、楽曲提供を受けている。現代音楽の旗手スティーブ・ライヒの録音に参加した。2014年はブルーノート東京等で来日公演。「誰も私ば止められんタイ!」と歌う熊本弁ラップの弾き語りナンバーが始まると、相馬の大人も子どもも笑顔でいっぱい。はまなす館が手拍子で湧いた。熊本弁はニューヨークでも大好評!
“Everybody Talk About Freedom”You Tube マリンバは木琴のなかま。赤、青、緑と、色とりどりのマレット(ばち)を数本ずつ両手に持って、時には床を踏み鳴らしたりしてリズムを刻む。

マリンバは木琴のなかま。赤、青、緑と、色とりどりのマレット(ばち)を数本ずつ両手に持って、時には床を踏み鳴らしたりしてリズムを刻む。

クラリネットはリード楽器。葦(あし)でできたアイスクリームのヘラみたいな部品を、舌で舐めて湿らせながら吹く。

クラリネットはリード楽器。葦(あし)でできたアイスクリームのヘラみたいな部品を、舌で舐めて湿らせながら吹く。

リチャード・ストルツマンさん。米国のクラリネット奏者。2度のグラミー賞を受賞。キース・ジャレット、チック・コリア、エディ・ゴメスらと共演を重ねる。 20世紀音楽の作曲家オリヴィエ・メシアン、武満徹とも接点がある。1973年結成の室内楽ユニット「タッシ」は斬新で深遠。2008年に再結成した。クラシックとジャズの融合するクロスオーバーと呼ばれる分野での第一人者でもある。相馬子どもオーケストラとの共演も、こんなオトナの雰囲気の編曲だ。

http://dacapo.magazineworld.jp/music/155450/

2014年 10大ニュース・テーマメディアが追いかけたヒトと事件の総まとめ

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メディアが追いかけた
ヒトと事件の総まとめ

2014年 10大ニュース・テーマ

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思えば、昨年は政権交代で幕を開けた1年であったが、今年も引き続き、安倍政権が台風の目であったことは間違いない。年末の忙しい最中にいきなり打ち上げられた「解散総選挙」は、今年の諸々のニュースを吹き飛ばす勢いで日本列島を縦断した。
 
とはいえ、じっくり振り返ってみれば、改めて思い起こされる騒動やニュースの数々。「週刊誌はこの1年、なにを報じてきたか」をひもとき、特集として取り上げられたテーマの頻度をランキング化した。来年はどんな1年になるのかと思いを巡らすその前に、今年1年をしばし振り返ってみよう。

2014年10大ニュース・テーマ・ランキング

朝日新聞『慰安婦記事』誤報で大騒動
大変な隣国?「反日」「嫌韓」報道、相変わらずの過熱ぶり
安倍内閣、年末いきなりの解散総選挙
小保方氏「STAP細胞」ねつ造疑惑
「舛添」「細川」「宇都宮」役者の揃った都知事選
愛子さま学習院女子中等科へ入学、変わらぬ注目集める皇太子一家
中国からの期限切れ食肉発覚でファストフード界に激震
佐世保高校1年生が同級生を惨殺
巨星堕つ!高倉健さん、菅原文太さんの相次ぐ訃報
佐村河内守ゴーストライター発覚、聴覚障害もウソ

<1>
朝日新聞『従軍慰安婦』誤報で大騒動

今年8月、朝日新聞は「慰安婦問題を考える」との特集を2日にわたって掲載、過去に記事で取り上げた、慰安婦の強制連行に関わったと告白した日本人男性の証言に虚偽があったと判断し、82年から90年代にかけて16回掲載した男性の記事を取り消すと発表し、物議をかもした。同紙に連載コラムを持っていた池上彰氏が「なぜ報道から訂正まで32年もの長い年月がかかったのか、検証が必要ではないか。訂正するならば、お詫びも必要ではないか」との趣旨で原稿を書いたところ、朝日がこのコラムを不掲載にするという事態まで起こり朝日の対応は迷走を深めた。朝日に対する批判が殺到し、朝日は不掲載の判断を一転させて同コラムは掲載された。

こうした一連の騒動によって「従軍慰安婦は存在しなかった」あるいは「強制連行はなかった」と主張する人たちによる朝日バッシングが加熱した。週刊誌も「朝日新聞メルトダウン」(週刊文春)「『朝日新聞』偽りの十字架」(週刊新潮)「慰安婦の嘘『朝日新聞の重罪』」(週刊ポスト)と、ここぞとばかりに書き立てた。一方で、コラム不掲載で騒動に巻き込まれた形になった池上さんは、「慰安婦と呼ばれた女性たちがいたことは事実。これを今後も報道することは大切なこと」と冷静な議論を呼びかける姿勢を変えていない。

同時期、福島第一原発事故に関して「吉田所長(当時)の命令に違反して社員らが第二原発に撤退」と「吉田調書」のスクープを報じた朝日新聞の記事が問題視される。その後、「吉田調書」が全面公開されると同時に朝日新聞社は記事の取り消しと謝罪を発表。これら一連の騒動の責任を取る形で、12月に木村伊量(ただかず)社長が辞任を表明した。

<2>
大変な隣国?「反日」「嫌韓」報道、相変わらずの過熱ぶり

朝日新聞の「慰安婦誤報」騒動は、当然ながらお隣韓国をも巻き込んだ。メディアは「『慰安婦報道』で韓国を増長させた朝日新聞の罪と罰」(週刊現代)「『嫌中憎韓』が売れるのは朝日新聞のおかげです」(週刊ポスト)とぶち上げた。日韓関係をこじらせた張本人が「『慰安婦報道』をねつ造」した朝日新聞だというわけだ。
実際のところ、安倍首相と朴槿恵大統領との日韓首脳会談は今年も実現せず、日韓関係は相変わらず冷え込んだままの一年だった。

さらに今年の朴槿恵政権は国内問題で大きな難題を抱え込むことになった。4月16日、修学旅行中の多くの学生を乗せた大型フェリーが珍島沖合で沈没し300名にのぼる死者・行方不明者を出したのだ。フェリーの過積載が常態となっていた事実が明るみに出て、韓国社会は国際世論から厳しい目を向けられてしまう。日本のメディアも「韓国沈没船300人を見殺しにした朴槿恵」(週刊文春)「政治も経済も大混乱 韓国・朴槿恵は『密会男』に操られていた!」(週刊現代)などと書き立てた。

と、相変わらず隣国との友好ムードを築けずに終わった一年ではあったが、そのアジア外交に大きく関わってくる決断を、7月1日に安倍政権は下している。集団的自衛権の行使を閣議決定で容認したのである。個別的自衛権を超えた一歩を日本が踏み出すということは、裏を返せば同盟国のために血を流すということである。そこで出てくるのが「自衛隊は反日・韓国のために本当に血を流せるのか」(週刊ポスト)といった疑問である。
 

<3>
安倍内閣、年末いきなりの解散総選挙

11月に入って毎週各号が大特集を組み、一気に3位にランクインしたのが、年末の衆院解散総選挙ネタである。まさかとささやかれ始めてから、あれよあれよという間に現実味を帯びた「解散総選挙」を首相がはっきりと首相官邸で公言したのが11月18日。それに伴い、翌年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを1年半延期することを決めた。

週刊誌は当初「自民『50議席減』で一気に倒閣へ」(週刊現代)「安倍・自民『実は弱かった』惨敗データ」(週刊ポスト)と、各誌自民苦戦を予想。さらに「血税700億円投入でなぜ今?『大儀なき解散』全内幕」(週刊文春)「安倍『今ならまだ勝てる解散』で隠したかった『4つの大失敗』」(週刊ポスト)とこの時期に解散を言い出した安倍政権のご都合主義を厳しく追及している。

今回の選挙に伴い自民党が「公平中立」を求める文書を各社マスコミに送付したことが影響したのか、選挙関連の報道が例年になく減少、週刊誌は「安倍自民は北朝鮮、中国と同じか『メディア統制で一党独裁』選挙戦」(週刊ポスト)とその選挙戦略を批判した。選挙を終えてみれば、自民党は議席数を減らしたものの単独過半数の議席を維持。一方で批判票の受け皿となった共産党は議席を倍以上伸ばして21議席、民主党も11議席増やして62議席を獲得した。保守勢力を狙った次世代の党は大幅減のわずか2議席しか獲得できず、最高顧問の石原慎太郎氏はついに政界から退いた。

また、与党(自民・公明)は改選前の3分の2議席を維持したものの、普天間基地の移転問題が大きな争点の1つとなった沖縄の4選挙区全てで敗北し、安倍政権の今後の舵取りは「圧勝安倍晋三を待ち受ける『年金破綻』『インフレ』『沖縄』の三重苦」(週刊文春)と困難が予想されている。

<4>
小保方氏「STAP細胞」ねつ造疑惑

「リケジョの星」と理化学研究所の研究ユニットリーダー小保方晴子氏を時の人に押し上げたのは、2014年1月末に発表された万能細胞「STAP細胞」の研究結果。<夢の細胞>と割烹着姿で実験を行う美しい<才女>の登場に、「〈一途なリケジョ〉小保方晴子さんの『初恋』と『研究』」(週刊文春)など、世論は浮き立った。ところが、翌月には、その論文に数多くのデータ改ざんやねつ造の疑いが浮上、さらには博士論文における無断転載疑惑なども持ち上がり、「リケジョの星」は一転、疑惑の渦の中に叩き込まれる。

「関係者たちが固唾を呑む『STAP細胞』捏造報道  小保方晴子さんにかけられた『疑惑』」(週刊現代)「『小保方博士』が着せられた『灰色割烹着』徹底検証!」(週刊新潮)と、疑惑が疑惑を呼ぶ騒動に発展、ついに小保方氏は4月に記者会見を開いて釈明の場を設け、涙ながらにこう繰り返した。「STAP細胞はあります!」しかし「涙の会見で巻き起こる“擁護論”に異議あり!」(週刊文春)とマスコミの追求はゆるまなかった。

その後、監視カメラが2台設置された実験室において理化学研究所が指名した人間の立ち会いのもと、小保方氏はSTAP現象の再現実験を2カ月にわたって行ったが、ついにSTAP現象を再現することはできなかったのである。理研は12月19日に実験の打ち切りを発表した。

この騒動の最中に、STAP論文の指導を行い共著者でもあった理研「発生・再生科学総合研究センター」副センター長・笹井芳樹氏が自殺する。「小保方晴子さんと理研上司の『失楽園』」(週刊文春)「『小保方博士』と直属上司の異様な『タクシー空間』」(週刊新潮)など、実験内容とはおよそ無関係なスキャンダルの暴露競争が過熱していた最中のキーマンの自殺に関係者は衝撃を受けた。

12月15日に小保方氏は理研に退職願を提出、21日付で小保方氏は正式に退職した。それに先立ち10月には早稲田大学が2011年に付与していた博士号の学位取り消しを発表している(ただし1年の猶予付き)。万能細胞の作製という世紀の大発見に沸いた1月から11カ月後に「リケジョの星」は完全に失墜、あっけない幕切れとなってしまったのである。

<5>
「舛添」「細川」「宇都宮」役者の揃った都知事選

2013年末、猪瀬直樹東京都知事が、徳洲会グループから5000万円の資金提供を受けていた問題で辞任し、2014年は都知事選の選挙戦スタートで幕を開けたといっても過言ではない。各誌も年明けから「小泉がまた動いた! 都知事選には『あの人』を担ぐ」(週刊ポスト)「都知事選全内幕 舛添都知事なら東京は変わる。細川・小泉なら日本が変わる」(週刊現代)と都知事選情報全開。

与党が推し石原路線を継承する舛添要一候補に対し、原発の即ゼロをシングルイシューとして掲げた細川護熙候補を小泉純一郎元首相が応援するという「元首相連合」、そして共産党が推薦し反原発を訴える元日弁連会長の宇都宮健二候補が激しく競り合った都知事選。細川氏と宇都宮氏の両候補に脱原発票が割れてしまうという危機感から、ギリギリまで一本化を模索する動きもあったが、結局一本化はならず、三者がガチンコでぶつかり合った。

投票直前には「舛添要一投票直前スキャンダル!『政党助成金で借金2億5000万円返済』元側近議員が告発」(週刊文春)といったスクープも出たが、前日の記録的大雪が残る中での投票となり、史上3番目に低い46.14%という投票率ながら、舛添候補が211万票以上を獲得し、他の2候補に大差をつけて圧勝した。

ちなみに、2位が宇都宮候補の98万2594票、3位が細川候補の95万6063票と、細川氏は宇都宮氏にも惜敗。この2人の得票数を併せても舛添候補の得票数にはわずかに及ばなかった。

<6>
愛子さま学習院女子中等科へ入学、変わらぬ注目集める皇太子一家

皇太子徳仁親王と雅子妃の長女・愛子さまはすくすく成長し、今年4月に学習院女子中等科に入学した。入学式当日、マスコミ陣からの問いかけに「楽しみにしています」と答えた様子などが報じられて話題になったが、その後は、愛子さまのスキーの腕前が「2級」レベルであることや、学校生活に馴染み切れていない様子など、各誌それぞれの角度で愛子さまの新しい学校生活の様子やプライベートの過ごし方などを取り上げた。

一方、長期療養中と報じられる雅子妃だが、10月29日にオランダ国王夫婦の歓迎行事として、11年ぶりとなる宮中晩餐会に出席し話題となった。今年も皇太子一家への注目度の高さが揺るがなかった一年だったといえよう。

<7>
中国からの期限切れ食肉発覚でファストフード界に激震

今年7月、アメリカの食品会社OSIグループの中国法人である食肉卸会社「上海福喜食品」が、消費期限切れの肉を加工して出荷していることが上海のテレビ局のスクープにより発覚。日本マクドナルド社は国内のチキンナゲットの2割を同社から仕入れて関東や甲信越、静岡の店舗で販売していた。また、コンビニチェーンのファミリーマートも同社製造の「ガーリックナゲット」と「ポップコーンチキン」の2商品を販売していた。マクドナルド社はナゲットのサプライヤーを他社に切り替え、ファミリーマートは該当商品の販売を中止にするという騒ぎに。

食の安全への信頼が失墜する中、「中国チキンの恐怖〈上海マクドナルド〉食肉工場従業員の告白」(週刊文春)では、腐った手羽に消毒スプレーをする現場の報告のみならず、抗生物質漬けになっている養鶏の現場、発がん性物質の混じった飼料など、中国産鶏肉の危険性にクローズアップ。週刊新潮は「緑色の鶏肉も氷山の一角 中国から来る『汚染・腐敗』食材から身を守れ!」(週刊新潮)「中国毒食品工場元従業員が告白『床に落ちた肉は使う』」(週刊ポスト)など中国食品の衛生状態への関心が一気に高まった。

<8>
佐世保高校1年生が同級生を惨殺

今年7月、長崎県佐世保市で、女子高校生が同級生の友人を自宅マンションで絞殺し、遺体を切断するという衝撃的な事件が起きた。2人の間に特にトラブルはなく、被疑者は「誰でもよかった」「解体してみたかった」などと供述していること、被疑者の母親が前年に病死し、事件2カ月前に父親が再婚していること、被疑者は家を出てマンションで一人暮らしをしていることなど、被疑者の特異性や複雑な家庭環境が浮かび上がってくると同時に、父親は早稲田大学卒業の弁護士、母親は東大卒で教育委員会にも関わっていたというエリート一家であること、被疑者本人も文武両道の優秀な生徒であったということなど、彼女の家庭環境の良さが事件の猟奇さを余計に際立たせることになった。

しかし事件の陰惨さはさることならが、社会が困惑したのは、殺害の動機が見えないという点にあった。実母の死なのか、父親の再婚なのか。しかし実母が元気だった小・中学校時代からすでに、少女は同級生の給食に洗剤などを混入させたり猫を解剖するといった問題行動が確認されている。

各誌は「すべて私のせいなのか……加害者の父『悔恨と慟哭の日々』」(週刊現代)「親はなぜ一人暮らしを許したのか――佐世保高1女子『頭部・左手首切断』同級生16歳の惨殺動機」(週刊文春)「再び日本に現れた『快楽殺人』闇の因子」(週刊新潮)と、彼女の家族関係や学校生活などを徹底的に洗い出して、彼女の心の闇に迫ろうとした。その後も「異様な父娘関係が悲劇を招いたのか」(週刊文春)「『絶対殺人衝動』を知りながら『少女A』を街に放った父」(週刊新潮)など、家族の責任を追求する論調が続き、10月5日、被疑者の父親の自殺という最悪の結末に至った。

<9>
巨星堕つ! 高倉健さん、菅原文太さんの相次ぐ訃報

11月18日、日本中に衝撃が走った。銀幕の大スター、高倉健さんが悪性リンパ腫のため都内の病院で10日午前3時49分に死去していたことが、事務所からマスコミ各社に宛てたFAXで明らかになったのだ。享年83。故人の遺志により近親者だけで密葬を行ったという。関係者から情報が漏れることなく守られた高倉さんの死。その死を悼む特集を「追悼 さようなら、健さん 日本人に愛された『昭和の男』が、また逝った」(週刊現代)「高倉健 あの名作を生んだ『五月の雨に一緒に濡れる』約束」(週刊ポスト)と各誌が組んだ翌週、もう一つの巨星の訃報が日本全国を駆け巡った。菅原文太さん、享年81。健さんの逝去の報からわずか10日後の28日に、肝がんによる肝不全のため都内の病院で亡くなっていたことを東映が発表したのである。

「『一番星』が流れて再び巨星墜つ!『高倉健』の後を追うように『菅原文太』の棺を蓋いて」(週刊新潮)「菅原文太と高倉健『共鳴して逝った最後の銀幕スターたち』」(週刊ポスト)と、解散総選挙で大騒ぎの師走にありながら、二大スターの相次ぐ訃報は多くのファンの涙を誘った。

文太さんは亡くなる直前の11月1日、沖縄県知事選で翁長雄志候補の応援に駆けつけ、普天間基地の辺野古移転を認めた仲井真知事(当時)を批判し、政治の役割とは国民を飢えさせないことと絶対に戦争をさせないことだと声を振り絞り訴えていた。(「11月1日沖縄県知事選応援後に入院 最後は吐血」(週刊文春))

<10>
佐村河内守ゴーストライター発覚、聴覚障害もウソ

「STAP細胞」騒動ですっかり影が薄くなってしまったが、今年最初の「詐称」といえば、作曲家・佐村河内守氏のゴーストライター騒動だろう。2月6日発売の週刊文春で「【驚愕スクープ】高橋大輔『ソチ五輪』使用曲も〈NHKスペシャルが大絶賛『現代のベートーベン』〉全聾の作曲家佐村河内守はペテン師だった!」とすっぱ抜かれたのだ。全てを告白したのは、18年間佐村河内氏のゴーストライターを務めていたという作曲家の新垣隆氏。新垣氏はさらに「佐村河内氏の全聾も嘘である」と暴露、大騒動に発展した。実際に聴力を再検査したところ、全聾ではなく中程度の感音性難聴との診断が下る。

すっぱ抜いた文春が「佐村河内守〈偽ベートーベン〉の正体」「『謝罪文』のウソを暴く! 佐村河内守 障がい者と被災地への冒涜」と第二弾、第三弾……と独走スクープを連発して追及の手を強めていくのに対し、「ゴーストは芸術の影法師! 袋叩きの『佐村河内守』はそんなに悪いか!」(週刊新潮)と、他誌は若干スタンスを異にしていた。が、この佐村河内騒動はまもなく、STAP細胞騒動の大波に押しやられてしまうのであった。

< ランク外の注目記事>
拉致問題で局長級協議再開に、女性閣僚2名の相次ぐ辞任も

まずは昨年、ポストと現代が競うかのごとく毎号繰り広げていた「80歳まで現役」「死ぬまで現役」といった「熟年SEX」特集は、今年はややおとなしくなった印象があるものの「オンナのカラダの愛し方」(週刊ポスト)「『脳がもだえる』セックス」と堅調に続いている。

また、今年5月に拉致問題の再調査で日朝が合意するという電撃的な発表があり、日朝局長級協議の進展に注目が集まった年でもある。再調査が始まることへの期待は高まった(「北朝鮮『拉致』再調査で帰る4人の実名」(週刊新潮)「北朝鮮よ、今度こそ帰せ! もう一度、この手であなたを抱きしめたい」(週刊現代))。

しかし、日朝局長級協議が重ねられ、10月には訪朝団が平壌入りし北朝鮮側の調査団と協議を進めているものの、具体的な調査結果の報告が得られないまま、拉致被害者の家族の苛立ちが募っている。

芸能・文化面ではディズニー映画『アナと雪の女王』が公開から128日の早さで興行収入250億円突破の大ヒット(「『アナ雪』空前の大ヒット」(週刊現代))となり、主題歌『Let it go』も大ブレイク。それにちなんだ「レリゴーな人々…」(週刊文春)なる特集では「長澤まさみのありのままの露出」「朴槿恵政権が日本に懇願『沈没船の設計図ください』」など、今時の「ありのままの人々」が取り上げられた。

また、9月3日に発足した第2次安倍改造内閣は、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚が目玉であったが、発足後間もなく、公職選挙法違反のうちわを配布し松島みどり衆議院議員は法務大臣を辞任、政治資金収支報告書への未記載があるとして政治資金規正法違反を指摘され小渕優子衆議院議員も経産大臣を辞任(「松島みどり」法相の団扇どころの話じゃない!「小渕優子」経産相のデタラメすぎる「政治資金」(週刊新潮))。前代未聞の辞任劇が繰り広げられた(「女大臣醜聞 [松島][山谷][小渕][高市][有村] で官邸崩壊!『女性活躍内閣』の醜き正体」(週刊ポスト))。

さらに、9月27日、秋の週末を楽しむ登山客で賑わっていた御嶽山が突然激しく噴火、戦後最悪の57名の死者を出す大惨事となり(「噴煙の中の死神は『硫化水素』『噴石』『火砕流』御嶽山噴火 生と死の分岐点」(週刊新潮))、自然界の脅威を改めて私たちに思い知らせることになった。

日本人3名がノーベル物理学賞を受賞するという華やぎの裏側で、理研のホープがねつ造を疑われて失墜。美しい山も突然死神に豹変する。諸行無常を思い知った一年でもあった。格差社会に超高齢社会、状況は決して楽観視できないが、来年を今年よりも少しでも良い年とするためにできることは、今年1年の間に起きたことを一つ一つ思い返し、忘れずに次への教訓として生かすことではないだろうか。

http://dacapo.magazineworld.jp/report/156054/

クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その2女性ワイン生産者のライジングスターは、ここウィーンから。

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女性ワイン生産者のライジングスターは、ここウィーンから。

クオリティワインを生む首都、ウィーンで、ワインカルチャーを体験。その2

  「ワインのスタイルは葡萄自身が決める。私はただその手助けをするだけ」と語るユッタ。©Udo Bernhart

  「ワインのスタイルは葡萄自身が決める。私はただその手助けをするだけ」と語るユッタ。©Udo Bernhart  

「11人の女と彼女たちのワイン」

いま注目の女性生産者といえば、なんといってもウィーン19区を拠点に活躍するユッタ・アンブロジッチです。

オーストリアの女性・実力派生産者たち11人で構成されるグループ「エルフェン・フラウエン・ウント・イーレ・ヴァイネ Elfen Frauen und Ihre Weine(11人の女と彼女たちのワイン)の最も新しいメンバーでもあります。

このグループは、2000年に、白ワインの銘醸地ニーダーエスタライヒ州の、イルゼ・マイヤー(ガイヤーホーフ)、ビルギット・アイヒンガー、赤ワインの銘醸地ブルゲンラント州の、ハイディ・シュレック、ビルギット・ブラウンシュタイン、シルヴィア・プリーラーなど、蒼々たるメンバーにより結成されたもので、様々な楽しいイベントを共有しながら互いを高め合っています。実は2006年、創立メンバーであるロージー・シュスター(ブルゲンラント)が病気のために退会し、ずっと10人で活動していたのですが、2010年、10周年記念のイベントを記念して初の新メンバーとして選ばれたのが、1974年生まれと最年少のユッタでした。

映画『第三の男』のラストシーンでも知られるウィーンの公園“プラター”の観覧車のなかでアペリティフをいただくというユニークなアニバーサリー・パーティには、私も出席したのですが、そのときみんなが口々に話していたことは、ユッタのワインのクオリティもさることながら、ウィーンという注目の産地が決め手となったそうです。そしてこのとき、ユッタがワイン造りを始めて4年しか経っていないということを知り、またまた驚きました。

19区にあるマイヤー・アム・プファールプラッツの畑のすぐそばをトラムが走っている。  

19区にあるマイヤー・アム・プファールプラッツの畑のすぐそばをトラムが走っている。  

グラフィックデザインから、オールド・スクールなワイン造りへ。

彼女は元グラフィックデザイナーとして広告業界で活躍していました。

「ブルゲンラント出身で、親戚がワイン造りをしていたこともあり、ずっとワインが好きだった」という彼女は、繊細なブランフレンキッシュ種のワインで知られるブルゲンラントのウヴェ・シーファー、ハンス・ニットナウス、そしてウィーンのフリッツ・ヴィーニンガーのもとで研修をするうちに、自分のワインを造りたいという思いが高まり、2004年、わずか数百本のリースリングをリリースしたところ、そのクオリティが評価され、多くのメディアに取り上げられました。

「オールド・スクールなワイン造りがしたい」というユッタ。19区と21区に合計4haある畑は、認証は得ていませんが、葡萄はすべて有機栽培。いずれも樹齢は30年以上で、中には1940年ごろ植えられたものもあるそうです。

看板ワインの〈リースリング・ローゼンガートゥル〉、ゲミシュタ・ザッツの〈アイン・リーター・ヴィーン〉、ツヴァイゲルト種で造るロゼの〈ローザ・アンブロジッチ〉など、どれもエレガントで芯の通った味わいは、彼女自身の印象と重なります。「たくさんのワインを試飲し、一流の人たちのもとで研修したけれど、ワイン造りの一番の師匠は、自分のなかにある好奇心でした」と話してくれました。月に数回、ブッシェンシャンク(食堂)もオープンするので、ぜひチェックしてくださいね。

Jutta Ambrositsch 
Himmel Straße 7,1190Wien

ウィーンでワインを飲むなら

ウィーン4区、オペラ座から徒歩10分ぐらいのところに
今年オープンした〈ヴィーン・ハンドルング〉は、ドイツ語で〈ウィーン商店〉を意味するワインバー。オーナーのビアンカ・オズワルドは、生粋のウィーンっ子。大都会ウィーンは,地方出身者が多いため、ウィーン生まれウィーン育ちは意外に少ないのです。滞在中にいろいろな人にヒアリングした結果では、人口の4分の1ぐらいらしいです。

店主がウィーン生まれならワインもすべてウィーン産で、フリッツ・ヴェニンガー、ユッタ・アンブロジッチ、マイヤー・アム・プファールプラッツ、コベンツルなど、常時白5~6種、赤3種、毎日1種はサプライズがあるそう(€2.2~)。

ビアンカは、長くテレビ局に勤めていましたが、古くて新しいウィーンのワインであるゲミシュタ・ザッツが注目されていくのを肌で感じ、古い伝統と新しい潮流の架け橋になれればと、ワインバーをオープンしたそう。

ワイン以外にも、いろいろなウィーンのおいしいものを紹介したいと、蜂蜜、ペースト類など友人たちが造った品々も販売しています。

黒を基調にした落ち着くインテリアは、コニー・ヘルツォク、モダンなスタイルのグヤーシュなどのレシピ製作は、エリザベート・シュトルンツのふたりの親友に依頼。お客さんたちが、ワインを飲みながら彼らの「作品」に触れられることでサポートしていければと語っています。

Wienhundlung
Margareten Straße 9,1040 17:00~22:00 日・月曜定休 
交Karlsplatzから徒歩10分。

「ウィーンのおいしいもの、楽しいものを紹介していきたい」と話すビアンカ。 

  「ウィーンのおいしいもの、楽しいものを紹介していきたい」と話すビアンカ。 

友人たちが造る蜂蜜やペースト類を、「ウィーン・ハンドルング」ブランドで。

  友人たちが造る蜂蜜やペースト類を、「ウィーン・ハンドルング」ブランドで。

チキンのグリルのライス添え。ヘルシーでおいしい料理も自慢。

  チキンのグリルのライス添え。ヘルシーでおいしい料理も自慢。

協力:WienTourismus  

http://dacapo.magazineworld.jp/gourmet/155498/

Book of the Year 2014 今年最高の本!

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Book of the Year 2014
今年最高の本!

今年も残すところあとわずか。雑誌『ダカーポ』の頃からの人気企画「今年最高の本!」を今年もお送りします。新聞・雑誌の書評担当者の投票で決める当企画、ベストセラーランキングとは一味違った「とっておきの一冊」があなたを待っています!

日本が抱える最大級の問題に、真正面から挑む!

A めっきり寒くなり、年の瀬も迫ってきました。今年もWEB版「今年最高の本!」をお送りしたいと思います。

B、C パチパチパチパチ!

B 今年でWEB版も4回目。どんな本が登場するのでしょう。新聞・雑誌で書評を担当されている方々に、13年12月から14年11月に刊行された本の中からそれぞれ5冊ずつ、好評価の本をアンケート形式で挙げていただきました。

A、B、C ご協力いただいた皆様、今年もありがとうございました!

C 今年のランキングは、ジャンルもテイストも異なる様々な本に票が割れたみたいですね。例年以上に熾烈なランキングになっているみたい。

A どの本も飛び抜けた票数を得たわけではなく、これから発表するランキングもわずかな差しかありませんでした。ジャンルという点で言うと、小説作品で票が割れている一方、昨年同様、いやそれ以上に、ノンフィクションの良書にも高い評価が集まっているみたいです。

C 登場するどの本にも、それぞれキラリと光る点があるということですね。紹介する方も力が入っちゃうね。

***

B それでは発表します。2014年「今年最高の本!」第1位は……『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか」です!

A、C おめでとうございます!

B その名もズバリなノンフィクション作で、表紙も至ってシンプルですが、読書好きのネットレビュアーの間でも絶賛する声が多数上がっています。現代を生きる日本人が抱えているこの素朴な疑問に、真正面から立ち向かい、戦後日本の秘密を深く、丹念に明らかにしていきます。

A 本書の冒頭では「だれもがおかしいと思いながら、大きな流れをどうしても止められない。解決へ向かう道にどう踏み出していいかわからない。そんな状況がいまもつづいています。本書はそうしたさまざまな謎を解くカギを、敗戦直後までさかのぼる日本の戦後史のなかに求めようとする試みです」と書かれています。歴史を振り返り、現在の解決困難な大問題の道筋を探り当てようという試みですね。そして、基地問題と原発問題、一見まったく異なる問題の根幹には「日本国憲法」そして「日米安全保障条約」という共通のカギが隠されていることを明らかにしていきます。

C COURRieR Japonの井上威朗さんもイチオシの一冊です。〈タイトルは「なぜ国が敗訴する裁判は必ず最高裁でひっくり返るのか?」とも置き換えられます。裁判所が憲法にかかわる判断を放棄する「統治行為論」に典型的に表れる国家的な欺瞞。なぜ私たちは憲法を骨抜きにしてしまったのか、日本の戦後史を追うことで解明する過程で、ショッキングな事実が次々と明らかになります。ただ護憲を叫ぶのも対米従属を疑わないのも、同様に罪の深い思考停止であることを痛感。必読です〉とのことです。

A この本は「戦後再発見」双書」シリーズを立ち上げた矢部宏治さんという方が、地道な取材活動を重ねてまとめた一冊です。同シリーズの第一作目『戦後史の正体』(孫崎享著)はノンフィクションの名作として名高く、「今年最高の本!2012」でも第6位にランクインしました。いわば師弟にあたるという孫崎さんと矢部さんですが、2人によるトークショーも開かれているようです。

C 矢部さんの『日本はなぜ~』を読んでみると、基地周辺や沖縄の地図、複雑な概念をまとめた図表なども多用されており、作り込まれているなぁという印象を受けますね。「ノンフィクションはちょっと苦手かも……」という人にとっても、きっと読みやすいはず。私も含めて……(笑)。

B ともあれ基地問題、原発問題は、現実問題として日本人誰もが見過ごすことのできないはずの大問題です。ともすれば感情的な対立にもなりやすいテーマではありますが、本書から得られる知識は、歴史を踏まえた冷静な議論のベースになるのではないでしょうか。

A おりしも大事な国政選挙を控えた今の時期、これまでの日本、これからの日本を考える上で絶好の一冊が登場したと言えるでしょう。

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円

発表!新聞・雑誌の書評担当者が選んだ2014年最高の本ランキング! 1位 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円 2位 『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円 2位 『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円 4位 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円 4位 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円 4位 『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円 7位 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円 7位 『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円 7位 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円 7位 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円 11位 『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社 /各1,296円 11位 『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円 11位 『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円 11位 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

 

「地方」に存在する、課題と、素晴らしさと

B ではここからは、2位以降の作品を紹介していきましょう。ただ、1位から同率11位まで本当に票差は僅差で、どの本も今年を代表するにふさわしい本だと言えるでしょう。

A 本当にそうですね。まずは第2位ですが、同率で2作品が登場です。まずノンフィクションつながりで、『地方消滅』を紹介しましょう。著者は元岩手県知事の増田寛也さん。改革派知事として地方自治の最前線に立ってきた増田さんが語る「地方消滅」には、また特別な重みがあると言えるでしょう。

C ショッキングなタイトルですよね。日本経済新聞編集局文化部の郷原信之さんは「自分のふるさとはどうなるのか……と、ドキドキしながらページをめくった人も多いはず。分析手法や今後の対策については異論もあるだろうが、21世紀日本の最も大きな課題を明確に指摘した意義は大きい」と本書を評価しています。

B 私も、自分の故郷が帯に書かれている地図に載っていないか、思わず探しちゃった(汗)。読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんも、〈人口減少問題の危険性は以前から叫ばれていたが、本書によってようやく、自治体やマスコミの危機感に火がついたように思える。それは、実名を挙げ、「消滅可能性都市」(2040年までに、若年女性の数が5割以下に減ってしまう市区町村)のリストを表示したからだ。微温的対策に終始してきた問題を、改めて社会に突きつけた衝撃度において、元になった論文と合わせ、本書は今年の1冊にふさわしいのではないか〉と、問題の大きさを気づかせてくれた啓蒙書としての意義を語っています。

A 若年女性の数が、人口問題の大きなポイントなのですね。女性が住むのに魅力を感じるような街であることが、求められているのかもしれませんね。

C 素敵なデートスポットがあって、ブランドモールがいっぱいあって、美味しいスイーツがあって……。

B それだけじゃないでしょ、まったく。さて、もう一つの第2位を紹介しましょう。北村薫さんの小説『八月の六日間』。主人公はアラフォー女子の文芸誌副編集長。せわしない都会を離れ、山歩きへと旅立った主人公は、四季を感じさせる自然の雄大さ、美しさに触れ、心洗われます。まさに今話題の「山ガール」の冒険物語ですね。しかしそこから、物語は急転して……。

A 私自身、境遇がとっても近いからすごく共感できたわ。でも山は、高尾山(東京都内にある、観光客の多い山)ぐらいしか登ったことがないんだけれども(汗)。サンデー毎日の佐藤恵さんも〈アラフォー・独身・仕事アリ(けっこう責任もあって忙しい)女性の心理をリアルに描いている。悩んだり落ち込んだりうらんだりしながら、少しずつ素直になって回復していく過程が清々しく、ちょっと切なくて胸に迫る〉と、乙女心をくすぐられたようです。

C 週刊文春の八馬さんも〈「円紫さんと私」シリーズに始まり、『ひとがた流し』など多くの作品で凛とした女性を描いてきた著者の新たな傑作! 40歳を目前に仕事や人生にすり減る心を抱え、ひとり山に登る主人公。自然の中で自分と向き合う姿が清々しい。不器用でも頑固でも、今ある自分が愛おしいのだと、読者の背を押してくれる。今後も折にふれ読み返すであろう一冊〉と絶賛。ちょっと現実に疲れてしまった女性には、絶好の清涼剤となっているようです!

B 能天気なあなたとは違って、悩める女性は多いの!

A まあまあ(笑)。ともかく、山と自然の素晴らしさが心から味わえる一冊なのは間違いないわ。地方の素晴らしさって、きっとこういうところにもあるはずです。

『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円

『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円』

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円』

読者を引きずり込む、珠玉の作品

B 続いては第4位の発表ですね。4位には同率で3作品が並びました。まずは1冊目、『石の虚塔』。皆さんは2000年ごろに世間を騒がせた「ゴッドハンド騒動」を覚えているでしょうか。

A 確か旧石器時代の遺跡や遺物がたくさん見つかったけど、それが実はある一人の考古学研究家によるねつ造だったと発覚した事件ね。教科書の表記も二転三転するなどして、大きな社会問題にもなりました。

B そうです、あれからもう15年近くがたちましたが、この事件を綿密に追いかけたのが本書です。月刊WiLL編集部の川島さんは〈石器・考古学という一見地味なテーマにも関わらず、抜群におもしろく、ぐいぐいと読み進んだ。考古学会がまたエグい、いろんな意味で。「考古学」と聞けば思わずロマンを感じるが、ロマンだけじゃ駄目なんだなぁとわかる。歴史を扱う人間への「歴史の皮肉」もあり〉と唸っています。

C 週刊文春の東郷さんも〈岩宿遺跡を発見した相澤忠洋。相澤を支え、旧石器時代の研究に取り組んだ芹沢長介。そして、旧石器捏造事件を起こした”ゴッドハンド”こと藤村新一。考古学会のドロドロとした人間関係を掘り起こしていく。松本清張の小説のような読後感を覚えるドキュメント。藤村新一へのインタビューも読み応えあり〉とのこと。まさに事実は小説よりも奇なりですね。

A 藤村さんご本人が出ているのが驚きですね。もうそれだけ時間がたったということでもあるのでしょうか。本編も会話が非常に多く、臨場感たっぷり。あの事件は何だったのかを、スリルを味わいながら振り返ることができます。

B 続いて第4位2冊目は、『イノセント・デイズ』。こちらは衝撃度満点のミステリー作品です。

C 「整形シンデレラ」とも呼ばれる、確定女性死刑囚。3人を殺した罪に問われていますが、その真相は何だったのか。序盤のストーリーから頭に入る先入観が、後半にはドンとひっくり返される。まさにミステリーの醍醐味ですね。

A サンデー毎日の佐藤さんによると、〈主人公について語られれば語られるほど、その人物が見えなくなってくる。他者の視線や思いによってとらえられる「私」とは誰なのか。「私」を主張することにどんな意味があるのか。今の情報化社会につきつけた課題は鋭くて深〉とのこと。うーん、意味深で面白そうですね。

B 著者の早見さんは『ひゃくはち』など、枠にとらわれずいろんなジャンルの小説に挑戦されています。今後も要注目ですね。第4位の3作品目は、『鳩の撃退法(上巻・下巻)』。ある家族の失踪をきっかけに、謎が謎を呼ぶ展開がどんどん進行していくミステリー。こちらはコミカルなやりとりも多く、純粋にエンターテインメントとしても楽しめる一作となっています。

C 婦人公論の角谷涼子さんも、興奮を抑えきれない様子です! 〈この作家の新刊を、本当に待ちわびていました。そして、1ページ目から期待を裏切らず軽やかに凌駕していく書きぶりに、胸が高まりすぎて平静に読めないほど。リーダブルなエンターテインメントでありながら、『小説の読み書き』(岩波新書)の著者ならではの技巧が凝らされてもいるので、読者は〈熟練の床屋の鋏捌きに身を任せるように〉安心して身を委ねて小説を楽しめるはず。映像化してももちろんおもしろいストーリーと魅力的な人物描写ですが、佐藤正午のこの文章は、小説でしか味わえません。まだ読んでいない人がうらやましい、YKS(読んで・後悔・させません)!〉

B 読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんも〈『5』(角川文庫)と同じく小説家の津田を主人公とした大長編は、「小説を書く」ということをテーマに据えたメタフィクションだ。たくらみに満ちた構成と、練り上げられた文章による抜群の読みやすさを併せ持った著者の最高傑作。脱力系のユーモアも含め、小説を読む楽しさを何度でも味わえる〉と高く評価。著者の佐藤正午さんの文章は、多くの人を惹きつけてやまないパワーがあるようです。

A 日本の小説界には今も、読者を引きずり込むような筆力の高い作家がたくさんいらっしゃいます。いろんな作家の作品を、「あれも、これも」と読んでみるのは究極の贅沢なのかもしれませんね。

『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円

『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円

『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円

『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円

『鳩の撃退法 上巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円

 

人の「こころ」に触れ、癒す仕事。その実態とは?

B ではどんどん行ってみましょう。第7位には豪華に4作品がランクイン。まずご紹介するのが『「愛と暴力の戦後とその後」』。

A 著者の赤坂真理さんと言えば、何といっても「今年最高の本!2012」で第1位に輝いた『東京プリズン』ですね。戦争そして天皇制を少女の成長物語の中で描いたのが『東京プリズン』でしたが、本書は新書版の「日本論」です。

C 月刊宝島の高岡洋詞さんは〈『東京プリズン』のエッセイ版。「当たり前」を疑い、日常的な身体感覚から発して戦後史を丹念にたどり直し現在と結びつける筆致は小説家ならでは。鋭い洞察がいっぱいで、夢中で読みました〉と舌を巻いています。

B 婦人公論の角谷さんは〈いまを生きる私たちのメンタリティを理解するには、「敗戦」まで立ち返らなければならない。歴史や社会学の論理で語られてもぬぐいきれなかった違和感や「わからなさ」の正体に、赤坂さんは真っ正直に挑んでいる。「わからなさ」へのアプローチは、学者ではなく作家である赤坂真理ならでは。読者はその思考を追うことで、今まで持っていた「日本の戦後」のイメージが違うものに見えてくる〉と述べています。戦後日本という巨大なテーマに、学問の理屈ではなく、一人の生身の人間として向き合っているところが共感を集めているようですね。

A 続いて第7位2作品目は、「井田真木子著作撰集」。井田真木子さんはノンフィクション作家で、『プロレス少女伝説』で大宅壮一ノンフィクション賞、『小蓮の恋人』で講談社ノンフィクション賞を受賞されましたが、2001年に44歳の若さで亡くなられました。

B 朝日新聞読書面の鈴木京一さんによると、〈関川夏央の井田論も読ませる。版元は、井田の著作に影響を受けた女性が興した一人出版社〉とのこと。井田さんにゆかりのある人が、特別の想いを込めて発刊した一冊だと言えます。

C 生前の井田さんは女性プロレスラーの方と親交が厚く、本書では神取忍さんへのインタビューも収録されています。まさに伝説のレスラーならぬ、伝説のノンフィクション作家ですね。

B 第7位3作品目は堀川惠子さんの『教誨師』。教誨師とは、刑務所などの収容施設で収容者に道徳や倫理、あるいは宗教的な講話を行う人たちのことです。

A 本作で描かれているのは、少年時代に広島で被爆し、戦後教誨師となった渡邉普相さんという実在の人の物語です。受刑囚、中でも死刑囚への語りかけの中から見えてくる、生と死の問題。死刑制度にも一石を投じる内容となっています。

C 死刑囚本人ではなく、教誨師さんの視点から見た死刑を描いているのが画期的との意見が多いようです。また、堀川惠子さんは過去に『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』という作品で講談社ノンフィクション賞を受賞しており、違った角度から改めて死刑というテーマに迫っています。

B 教誨師に続いてはセラピストです。第7位最後の作品は、最相葉月さんの『セラピスト』。こちらも、心の治療にあたるセラピストの現実に迫ったノンフィクション作品です。

A セラピストの仕事には厳しい守秘義務があるため、外の世界からその実態をうかがい知ることは極めて困難です。ある時、カウンセリングに対する不審を抱いた最相さんは、5年もかけて謎に包まれたセラピストの仕事に迫り、その実態を詳らかにしています。

C 読売新聞書評面「本よみうり堂」スタッフさんは〈「カウンセリングとは何か」を5年間にわたり取材したノンフィクション。複雑な現代社会において、誰もが知る「心のケア」。しかし、その核心となるとふわふわ、ともすればうさんくさいもののように感じられもする。心理療法家の河合隼雄、精神科医の中井久夫らセラピストと患者のやりとりは、言葉に言い表せない心の世界を描き出してスリリング。病歴を明かし、自らをも取材対象とする作家の覚悟に圧倒される〉と、内容のリアルさを評価しています。

B 確かに、誰もが心の病を抱えてしまいかねない現代社会。しかしその回復は容易ではないようです。心理療法は、精神医学は、本当に有効なのか。興味を惹かれるテーマですね。

C ああ、「恋の病」を患う私を、誰かカウンセリングしてくれないかしら~。

A 私は、Cちゃんは至って健康だと思うわ(苦笑)。しかし、人の「こころ」に触れる職業を取り上げた作品が2つ並んだことは、現代という時代を象徴しているかのようでとても印象的ですね。

『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円

『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円

『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円

『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円

『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円

『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円

『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円

『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円

 

「こじらせ女子」の処方箋に、男子もホロリ

B 第7位が4作品続きましたので、次は第11位です。なんとここでも、4作品がランクインしました。

A 順にご紹介していきましょう。まず1作品目は、吉田修一さんの『怒り』。殺人現場に残された「怒」の血文字。そこから始まる、犯人追跡劇。ラストの1ページまで、ページをめくる手が止まりません。

C 日経WOMANの行武知子さんは〈ここに挙げておいて言うのもなんですが、「どうなんでしょう???」と思わせるところが面白かったという一冊。「怒り」の本質は何だったのか?というモヤモヤが残るあまり、周りの人にも読ませてしまう行動に出てしまいました。「怒り」を巡って複数の人間関係が登場し、「怒り」に対して様々な行動をとる。そのアプローチはさすがですが〉とのこと。うーん、思わせぶりなところが逆に怪しくて面白そうです。

B 映画化された『悪人』や『さよなら渓谷』でも知られる吉田さん。その手腕をとくと味わいましょう!続いてのご紹介は、『女の子よ銃を取れ』!

A まあ、『セーラー服と機関銃』を彷彿とさせるタイトルね!

C Aさん、ちょっと古いかも(笑)。この本のテーマはズバリ「おんなごころ」!「こじらせ女子」という言葉を世に広めた雨宮まみさんの作品よ。

B 綾瀬はるかさんのドラマ出演で、ブレイク必至の「こじらせ女子」。でもその定義って、実はすっごく難しい。他人の視線と自意識の間で、絶えず揺れ動く世の「こじらせ女子」の心を優しく包んでくれるのが、この一作です。

C COURRiER Japonの井上さんは〈「こじらせ女子」とは、社会から期待される性役割を楽しめず、欲望と自意識のはざまに悩む女子たち。多くの物語では決して主役になれない彼女たちに武器を授ける、リアリスティックな処方箋。こじらせ男子=喪男の豆腐メンタルにも突き刺さります〉だって(笑)。悩める男子にも、効果てきめんのようだね。

B 月刊宝島の高岡さんも〈基本的に好きな著者なのですが、女性にとって永遠のテーマである容姿の問題に果敢にアタックし、自らの苦い経験を告白しながら自分を愛する(むしろ「許す」?)方法を模索し伝えていく誠実さ、「同志」への優しさに、男ですが感動しました〉と語っています。

A 案外癒されているのは、男子の方なのかもしれないわね(笑)。11位3作品目の紹介は岡映里さんの『境界の町で』です。境界とは何か……東京電力福島第一原子力発電所周辺で行われている検問所のことを指しています。「3・11」からの3年間、週刊誌記者だった岡さんが取材を重ね続け、福島に通いつめ、そうしてできあがった、原発被災地のリアルを描いた作品です。

B 産経新聞の書評担当さんは〈筆者が直接見たこと、聞いたことしか書かれていない。取材対象にとことん深く関わっていく一人称のノンフィクションは、自らを傷つけ、時には相手も傷つけながら、誰かと一緒に「生きていく」ことの切なさと温かさを描き出す。衝撃的デビュー作〉と高く評価しています。直接見て、直接書く。ノンフィクションの王道を踏まえつつ、かつ、常に視線は一人称。だからこそ、多くの人の心を打つのではないでしょうか。

A 今なお続く被災の現実を、まさに「ありのまま」に描いている一作ですね。ネット上では被災地の人からも、「まさに実情はその通り」だという声が多数挙がっているようです。

C 第11位最後の作品は私から紹介するね。大野更紗さんの『シャバはつらいよ』。何を隠そう大野さん、「困ってるひと」で「今年最高の本!2011」第1位に輝いた作家さんです。

B 過去の第1位受賞者2人目のランクインね。自己免疫疾患系の難病を抱えた大野さんの闘病生活を描く、「困ってるひと」の続編にあたる作品です。

C ダ・ヴィンチ編集長の関口靖彦さんは〈今回は退院後の「シャバ」で難病を抱えつつ暮らすことの困難さが描かれる。苦しい状況にあってもユーモアを失わず、なんとか生きていこうというエネルギーは前作以上。さらに、苦しむマイノリティが少しでも生きやすくなるよう社会に対して呼びかける意思が前面に出てきた〉と語っています。

A 月刊ソトコトの小西威史さんも〈前作『困ってるひと』から3年、病院を出て「シャバ」で生きていく日々。今回もエンタメ感たっぷり、日本の「福祉」の現状を教えてくれる〉と、苦しい中にもユーモアを忘れない大野さんの前向きさを支持しています。

C どんな苦しい状況下にあっても明るさを忘れちゃいけない。大野さんの本を読むたびにそのことを強く感じるね。

B 同時に「福祉国家」と言われている日本でも、マイノリティを受け入れる受け皿はまだ不十分であることを如実に浮き彫りにしているわ。他人の問題ではなく自分にも関係した問題、関係するかもしれない問題だと捉えて、一緒に考えていく姿勢が大切だと思う。

『怒り 上巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 上巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 下巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『怒り 下巻』/吉田修一/中央公論新社 /1,296円

『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円

『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円

『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円

『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円

『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円

 

本の主役も、本の読者も、女性中心の時代!?

 さて、ここまでお送りしてきました「今年最高の本!2014」、いかがだったでしょうか。今年は例年以上に、ノンフィクションの力作が多くの支持を集めていたように感じます。

B 本当に今年は、読み応えがあるノンフィクションが多かったわ。一方でフィクションであっても、どこか現実の問題を思い起こさせる作品も多かったようね。

C ランキングでは紹介できなかったけど、「もう一作選ぶとしたらコレ」という声もあった一冊を最後に紹介するね。篠田節子さんの「『長女たち』」。テーマは「介護される母、介護する娘」。日本経済新聞編集局文化部の郷原さんは〈篠田節子さんの新たな代表作の誕生。肉親、とくに母親と娘の確執は、現代日本の家族が抱える新たなアポリアだ。それにしても、日々の暮らしに男の存在がなんと薄いことか。最近のイキのいい小説からも、魅力的な男はどんどん姿を消している〉と。これも、現代日本の問題、それも女性にとって切実な問題をモチーフにした作品だね。

B 確かに小説の中に、魅力的な男性キャラクターはあまり見かけないかも……。今は女性の時代、って言ったら聞こえはいいけど、魅力的な男が減ってしまうことは女性にとっても寂しいことだわ。

A 「女性」をテーマにした作品が多数あったのも、今年の特徴でしたね。それだけ女性の生が注目されているのは確かだし、女性こそが本の読者の中心層になっていることの表れなのかもしれません。

C うんうん。でも男性にも、もっと頑張ってほしいな!

 そうですね。既成の価値観が崩れ、先の見えない今の時代。男性たちが苦境の中で何を学び、どういう力を発揮できるのかが、今一度問われているのかもしれません。

さあ来年は、どんな本が登場してくれるのでしょうか。1年後の年末、またお会いしましょう!

A、B、C 来年もよいお年を!

* * *

新聞の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

朝日新聞※順不同

『AKB48とブラック企業』/板倉章平/イースト・プレス/929円 『謝るなら、いつでもおいで』/川名壮志/集英社/1,620円 『井田真木子著作撰集』/井出真木子/里山社/3,240円 『あしたから出版社』/島田潤一郎/晶文社/1,620円 『国家緊急権』/橋爪大三郎/NHK出版/1,296円

神戸新聞※順不同

『天の梯』/高田郁/角川春樹事務所/670円 『神秘』/白石一文/毎日新聞社/2,052円 『雷の子』/島京子/編集工房ノア/2,376円 『憲法の空語を充たすために』/内田樹/かもがわ出版/972円 『千鶴さんの脚』/高階 杞一著・四元 康祐 写真/澪標/1,620円

産経新聞※順不同

『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円 『津波、写真、それから——LOST&FOUND PROJECT』/高橋宗正/赤々舎/2,808円 『スクリプターはストリッパーではありません』/白鳥あかね/国書刊行会/3,024円 『ミッキーは谷中で六時三十分』/片岡義男/講談社/1,836円 『ヒトラー演説——熱狂の真実』/高田博行/中央公論新社/950円

静岡新聞

『僕は数式で宇宙の美しさを伝えたい』/クリスティン・バーネット著・永峯涼訳/角川書店/1,836円 『ビリービンとロシア絵本の黄金時代』/田中友子/東京美術/2,592円 『荒野の古本屋』/森岡 督行/晶文社/1,620円 『軍服を着た救済者たち』/ヴォルフラム・ヴェッテ著・関口宏道訳/白水社/2,592円 『津軽 いのちの唄』/坂口昌明/ぷねうま舎/3,456円

東京新聞

『「死」を前に書く、ということ——「生」の日ばかり』/秋山駿/講談社/2,160円 『岩田宏詩集成』/岩田宏/書肆山田/4,860円 『それでも猫は出かけていく』/ハルノ 宵子/幻冬舎 /1,620円 『キャットニップ』/大島弓子/小学館/1,296円 『「本が売れない」というけれど』/永江朗/ポプラ社/842円

日本経済新聞

『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円 篠田節子著『長女たち』/新潮社/1,728円 木畑洋一著『二〇世紀の歴史』/岩波新書/929円 朝井まかて著『阿蘭陀西鶴』/講談社/1,728円 角田光代著『笹の舟で海をわたる』/毎日新聞社/1,728円

夕刊フジ

『猟師の肉は腐らない』/小泉武夫/新潮社/1,512円 『父と息子の大闘病日記』/神足裕司・裕太郎/扶桑社/1,296円 『元外務省主任分析官・佐田勇の告白ー小説・北方領土交渉』/佐藤優/徳間書店/1,728円 『最後のトリック』/深水黎一郎/河出書房新社/734円 『不幸な認知症 幸せな認知症』/上田諭/マガジンハウス/1,404円

読売新聞※順不同

『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/1,998円 『トロイアの真実』 / 大村幸弘/ 山川出版社/2,700円 『地方消滅』/増田寛也/中央公論新社/886円 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円 『編集少年 寺山修司』/久慈きみ代/論創社/4,104円 ※新聞、週刊誌、月刊誌、それぞれについて五十音順で掲載

総合週刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

サンデー毎日※順不同

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円 『炎を越えて——新宿西口バス放火事件後三十四年の軌跡』/杉原美津子/文芸春秋/1,612円 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円 『やなせたかし おとうとものがたり』/やなせたかし/フレーベル館/1,620円 『追われ者半次郎』/小杉健治/宝島社/756円

週刊朝日※順不同

『日中韓を振り回す「ナショナリズム」の正体』/半藤一利・保阪正康/東洋経済新報社/1,080円 『歴史を繰り返すな』/板野潤治・山口二郎/岩波書店/1,620円 『水声』/川上弘美/文芸春秋/1,512円

週刊アスキー※順不同

『沈みゆく帝国——スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』/ケイン岩谷ゆかり/日経BP社/2,160円 『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい』/本田哲也・田端信太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン/1,620円 『教養としてのプログラミング講座』/清水亮/中央公論新社/842円 『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』/デイヴィット・ケリー、トム・ケリー著・千葉敏生訳/日経BP社/2,052円 『懐かしのホビーパソコンガイドブック』/前田尋之/オークラ出版/1,296円

週刊現代※順不同

『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社/各1,296円 『さみしくなったら名前を呼んで』/山内マリコ/幻冬舎/1,512円 『暴露 スノーデンが私に託したファイル』/グレン・グリーンウォルド著・田口俊樹、濱野大道、武藤陽生訳/新潮社/1,836円 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円 『疒(やまいだれ)の歌』西村賢太/新潮社/1,620円

週刊プレイボーイ

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円 『イノセント・デイズ』/早見和真/新潮社/1,944円 『街場の戦場論』/内田樹/ミシマ社/1,728円 『境界の町で』/岡映里/リトル・モア/1,728円 『「サル化」する人間社会』/山極寿一/集英社インターナショナル/1,188円

週刊文春

『八月の六日間』/北村薫/角川書店/1,620円 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円 『ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち ボートに託した夢』/ダニエル・ジェイムス・ブラウン著・森内薫訳/早川書房/3,240円 『離陸』/ 絲山秋子/文芸春秋/1,890円 『少年アヤちゃん焦心日記』/少年アヤ/河出書房新社/1,490円

週刊ポスト※順不同

『酒場詩人の流儀』/吉田類/中央公論新社/842円 『曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ』/曽根中生/文遊社/4,212円 『アンダーカバー秘密調査』/真保裕一/小学館/1,944円 『星々たち』/桜木紫乃/実業之日本社/1,512円 『平凡』/角田光代/新潮社/1,512円

総合月刊誌の書評担当者が選ぶ、最高の本ランキング

WiLL※順不同

『異形の維新史』/野口武彦/草思社/1,944円 『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑りつかれた男たち』/上原善広/新潮社/2,181円 『フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠』/マイケル・モス著・本間徳子訳/日経BP社/2,160円 『死ぬ理由、生きる理由・英霊の渇く島に問う』/青山繁晴/ワニブックス/1,728円 『いま生きる「資本論」』/佐藤優/新潮社/1,404円

クーリエ・ジャポン

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』/矢部宏治/集英社インターナショナル/1,296円 『ツィッター創業物語』/ニック・ビルトン著・伏見威蕃訳/日本経済新聞社/1,944円 『若者はなぜヤクザになったのか』/廣末登/ハーベスト社/3,024円 『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ/平凡社/1,512円 『病み上がりの夜空に』/矢幡洋/講談社/1,620円

月刊宝島

『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』/加藤直樹/ころから/1,944円 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円 『女の子よ銃を取れ』雨宮まみ/平凡社//1,512円 『教養としてのプロレス』/プチ鹿島/双葉社/950円 『弱いつながり——検索ワードを探す旅』/東 浩紀/幻冬舍/1,404円

ソトコト

『わたし、解体はじめました——狩猟女子の暮らしづくり』/畠山千春/木楽舎/1,620円 『外来魚のレシピ——捕って、さばいて、食ってみた』/平坂寛/地人書館/2,160円 ミシマ社『「消費」をやめる——銭湯経済のすすめ』/平川克美/ミシマ社/1,728円 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円 『サルなりに思い出す事など——神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々』/ロバート・M・サボルスキー著・大沢章子訳/みすず書房/3,672円

ダ・ヴィンチ

『紙つなげ!——彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』/佐々涼子/早川書房/1,620円 『かないくん』/谷川俊太郎著・松本大洋 絵/東京糸井重里事務所/1,728円 『シャバはつらいよ』/大野更紗/ポプラ社/1,404円 『怪談』/小池真理子/集英社/1,512円 『江戸しぐさの正体——教育をむしばむ偽りの伝統』(講談社)/原田実/星海社/886円

中央公論※順不同

『海うそ』/ 梨木 香歩/岩波書店/1,620円 『櫛挽道守』/木内昇/集英社/1,728円 『ハンナ・アーレント』/矢野久美子/中央公論新社/885円 『鹿の王 (上)生き残った者・(下)還って行く者』/上橋菜穂子/角川書店/1,728円 『哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和』/山本一生/講談社/2,592円

日経WOMAN

『絶叫』/葉真中顕/光文社/1,944円 『てらさふ』/朝倉かすみ/文芸春秋/1,998円 『春の庭』/柴崎友香/文芸春秋/1,404円 『怒り 上巻・下巻』/吉田修一/中央公論新社/各1,296円 『出版禁止』/長江俊和/新潮社/1,944円

婦人公論

『夜は終わらない』/星野智幸/講談社/1,998円 『鳩の撃退法 上巻・下巻』/佐藤正午/小学館/各1,998円 『ドミトリーともきんす』/高野文子/中央公論新社/1,296円 『愛と暴力の戦後とその後』/赤坂真理/講談社/907円 『ぺナンブラ氏の24時間書店』ロビン・スローン著・島村浩子訳/東京創元社/2,052円

PRESIDENT※順不同

『井田真木子著作撰集』/井田真木子/里山社/3,240円 『セラピスト』/最相葉月/新潮社/1,944円 『教誨師』/堀川惠子/講談社/1,836円 『静かなる革命へのブループリント——この国の未来をつくる7つの対話』/宇野常寛 編著/河出書房新社/1,620円 『東京タクシードライバー』/山田清機/朝日新聞出版/1,512円

http://dacapo.magazineworld.jp/report/155546/

パトリス・ルコント監督インタビュー 恋愛映画の大家が明かす、 新作『暮れ逢い』映画づくりの悦楽。

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恋愛映画の大家が明かす、 新作『暮れ逢い』映画づくりの悦楽。

パトリス・ルコント監督インタビュー

『暮れ逢い』© 2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE 『暮れ逢い』© 2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE

監督業40周年を迎えるパトリス・ルコント監督。

パトリス・ルコント監督が、新作『暮れ逢い』の公開前に来日。作品の質の高さには常に定評があり、日本では『髪結いの亭主』、『仕立て屋の恋』の大ヒットから一挙にルコント・ブランドを築き上げたことで知られてきました。3Dにも挑戦した前作のアニメーション『スーサイド・ショップ』で意表を突く手腕を見せましたが、この新作は、打って変わって、と言うよりも、元の恋愛路線に立ち戻ったかのような濃厚な純愛映画です。しかも、これが、禁欲的な恋物語で、19世紀を舞台にした時代劇です。原作は『マリー・アントワネット』などのシュテファン・ツヴァイクの小説ですから、その心境いかに。なぜ、今、ツヴァイクなのか?

恋愛が容易い今こそ、『暮れ逢い』に惹かれる。

お目にかかったルコント監督、まずは私のスーツの襟を正してボン・ソワールというごあいさつをいただき、そのお茶目で素敵なムッシューぶりに圧倒されっ放しでした。

『暮れ逢い』に描かれたのは、いわゆるプラトニックラブです。今の時代は、男女が出会えば簡単にメイク・ラブできてしまってもおかしくない。しかし、第一次世界大戦の頃は、男女の関係も慎ましい。これこそが本物の恋であり、愛であるということを監督はこの作品でメッセージとして伝えたかったのでしょうか?



「耐える想いとか、熱情を溜め込んで偲ぶということ、すぐには想いを遂げられない禁欲的な感情。これを映像にしたくて、多くの恋愛映画を作ってきました。人生において、情熱をたぎらせる感情を表現するのに、一番わかり易いのが恋愛です。そう思う自分に、これぞ、と思わせたのがこの短いツヴァイクの小説でした。脚本家から勧められ読んで見たら、はまりました。この時代の恋愛は時間をかけて、実るか実らないかも分からぬままに身を焦がす。正直、『そういう恋をしてみたくないですか?』という教えを作品に込めたところがありますね。」

1912年、ドイツ。実業家カール・ホフマイスターのもとに優秀な新人フリドリック(リチャード・マッデン)がやって来る。フリドリックはカールの妻ロットにひと目で心を奪われてしまう。

1912年、ドイツ。実業家カール・ホフマイスターのもとに優秀な新人フリドリック(リチャード・マッデン)がやって来る。フリドリックはカールの妻ロットにひと目で心を奪われてしまう。

カール(アラン・リックマン)はフリドリックに目をかけるが、フリドリックの恋心は熱く燃え上がっていく。ロットに告げたのも束の間、カールからメキシコ行きを命じられる。

カール(アラン・リックマン)はフリドリックに目をかけるが、フリドリックの恋心は熱く燃え上がっていく。その思いをロットに告げたのも束の間、カールからメキシコ行きを命じられる。

フリドリックのメキシコ行きを聞きつけたロット(レベッカ・ホール)は動揺を隠せない。隠し続けていた思いを打ち明け、ドイツに戻る2年後まで変わらぬ愛を誓うことを約束する。

フリドリックのメキシコ行きを聞きつけたロット(レベッカ・ホール)は動揺を隠せない。隠し続けていた思いを打ち明け、ドイツに戻る2年後まで変わらぬ愛を誓うことを約束する。

ストイックな男女関係は、まったく古くない。

富豪のカール・ホフマイスターと若い妻シャーロット(ロット)。その関係に立ち入ってくる青年フリドリック・ザイツ。フリドリックはカールの持つ工場で働き、子息の家庭教師も頼まれ将来を嘱望されていく。本当の家族のように愛されていく中、フリドリックは若い妻 ロットへの恋慕を感じはじめ、その想いは募るばかり。次第にロットもその想いを意識し始める。カールは持病もあり、年齢的にもフリドリックに会社を任せても良いと思っていたが、若い二人の恋心に気づくと嫉妬心を隠すことが出来ない。

そんな、ありふれた古典的三角関係といったら、それまでの作品だが、それを単なるメロドラマにしていないのが、ルコント監督。耽美的な恋愛世界が繰り広げられる。

また、古めかしい三角関係が、かえって今に新鮮。ストイックさが、むしろエロチックに感じさせることに巧みなのは、今の世代や時代を逆手に取っての「読み」が効を奏したものと、うかがえます。


「欲望を持続させるということは、時代に関わらず大切なこと。決して時代遅れでなことではありません。今の時代にも大いに通じるものでしょう。」 

秘めたる恋ほど素晴らしいものはないと、監督。

それにしても、ルコント監督が、恋愛映画を撮るようになったのは、40年間のうち、いつからだったのでしょうか。

「そう言われてみると、最初の作品の数作はすべて喜劇だったんです。そして、撮っていて、すごく楽しかった。人を笑わせるって楽しいことですよ。最初の作品は、もう監督辞めてやろうかと思うほど 大変だったけれど、もう2作目からヒット作になったし、ね。(笑)」

■パトリス・ルコント監督プロフィール
Patrice Leconte, 1947年11月12日 パリ生まれ。IDHEC(L’Institut des hautes études cinématographiques)卒業後漫画雑誌『Pilote』のアシスタント、バンド・デシネの漫画家またイラストレーターとしてで働く。『仕立て屋の恋』(’89)、『リディキュール』(’96)でカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に、『フェリックスとローラ』(’00)、『親密すぎるうちあけ話』(’04)がベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品。『列車に乗った男』(’02)はヴェネツィア国際映画祭のコンペで観客賞受賞。『リディキュール』で第22回(1996年度)セザール賞作品賞と監督賞を受賞している。コメディ、ドラマ、ラブストーリー、アクションまで幅広いジャンルの映画を製作している。© 2014 by Peter Brune

強い感情を映像にするのに、恋愛映画がふさわしい。



そうしているうちにも、喜劇では表現出来ない、ある思いを感じるようになり、違うジャンルで自分の感情を思い切り表現してみたいという欲望にかられたと言う監督。それは、大きな挑戦だったとも言います。不安だらけで、確信もないままの。



「恋をしている男女を撮ること、欲望の高まるのを撮るということは、濃密な世界を作りあげることであり、それがとても映画的だと思うようになっていったんです。暴力的ではない方法で、強い感情を表現すること。それをスクリーンに映し出したい。これこそ、私自身の情熱と欲望だったのです。」

そんな時、ついに、その想いに確信を得ることが出来たのが、あの、『髪結いの亭主』だったということです。


「試写会で、友人の一人が、会場の片隅で涙を流しているではないですか。そんなにも、感動したのか聞いてみたら、『この映画に気づかされた。僕は十分に妻を愛していなかったということを』。そういう風に思ってくれる人がいるならば、僕がその映画を撮ったことは無駄じゃない、ひょっとして成功したのではと、自信を持ちました。」 




自らカメラワークに挑み、出演者たちを圧倒。

『暮れ逢い』の恋は、最初から両想い、すぐ結ばれるというわかり易い平和な恋とは違います。第一次世界大戦を経て8年間にも及ぶ秘めたる恋路は、40周年を迎える恋愛映画の大家にとって描き甲斐のあるものだったわけで、それは、作品からも醸し出されています。

当時の時代背景を再現した建物や内装や調度品、衣装はもちろん、各所に見られる色使いが美しいだけではなく、緊張感をも感じさせ、男女のストイックな関係を象徴しているかのようです。
エロチックさを越えて、息を呑むようなフェティシズムにも近い表現も随所に施され、人妻の襟足から首筋を舐めるような視線を這わせる若い男。その視線を感じているかのように微妙にうごめく肌合い……のようなカメラ・ワークが繊細で巧みです。

「私は、カメラを自分で回せなくなったら監督なんてやってませんね。自らカメラを回して演じる役者に迫っていくので、それはもう出演者は皆、いい加減な演技は出来ないんですよ(笑)。ストレートに監督と真剣勝負、といったやり方です。ロット役、『アイアンマン3』などでも知られるレベッカ・ホールにしても、然り。女優をその気にできなくては優れた恋愛映画は出来ないですからね。

監督自らカメラを回すという手法は、言わば手作りの感覚で、監督必須のこだわりのひとつ。もっと言うなら、これぞ、フェティシズム!の極み。全作品を通して、カメラ・フェチの賜物と見ましたが……。

映画の世界へ連れて行ってくれる監督たちに憧れ。

そのようなルコント監督に、監督となるための背中を押した人物は、誰なのでしょう?

「40年代、50年代のフランス映画に、もともと思い入れがあったんです。俳優ならジャン・ギャバン、監督ならジュリアン・デュヴィヴィエに代表されるような言わば、最高のロマネスクを映像化していた映画人たち。観客の手を取って映画の世界へ連れてってくれる監督たちに憧れました。でも、決定的なのが、ゴダール。そしてヌーヴェルヴァーグの担い手たちです。映画が遠い存在だったのを、自分たちに近づけてくれた感覚でした。」



そううかがうと、今回の作品は その両者が融合したかのような味わいにも思えてきました。



「どうでしょうね。自分で自分の作品を分析したことなんてないですからね。まあ、『望郷』と『勝手にしやがれ』が合わさっているということなら、うれしいですがね」
と、喜ぶ監督。 


こだわりがフェティシズムに昇華してこそ、名恋愛映画。

監督のこだわりの一つが、美しい色使い。光の方向や、ヒロインの動き方など細部への工夫によるのだとか。そのうえで、色にしても光にしても、時代劇の再現には近づけないよう、現代に通じるものを意識したそうです。そういう意図と同じく、全編に流れる音楽にも、細かに神経を使いました。ベートーベンの『ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」』を効果的に使いつつ、フランス映画音楽でその才能を知られる、ガブリエル・ヤレドの起用が注目すべきでしょう。

しかし、このような、眼に、耳に訴える静かで美しいルコント監督の最新映画は、実は激しい恋愛映画であり、時代物でありながらも新しいものに通じている。

その魅力を五感で感じとれたら最高です。

五感というなら、さらには、ヒロインが愛用していた100年の歴史を誇り、今に至る香水、『ルール・ブルー』までもが、いかに濃厚な香りであるか、匂い立って来る気さえする映画。感じとって下さい。

「つかの間の夕暮れ」という意味を持つ、この香水の存在を作品の中で印象づけたのも、ルコント監督ならではのこだわりに違いないのです。

恋愛映画の大家と言われるだけの、繊細なこだわりが痛いほど伝わって来る作品です。

『暮れ逢い』
2014年12月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

出演:レベッカ・ホール、アラン・リックマン、リチャード・マッデン
監督:パトリス・ルコント 
原作:シュテファン・ツヴァイク「Journey into the Past」
音楽:ガブリエル・ヤレド 
劇中曲:ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番ハ短調『悲愴』作品13第2楽章『アダージョ・カンタービレ』
2014年 / フランス・ベルギー / 英語 / 98分 /
原題:A Promise 
配給:コムストック・グループ 
配給協力:クロックワークス 

http://dacapo.magazineworld.jp/cinema/155763/

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